別れを告げる一つのビックリマーク

雨間一晴

別れを告げる一つのビックリマーク

「やっぱり別れようかな……」


 マンションの部屋に、自分の声が寂しく響いた。寝汗で居心地の悪いベッドの上、このまま異世界にでも転送してほしい気分だった。


 恋人と同棲していたのは、もう何年前だろう。色々なことがあった……


 何度も別れ話をして、ずるずると、なんとなく月に一回くらい、どこかに遊びに行く関係だ。恋人というよりは、ただの友達と言った方が正しい。たまに部屋に来ても、素っ気なくすぐに帰るだけだ。


 何気なくメールのやり取りを確認した。なんとも素っ気ないもんだ。相手は出会った当初から、あまり文章に感情が出ないタイプだったから、関係は悪くなっても特に変わりは無い。


 私が一生懸命、下手なりに何かを作り上げて、それを誰かに褒められたと、嬉しさ抑え切れずに報告しても、ただ、『よかったね』これだけだ。今も昔もそう、顔文字もビックリマークなどの感嘆符も、ついた試しがない。


『よかったね』と『よかったね!』は、文章の世界では、まるで意味が違う。


 例えば実際に目の前で、嫌いな相手から宝くじに当たったと報告を受けた時に、どう、よかったね。と言うだろうか。


「よかったね!」


 表面上は、そう笑顔で驚きながら言うだろう。実際は、冷めた顔で「はいはい、よかったね」こう思うはずだ。相手次第では、地獄に落ちろまで思う人も少なくないだろう。これが好きな相手なら、裏の無い「よかったね!」となるはずだ。


 文章で、『よかったね』と来ると、どんな感情で言われているのか判断が付かない。どうしても冷められている、不機嫌なのかな?そんな気がしてしまうのは、私がおかしいのだろうか。ただ一つのビックリマークに人は、吐き気を覚えるほど振り回される。


 そんな事を考えていると、恋人が訪ねてきた


「おかえり、あのさ。今日は、コピー機の話を書こうと思う、こういう話にしようと思うんだけど、どう思う?」


「うん、良いんじゃない。ごめん、用事あるから」


 恋人は、早々に置いてあった荷物を取って、出て行った。


「雑……。もういいよ、帰って!」


 私は何のために、そして、なんでこんな人のために頑張ってた時期があったのだろう。初めて好きになった時、何を好きになったんだろう。今はもう分からない。


 私は『もう別れようよ』と何の記号も付けずにメールを送った。


 何年も好きだった人と別れたら泣くべきなのだろう、悲しむべきなのだろう。


 それでも私は、ただ、何だか疲れてしまった、涙も出そうにない。ただ窓から差し込む西日が痛かった。なんでいつも、こんな恋愛になるのだろう。私にも原因がある気がして頭が重い。


 いや、これで良かったんだ。前を向いて生きるって決めたんだ。ここから数日、辛いかもしれない、それでも私は止まる訳にはいかない。決意を抱き続けよう。


 いつか、この話が、ただの笑い話になる事を祈って書き残そう。頼んだぞ、未来の私。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

別れを告げる一つのビックリマーク 雨間一晴 @AmemaHitoharu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ