其の十二 破天荒娘の爆裂武勇伝
茂みの奥からひょっこり顔を出した『彼女』が、はぁっと大袈裟なタメ息をつく。
その後彼女はすくっと立ち上がり、片手に持っていたビニール式の携帯灰皿にタバコを押しやると、パチン、と閉封した。
肩よりもやや少し高い位置でくるん、と内巻きになっている黒髪がたゆんだように跳ねる。彼女は腰に片手をやりながら、興味の無さそうな顔で、一言ボヤいた。
「……なんだ、センセーかと思ったじゃん。びびらせないでよ――」
――
僕と同じ「1-A」組のクラスメート。
クラスのマドンナ『
僕が、『僕の平穏を脅かす可能性がある』と警戒視している人物の一人。
彼女の性格を一言で表すなら、
『破天荒』。
隠れてタバコを吸っているくらいだから、アウトローである事は間違いないのだが、須磨達のように単純に『悪びれている不良』……、とカテゴライズするには、少し『行動が特殊』過ぎる。どちらかというと、彼女はクラスの『トラブルメーカー』だった。
彼女の『悪童』っぷりは一学期から忌憚なく発揮されており、彼女が教室にやってくると、孤高のマドンナ『如月 千草』とは別の意味で、場の空気が凍りつく。
――ある時は、理科の実験で、混ぜてはいけない薬品をわざと混ぜ合わせて大爆発を起こす。
――ある時は、運動会の前日にクラスメート全員のスニーカーの靴紐を切る。
――ある時は、放送室をジャックして、昼休み中にアダルトビデオの音声を流す―。
まるで小学校高学年並みのイタズラをゲリラ的に行い、みんなが慌てふためく様をケラケラと笑いながら眺める異端の『小悪魔』。
「なぜそんな事をするんだ」と学級委員の神代や担当教師が問うても、ただ一言「面白そうだったから」としれっと言い放ち、また笑う。
――なぜ彼女が退学にならないのか。
彼女は全科目トップの成績を納める超エリートなのだ。おいそれと学校から追い出すことも出来ずに教師たちはきっと頭を悩ませている。バカと天才は紙一重ってことだろうか。彼女の思考回路には一生たどり着ける気がしない。たどり着こうとも思わない。
――とはいえ、一つ一つの悪戯がそこまで悪意のある内容ではないため、彼女の事を心の底から嫌悪しているクラスメートは少ないだろう。(気味悪がっている者が大多数なんだろうが)
ただ、『完膚なきまでの徹底的な平穏』を手に入れたい僕にとっては事情が『別』だ。彼女の存在は僕にとっては『厄災』以外の何物でもない。実際、理科室での爆発の原因は僕の『怪現象』ではないかと一瞬ヒヤリとさせられた。
――『マイナス思考』に陥る要素には、徹底的に近づきたくない。
……例えば僕が『彼女の悪戯』の『ターゲット』にされたとしたら――
――ある種、『須磨』以上に目を付けられたくない相手だ。
「――何睨んでるのよ……、私の顔、なんかヘンなモンでも付いてるってワケ?」
――ハッ、と視界が現実に引き戻される。
僕の脳みそが、全神経に警鐘を鳴らす。
『
――『最悪の取り合わせ』だ。
『爆弾』の解体を試みている最中に『ミサイル』が飛んでくるような紛争地帯に身を置く趣味は、僕には無い。
すぐにでも、彼女を『この場から退場させなければ』―――
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