第100話 宝玉を手に入れました

 サミューちゃんが正気を取り戻したのち、私はみんなに前世のことや、この世界のことについて説明した。

 ゲームの世界って部分にはみんな首を傾げていた。ムートちゃん曰く、世界はいくつもあり、そうやって繋がり合っているのかもしれない、と。

 サミューちゃんもムートちゃんもカリガノちゃんも。私の話を真剣に聞いてくれ、私がこの世界で生まれ、一緒にいるのなら、それでいいと言ってくれた。


 そして、四人で【彷徨える王都 リワンダー】へと向かう。

 ムートちゃんの秘宝三つを所持し、【魔力操作】も手に入れ、前世を克服した私に、もはや死角はない!

 リワンダー全体を包み込むように浄化すれば、死霊系モンスターはすべて消えていった。

 宝玉の力で肉体を失ってからも、存在していた生き物たちが還っていったのだ。


「じょうか、よし」


 人の手が入らないまま、長年経っているから、建物は朽ちているし、やはり滅びた都であることは間違いない。

 だが、淀んでいた空気は消え、家の外壁のきれいなブルーの痕跡や、王宮の白い城壁もきらきらと輝いていた。

 魔物が消えた今、人の手が入れば、復興していけるだろう。


「さすが幼いエルフじゃのう……。この規模の浄化をして顔色一つ変えんとは。力が有り余っておるな」

「レニ様、お体の調子はどうですか?」

「うん、だいじょうぶ。いつもといっしょ」


 ガイラル領都を浄化したとき、私は【魔力暴走】状態になってしまった。

 だが、体のだるさも、眠気も、発熱も感じない。うん。確実に強くなっている。


「レニちゃー! 見てなノ! なにか光るものが飛んできてるノ!」


 カリガノちゃんが言う通り、指差した方向になにかが見えた。

 うん。すごく輝いている。そして、この光は――


「宝玉ではないか!!」


 ムートちゃんが声を上げる。

 そういえば、リワンダーが死霊系モンスターのダンジョンになってしまったのは、不死を求めた王様が、宝玉に願ったからだった。

 もしかしたら、あれは宝玉だろうか。私がリワンダーを浄化したことで、リワンダーでの役割を終え、自由になったのかもしれない。

 その宝玉がふわふわと飛び、こちらへと向かってくる。……こちらというか、私へ、と。


「まさか! 幼いエルフは二つ目の宝玉も手に入れようというのか!? ちょっとそれは戦力過多ではないか!?」


 ムートちゃんはそう言うと、私のもとへと飛んできた宝玉を掴もうとした。が、宝玉はそれを避けるようにスイスイと左右へと揺れる。

 ムートちゃんは何度かそれを繰り返し……諦めた。


「もうよい、わかった……好きにせい」


 ムートちゃんにそう声を掛けられた宝玉が私の目の前でふよふよと漂う。

 私が持っている宝玉と形が違い、クリスマスツリーのてっぺんについていそうだ。

 宝玉は一瞬そこで大きく輝いた。まぶしくて目を閉じる。

 光が消えたあと、目を開ければ、もうそこに宝玉はなくて――


「おぬしの体に入っていったわ。……宝玉を二つも手に入れるなど、前代未聞すぎるぞ」

「さすがレニ様です……!」

「レニちゃ、すごいノ!」


 とくに体に変化はない。が、二つ目の宝玉も一つ目と同様、私のそばにいてくれるのだろう。一緒に旅をする、と。きっとそういうことなのだろう。


「りわんだー、このままでいい?」


 浄化をしたはいいが、この場所はこのままでいいのだろうか。

 これまではダンジョンだったから、どの国も領土としていなかったが、もう魔物がいないのであれば、だれかが管理したほうがいい気がする。

 なので、そう言うと、サミューちゃんが頷いてくれた。


「ここの浄化が終われば、ランギルオーザ国へ報告することになっています」

「らんぎるおーざ。きゃりえすちゃんのくにだね」

「はい。ですので、このままランギルオーザ国王へと会いにいくのがいいのではないかと思います」

「うん。きゃりえすちゃんとぴおちゃんに、あいたい」


 サミューちゃんの言葉に頷く。

 リワンダーの浄化の報告のついでに、キャリエスちゃんやピオちゃんに会えたら、とてもうれしい。

 そこで、二人にもいろいろ話ができればいいな、と思う。


「ぱぱとままにも、はなしたい」


 私が変だとわかった上で、いつもそのままの私に愛を注いでくれた。

 旅に出てから、サミューちゃんを通じて報告はしているが、やっぱり直接会って話がしたい。

 エルフの森でハサノちゃんに会ったこと、エルフのみんなも元気だったこと。私の前世のことやこの世界のこと。

 自分の子どもに前世があることを、一般的な父と母がどう思うかはわからないが、二人ならば、きっと笑って受け止めてくれる気がする。


「そうですね。ランギルオーザ国の王都で浄化の報告をしたのち、一度、レニ様のお母様に会いに行くのもいいですね」

「うん」


 そして――


「また、たびにでよう」

「はい!」


 私はこの世界を目いっぱい楽しむ。

 まだまだ見ていない景色がたくさんある。それを五感でたしかめるのだ。


「世界はまだ不思議でいっぱいじゃぞ」


 ムートちゃんがニシシッと笑う。

 「うん」と頷けば、心がワクワクと弾んだ。


「強い敵もおるぞ。……嫌な人間や困ったことにも遭遇するじゃろうな」

「うん」

「それなら大丈夫なノ! カリガノも一緒に行くの!」

「ウサギ獣人がいても、まったく安心できませんが」

「酷いノ!」


 そう。きっと楽しいことだけではない。

 難しいことや、苦しいこともあるだろう。でも……。


「だいじょうぶ」


 ――最強四歳児なので!


「れににおまかせあれ!」


***


これにて完結となります。

長らくお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

また5/25に小説書籍3巻が発売となりました。お手に取ってもらえると嬉しいです。

みなさんの毎日がきらきらで溢れるよう、願いを込めて。


しっぽタヌキ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ほのぼの異世界転生デイズ~レベルカンスト、アイテム持ち越し!私は最強幼女です~ しっぽタヌキ @shippo_tanuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ