嵐の夜に船を出せ!!

雨世界

1 嵐の夜に船を出せ

 嵐の夜に船を出せ!!


 プロローグ


 さあ、出航だ!! 帆を上げろ!!


 本編

 

 嵐の夜に船を出せ


 夜に嵐がやってくる。

 くらい、くらい、とても強い勢いを持った、激しい激しい嵐がくる。街はその嵐に備えて、ひっそりとしている。

 人気はなく、あるのはごーという世界の向こう側から吹いていくる、平穏の終わりを告げる風の音と、電信柱の影と、電柱のあかりと、そして自動販売機だけだった。


 世界はしんとしている。

 誰もいない。

 みんなが、自分の家の中にじっと、玄関のドアを閉めて、窓に鍵をかけ、シャッターを下ろし、嵐に備えて、その心と身を、じっと闇の中で横たえている。


 さあ、船を出せ。

 僕たちの出航の時間がやってきたぞ。


 嵐の夜に、そんなことを考えている不届き者の男の子が二人いる。名前は、『丸太』と『小樽』。その名前からして、嵐の夜に無謀にも、手作りのオンボロ船で船を出そうとするような名前をしている。(そして、あっという間にそのオンボロ船は嵐の中で沈没してしまうのだ。物語の中なら、たぶん、そのあと大きな鯨の胃の中に飲み込まれて……、といった具合になるのかもしれない)


 二人は夜の公園にいる。

 そこで二人は出航の時間を今か、今かと待ちわびている。


 嵐がくる。

 風がより、強くなる。

 やがて、ぽつぽつと真っ暗な夜の世界の中に雨つぶが降り出した。その雨はすぐに大きな勢いを保つ強い雨に変わった。

 まるで本当に、この辺り一面を、本当の海にでも、変えてしまうかと思うように、それは強い、本当に強い風と、雨だった。


「さあ、出航の時間だ、小樽」

 公園の丸い遊具の中に立って、丸太は言った。

「うん。いよいよだね、丸太くん」

 にっこりと笑って、暗い、土がむき出しの大地の上にしゃがみ込んだままの小樽は丸太に言った。


 嵐の夜に船を出せ。

 僕たちは、冒険を望んでいる。

 平穏を望んでなんかいないのだ。


 丸太と小樽は、お互いに手をつないで、にっこりと笑いあったあとで、「いくぞ!」「うん!」と言い合って、公園の遊具の中から飛び出して、嵐の夜の中へと走り出して言った。


 さあ、出航だ!! 帆を上げろ!!


 びしょ濡れになった、二人は、笑顔のままで、そんな言葉を強い風の中で大声で叫んだ。


 嵐が来る。

 嵐の夜には、冒険が待っている。


 手作りのオンボロ船を漕ぎ出して、嵐の夜に船を出せ!!


 人生とは、冒険だ。


 嵐の夜にこそ、勇気を出して、船を出せ。


 嵐の夜に船を出せ!! 終わり

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