第4話 泰平の・・・
とにもかくにも、徳川家康によって、天下に泰平の世の中がもたらされた。
天下泰平とは言うものの、士農工商のいわゆる封建時代に突入しただけ。
忍者の地位は、非常に曖昧なものになっていく。
元々、忍者は山中の郷士がほとんどであるが、半農半士という生活。
伊賀・甲賀でこそ武士もいたが。
そんな中、佐助はますます奥深い山での修行を行うようになっていた。
5年ほどの後、佐助は修験道の聖地、奥州出羽羽黒山にいた。
木の枝から木の枝へと飛び移り、猿の動きを真似ていた。
ついには、道具も何もないままで、空を飛ぶようになった。
こうなってしまうと、もう忍術ではなく幻術もしくは妖術である。
『とうとう魔物に堕ちたか佐助。』
才蔵は無二の親友を心配したが。
『おいおい、人のこと言
えんぞ。
お前こそ、そんなデカイ
がまがえる育てて、煙りと
共に現れたり消えたり。』
才蔵は才蔵で。
紀州大峰山系で。役行者の修行を真似ていた。
山中の沼に生息していたがまがえるに特別な餌を与え、巨大化させて、人を乗せて跳ね飛べる力を着けた。
そのがまがえるが。今才蔵の足下にいる。
『紹介しよう・・・。
蒲の介だ。』
佐助、腹を抱えて爆笑している。
『お前、いくらなんでも仲間の名前を・・・。』
由利鎌の介のことを思い出していた。
『あれは、鎌だ鎌・・・
こいつは蒲・・・。』
才蔵も同じように爆笑した。
『しかし、お互い、なんと
呑気なことよ
のぉ・・・。。』
才蔵は、しみじみと振り返った。
たしかに、ほんの数年前は親子兄弟までも、敵味方にわかれ、地みどろの戦いをしていた。
徳川家康によって天下が平定され、江戸に徳川幕府が置かれて、家康は、将軍職を秀忠に譲り、豊臣が滅亡して、泰平の世の中を迎えた。
関ヶ原の戦いからでも、まだ20数年。
世は、三代将軍家光の治世。
徳川家光は、二代将軍秀忠の次男。
母は、なんと浅井長政の末娘江姫。
ここに、浅井三姉妹の豊臣への仇討ちが完結したような出来事である。
天下万民に泰平の世が訪れたならば、問題はないはずだが、才蔵はなにやら蠢いていた。
この頃は、まだ徳川家すら、しっかりと屋台骨ができたとは言い難く、家光と将軍職を争って切腹した駿河大納言忠長卿の縁者が不穏な空気を醸し出していた。
徳川御三家も、まだ完璧とは言えず。
水戸黄門で有名な、水戸光国にいたっては生まれたばかりの赤子であった。
才蔵は、父の服部半蔵と共に江戸城の警護に当たっていた。
『儂は、徳川将軍の警護など
やりたくは、ない。』
佐助の言い分ももっともではある。
徳川と闘い敗れたとはいえ、徳川によって死んだ主君、真田幸村のことを思っている。
とはいえ、才蔵も裏切ったとは言えない。
この時代、敗北することは、敵に併合されることである。
なれば、真田は徳川に併合されなければならない。
だが。徳川四天王の一人、重臣中の重臣である本多忠長の娘婿に真田信幸がいる。
しかも、伊賀の服部家は、本能寺の変の直後、大阪から駿河に逃げ帰る家康を、山中の道案内までして助けた功によって、大名級の扱いを受けている。
江戸城に家臣の名前が付いているのは、半蔵門だけである。
家康は、それほど服部半蔵を信頼していたとうかがえる。
霧隠才蔵は、真田十勇士といえども、半蔵の跡取りである。
また、一旦忠誠を誓ったからには、という真田十勇士の働きは、家康も感服していた。
『のう、才蔵・・・
そなた、幸村を倒した儂
を恨んでおろう・・・。』
『滅相もございません。
勝った負けたは、戦国の
習いでございます。
いちいち恨んでおりましたら
家臣は勤まりません。』
家康は、なるほどと思ったものだ。
この後、才蔵は二代服部半蔵として、上野藩20万石を賜り伊賀上野城に入った。
名実共に大名となった。
猿飛佐助は、というと甲賀に帰った記録もなく、ようとして行方がわからない。
Monkey Fly 近衛源二郎 @Tanukioyaji
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