424 俺がハルシエルとして転生したことに意味があるのなら……っ!


「……本当に、本心から言ってますの?」


「もちろんですっ!」


 間髪入れずに即答する。


「イゼリア嬢に信じていただけないなんて、哀しすぎます……っ! お願いですから、信じてくださいっ! 私の一番の願いは、イゼリア嬢がお幸せになられることなんですからっ!」


 この気持ちだけは嘘偽りがない。


 ただの男子高校生だったのに、乙女ゲームのヒロインだなんてとんでもない存在に転生して、イケメンどもにかまわれて……。


 それでも俺が絶望せずにいられたのは、この世界に最推しのイゼリア嬢がいらっしゃったからだ。


 前世では決してふれあえなかったイゼリア嬢と、こんな風に顔をあわせて言葉を交わせるばかりか、同じ生徒会役員として思い出を作れて、『キラ☆恋』では決して見ることができなかったいろいろな表情を見ることができて……っ!


 うっ、イゼリア嬢と出会えた奇跡を思うと、感動の涙が勝手に……っ!


「べ、別にオルレーヌさんのことをまったく信じていないわけではありませんわ!」


 じわりと潤んだ俺の目を見て、イゼリア嬢があわてたように口を開く。


 くうぅっ! そんなお優しいところも素晴らしすぎます……っ!


 そうっ! 『キラ☆恋』では悪役令嬢ポジだけど、本当のイゼリア嬢は真面目で優しくて恋に一生懸命な天使ですよねっ!


「イゼリア嬢に信じていただけて嬉しいです……っ! ありがとうございますっ!」


 感動を抑えられず、思わず両手でイゼリア嬢の右手をぎゅっと握る。


 ハルシエルと変わらない大きさのなめらかで柔らかい手。


 前世では決してふれることのできなかったあたたかさに、感動が止まらない。


 男子高校生だった俺が、女の子のハルシエルとして転生したことに意味があるのなら……。


 それは、イゼリア嬢と同性の親友になれるってことですよねっ!?


 親友なら、イゼリア嬢が誰と結ばれようと、ずっとおそばで応援してお支えすることができる……っ!


「イゼリア嬢、私……っ!」


 胸の中で燃える決意を口にしようとして。


「おや、今日はきみ達のほうが早かったんだね」


 リオンハルトの美声が階段の下から割って入る。


 振り向いた俺の視界に飛び込んで来たのは、きらきらしい一団だ。


 リオンハルトだけじゃない。ディオスにヴェリアス、クレイユにエキューと、イケメンどもが勢揃せいぞろいしていた。


 お前らは……っ! なんでいっつも俺とイゼリア嬢がきゃっきゃうふふと仲良くしているところに邪魔しに入ってくるんだよっ!? 俺に何か恨みでもあるのか!?


「立ち止まって、どうかしたのかい?」


 リオンハルトがにこやかに微笑んで問いかける。


「その……」


 恥ずかしげに頬を染めたイゼリア嬢が言葉を濁す。


 きゃ――っ! 照れて控えめなイゼリア嬢お可愛いらしいですっ!


 俺はここぞとばかりに、イゼリア嬢に代わってずいっと身を乗り出した。


「素晴らしいイゼリア嬢の聖夜祭のパートナーには、やっぱりリオンハルト先輩がふさわしいですよね! って話をしていたんです!」


 こうやって、周りから『お似合いの二人です』と言い続けていたら、リオンハルトだって、そのうちイゼリア嬢を意識し始めるかもっ!


 っていうか、イゼリア嬢に恋心を向けられて意識しないなんて、どれだけ鈍感なんだよっ!


 俺だったら、イゼリア嬢の想いに即座にお応えするのに……っ!


「確かに、リオンハルトとイゼリア嬢はお似合いだよね~♪」


 俺の言葉に同意したのはヴェリアスだ。


 よしっ! ヴェリアス、ナイスアシスト!


 ヴェリアスのエスコートを受ける決断をした時に、イゼリア嬢の恋が実るよう、ヴェリアスも手助けしてくれるって約束してくれたけど……。


 ヴェリアスのことだから全然期待してなかったけど、ちゃんと守ってくれるなんて見直したぜっ!


「エキューだって、そう思わない?」


「えっ!?」


 急に話を振られたエキューが戸惑った声を上げる。


 エキューがくりっとした目で恥ずかしそうにしているイゼリア嬢と、なぜか微妙に困り顔をしているリオンハルトを見比べた。


「リオンハルトに非の打ちどころがないのは、エキューも認めるだろ?」


「はいっ、それはもちろんっ!」


 問いを重ねたヴェリアスに、エキューが大きく頷く。


 だよな〜! やっぱりイゼリア嬢のお相手になるからには、イゼリア嬢にふさわしい人物じゃないとなっ!


「リオンハルト先輩は、本当に素晴らしい方ですもんねっ!」


 心から告げると、リオンハルトの顔が輝いた。


「そう言ってもらえると嬉しいな」


 ぶわっ! と大輪の薔薇が咲き誇る背景が見えそうな笑みに、なぜか、どきっと心臓が跳ねてしまう。


 い、いや、これはびっくりしただけだからっ、うん!


 っていうか、そーゆー笑顔はイゼリア嬢に向けろよっ!


 リオンハルトに微笑まれたイゼリア嬢が幸せ、幸せそうなイゼリア嬢を見て俺も幸せっていう素晴らしい流れができるんだから!


「ちょっ、ハルちゃぁん……。オレの努力をひと言で無駄にしないでよぉ〜」


 どきどきしている俺の耳に、ヴェリアスの苦い声の呟きが届いたけど……。


 えっ!? 何か余計なことをしちゃったのか!? あっ! 褒めるんなら、俺からじゃなくイゼリア嬢が褒めるべきだった……っ!?


 だよなっ!? イゼリア嬢に褒められて嬉しくならないわけがないし!


 うぅっ、つい先走っちゃったぜ……。


 ピエラッテ先輩にも俺は余計なことをしないほうがいいって言われてたけど、イゼリア嬢とリオンハルトがパートナーなのを褒めるだけでもアウトなのか……っ!? む、難しい……っ!


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