428 俺としたことが、なんという不覚……っ!
「すまない……。そこまで嫌がるとは思わなくて」
本気で嫌そうに首を横に振る俺に、ピエラッテ先輩が申し訳なさそうに詫びる。
「いえ、そんなに謝らないでください。けど、私が憧れてお近づきになりたいのは、イゼリア嬢ただおひとりなんですっ!」
ぐっ! と拳を握りしめ、きっぱりと告げる。
ヴェリアスのエスコートを受けたのも、すべてイゼリア嬢の恋を応援するため!
そう考えると、『白鳥の湖』でイゼリア嬢にオデット姫を、リオンハルトにジークフリートを演じてもらったことは、よかったかもしれない。
ジークフリート王子に恋するイゼリア嬢の演技が素晴らしくて、真に迫っていると感じていたけど、きっとあれは、心に秘めた恋心があふれていたんだろうなあ……。
くぅぅっ! 考えるだけで尊い……っ!
あ――っ! そういえば、ばたばたしていたせいで、まだシノさんから文化祭の『白鳥の湖』のビデオをもらえてない……っ!
俺としたことが、なんという不覚……っ!
これは早々にゲットしなくては……っ! むしろ、イケメンどもの部分や俺の出番はカットしてくれていいから、イゼリア嬢の部分だけ欲しい……っ!
シノさんのことだ。劇だけでなく、一組や二組の展示を観覧していた時や、一緒に昼食をとった時の写真なんかも撮ってるに違いないっ! あの二人がリオンハルト達のギャルソン姿を逃すハズがないからなっ!
可能なら、それも欲しい……っ! 探したら、もしかしたら俺とイゼリア嬢のツーショット写真があるかもしれないし!
ピエラッテ先輩のモデルが終わったら、理事長室に寄ってみようと決意する。
姉貴とシノさんが何時まで残ってるかわからないけど、イゼリア嬢やイケメンどもがいるところでは話しにくいし……。
「何か楽しいことを考えているようだね。表情がはずんでいるよ」
からかうようなピエラッテ先輩の声に、もしや考えていたことが声に出ていたかと、どきっとする。
が、キャンバスの向こうから、ソファーに座る俺を見るピエラッテ先輩のまなざしは優しくて、呆れているようには見えない。
「い、いえ、その……。イゼリア嬢のことを考えてました……」
イゼリア嬢のことを想うだけでどきどきしてしまう。
照れながら告げると、ピエラッテ先輩が満面の笑みを浮かべた。
「いいねっ、その笑顔! 私の筆もさらに軽やかになるというものだよ!」
「そういえば、ピエラッテ先輩に相談させていただきたいことがあるんです!」
俺はピエラッテ先輩に身を乗り出しかけて、モデルをしていることを思い出し、椅子に座り直す。
いかんいかん、イゼリア嬢のことを考えると、つい我を忘れちゃいそうになるんだよな。
「うん? ハルシエル嬢に相談してもらえるなんて嬉しいな。イゼリア嬢のことかな?」
キャンバスから顔を上げたピエラッテ先輩がにこりと微笑んで小首をかしげる。
くぅぅっ! 優雅な笑みといい、何でも相談てきそうな雰囲気といい、ほんと頼もしい……っ!
俺もピエラッテ先輩みたいな雰囲気を出せたら、もっとイゼリア嬢に頼っていただけるんだろうか……?
たとえ非力でもイゼリア嬢のためなら火の中水の中っ! 何でもするんで遠慮なく頼っていただきたいけれどっ!
『オルレーヌさんったら、意外に頼りになりますのね』
とイゼリア嬢に頼ってもらうためにも、頑張らなければ……っ!
それが、ピエラッテ先輩に相談すること、というのがちょっと情けないけど。
「あの、生徒会ではいま、今年の聖夜祭の飾りつけをどんな感じにするのかって話し合っているんですけれど……。なかなか『これだっ!』ていうアイデアが出てこなくて困っているんです。ピエラッテ先輩は美術的センスに優れてらっしゃいますし、何かいいアイデアが浮かんだりするかな、と……。とりあえず、結婚式みたいな華やかで荘厳な感じにしたいな、という点だけは決まっているんですけれど……」
「結婚式、かい?」
ピエラッテ先輩が意外そうに目を
「はいっ! 文化祭の時に1年組の1組の展示を見て、ゴルヴェント家に伝わる花嫁衣装を見たんですけれど、とっても素敵だったなぁと憧れてしまって……っ!」
「おや。生徒会の面々にはまったく興味がなさそうだったけれど、花嫁には憧れているんだね。そんなアンバランスなところも可愛らしいけれど」
くすり、とピエラッテ先輩が目を細めて笑う。
どうやらまぎらわしい言い方が誤解を招いてしまったらしいと察し、俺はあわててかぶりを振った。
「いえっ、違うんですっ! 私が憧れているのは、あくまでもイゼリア嬢ですっ! 花嫁衣装をお召しになったイゼリア嬢はどんなにか美しいだろうと……っ! きっと、天井の女神よりも麗しいに違いありませんっ! そんなイゼリア嬢のお姿を拝見することができたら……っ! そしていつか、イゼリア嬢の本当の結婚式で、友人代表としてイゼリア嬢からブーケをいただけたりしたら、どれほど幸せだろうかと……っ!」
頬に手を当て、身をくねらせながら、ほぅっ、と熱のこもった吐息をこぼす。
いつか、本当にそんな日が来たら、俺もう、幸せで昇天しちゃうかも……っ!
と、ピエラッテ先輩がたまらず吹き出す声が聞こえた。
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