冴えない幼馴染の歩みかた

まめだぬき

第1話 このプロローグは第十二・六・五話の後にお読みください

 「だって、あなたたちは、九年前、誰よりも近かった。

 セカイ系の主人公とヒロインのように、

 閉ざされた世界に逃げることができたはずだった。」


 新生「blessing software」の『冴えない彼女の育てかた』が無事に日の目を見ることができた。

 マスターアップから、サークルメンバーは解放されたという安堵に包まれ、戦いは終わったかと思われた。

 ただ、最高に冴えない彼女は、パートナーからの一言が、心の中で燻り続けていた。


       * * *


 『フィールズクロニクルXⅢ』の開発が暗礁に乗り上げていた最中、詩羽が鞄から取り出した2枚のA4用紙、不死川アンデッドマガジン掲載用短編小説の企画書が全てのきっかけであった。


 「でもあたしは、あんたが一人で悩んで、やっとのことで完成させた、純度一〇〇パーセントの霞詩子節が読みたいんだもん」


 彼女の想い人と同じ様な拒絶の言葉を耳にした時に、詩羽は戸惑いを感じた。

 約束があるとはいえ、彼女の説得、チームの再結成の為に、やっと築けた友情を壊しかねない行為に、詩羽の手は震えた。


 「あんたおかしい……頭おかしいよ……っ」


 当然の反応だった。

 純粋な憎しみをただ受け止めるしかなかった。

 詩羽は威圧に耐え、歯を食いしばり、彼女に全てを吐露させる為に。


 「あなたたちの、ねじくれ過ぎた関係は……"当たる"と思ったの」


 彼女はその一言で、心のほころびを詩羽に見せた。

 命である利き手で何度も詩羽を叩いた。

 それでも詩羽は止まれなかった。

 約束だけじゃなく、全てを終わらせるため……


 「全部、吐き出しなさい……前に進みなさい……そして……諦めなさい」


 そして、彼女を最悪の結末から救う為に。


       * * *


 「あなたと、彼がそうならなかった理由は、やっぱり、そこにあるって思っているからよ」


 すでに彼女は理解していた。

 しかし、詩羽もあえて言葉にはせずに彼女を追求していく。


 "おめでとう。あなたは、とうとうなった。

 私と同じに。

 彼の崇拝対象に。

 彼が、女の子として見ることのできない、女の子に"


 目前の危機を切り抜ける為、詩羽は彼女に、自分達の現在地を伝えた。

 近い将来、彼女が完全に壊れてしまわないように。

 想い人の想い人まで大切にする、心優しく、寂しがり屋な彼女は、放っておけば、いつしか取り返しのつかない壊れかたをする。

 徐々に壊れていけば、徐々に修復すればいい。

 それができるのは、私だけだと詩羽は自負していた。


 そして、彼女は想い人の隣でも絵が描くことが出来るようになり、『フィールズクロニクルXⅢ』の開発は一段落した。

 彼女にとっては元所属サークルの『冴えない彼女の育てかた』も無事完成したころ、詩羽の予測していた事が起こる。


 英梨々が、再び、絵を描くことができなくなってしまった。

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