第20話 面会

 魚谷は、わたる先生の面会に訪れていた。その後、白峰円香ちゃんを襲った男が焼死した事件もわたる先生の犯行とわかり、一連の事件から死刑を求刑されていた。

 白いワイシャツを着たわたる先生が刑務官と現れる。しばらくして魚谷の前に座ると、にたにたと笑っている。

 「何か面白いことでも?」魚谷の質問にわたる先生は「特にないけど…」といってまたにやにやと笑っている。魚谷は、話を切り出した。「喜恵ちゃんは、まだ貴方の事を信じています。両親の事は、残酷すぎるのでまだ伝えられていません。毎日、わたる先生は悪くない。喜恵が頼んだだけだからと私に言うんです。」わたる先生は真っ直ぐに魚谷を見つめてこう言った。「喜恵ちゃんの言う通り。私は喜恵ちゃんの意思を優先させています。外には出られないと言ったけど、家のなかでは自由にさせていた。むしろ喜恵ちゃんの好きなようにさせていた。両親は論外として、あなたたち児童相談所は、本当に喜恵ちゃんを守れているの?何故私の方がいいと喜恵ちゃんは言うのだろう。喜恵ちゃんは、児童相談所に保護され家に帰って両親からボコボコにされて私を頼ってきた。もっと安心できる、守られていれば私のところに喜恵ちゃんは来なかったはず。犯罪者の方が頼られるなんて可笑しな話だけれど、そんな世の中なのは事実でしょう?」そう言い残して、わたる先生は魚谷の前から去っていった。

 魚谷は、わたる先生に対して何も言い返すことができず、保護された後に家に帰る子供の多くが親からひどい目にあっていることも、喜恵ちゃんがわたる先生を頼る姿も全てわたる先生の言う通りだったからだ。

 わたる先生は、人を殺した。それは、許されるものではない。しかし、彼の歪んだ信念は一人の少女を安心させ喜ばせた。もう一人の少女の性犯罪を防いだ。この事は、自分だったらできただろうか?自分を頼ってきた少女を自分だったらどうしていただろうか?性犯罪の現場に自分だったらどうしていただろうか?魚谷は、わたる先生が言うように喜恵ちゃんを守れているのか。安心させてあげられているのか。仕事というルールや規則に縛られている限られた中で安心させるのには限界があることを痛感していた。後に魚谷は、喜恵ちゃんを養子に入れ一生面倒をみると心に決意した。

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わたる先生 山葡萄 @yamabudo

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