423 イゼリア嬢にお伝えしたいことが……っ!


 リオンハルトがイゼリア嬢にエスコートを申し込んだと知った数日後の放課後。


「イゼリア嬢っ! これから生徒会室へ行かれるんですよねっ!? 一緒に参りましょう!」


 生徒会室へ向かっていた俺は、階段の先の踊り場に麗しのイゼリア嬢の後ろ姿を見つけて、はずんだ声で話しかけた。


 イゼリア嬢と生徒会室に行くタイミングが合うなんて……っ! 今日の俺、超ツイてるっ!


 これはやっぱり、少しずつイゼリア嬢と親しくなれるようにと、神様が味方をしてくれているということでは……っ!?


 どきどきと俺が見守る中、足を止めたイゼリア嬢が振り返る。


 はぅわ〜〜っ! 窓から差し込む午後の光がイゼリア嬢のつややかな黒髪をきらめかせて……っ! まるで後光が差しているようですっ! まばゆすぎます……っ!


 イゼリア嬢は地上に降り立った女神様に違いありません……っ!


「オルレーヌさん?」


 イゼリア嬢のお美しさに、ひざまずいてあがたてまつりたい衝動と戦っていた俺は、はっと我に返り、あわてて踊り場まで駆け上がる。


 イゼリア嬢のおそばにいけるなんて、それだけで幸せです……っ! しかも、いまは邪魔するイケメンどももいない二人っきり……っ!


 間違ってもこのチャンスを逃すわけにはいかない……っ!


「あのっ、その……っ! 私、イゼリア嬢にお伝えしたいことが……っ!」


 せっかくのチャンスを少しでも活かそうと、しどろもどろになりながら口を開く。


 イゼリア嬢にお会いできたら、絶対に言いたいことがあったのだ。


「伝えたいこと? いったい何ですの?」


 イゼリア嬢のアイスブルーの目が、いぶかしげに細くなる。


 あれ? 今日のイゼリア嬢はあんまりご機嫌が麗しくない……?


 でも、これだけは伝えなきゃ……っ! そして、イゼリア嬢に笑顔になっていただくんだ……っ!


 イゼリア嬢と二人っきりだという幸せと緊張のあまり、頬に熱がのぼるのを感じながら、気合を込めて口を開く。


「あのっ、リオンハルト先輩のエスコート、本当におめでとうございますっ! 高貴なお二人がペアだなんて、とってもとってもお似合いですっ! 学園内で一番素敵なペアだと思いますっ! そのっ、その……っ! イゼリア嬢のお隣にふさわしいのはリオンハルト先輩だと、前々から思ってましたっ!」


 推し様のお幸せは俺の幸せ……っ! どうかイゼリア嬢の喜びを俺にも祝福させてください……っ!


 ピエラッテ先輩には、余計なことをしないようにって言われてたけど、お祝いを言うくらいなら問題ないよなっ!?


 アイスブルーの瞳を真っ直ぐに見つめ、祈るような気持ちで告げると、イゼリア嬢が驚いたように目を見開いた。


 かと思うと、ぽっと愛らしい面輪が桜色に染まる。


「え、ええ……。ありがとう……っ!」


 きゃ――っ! 頬を染めてお礼を言うイゼリア嬢が可憐すぎます――っ!


 こんな風にイゼリア嬢にお礼言っていただける日が来るなんて、好感度を上げるべく、こつこつ努力してきてよかったぁ――っ!


 いままでの努力が報われた気がしますっ!


「でも……」


 イゼリア嬢がちらりと俺に視線を向ける。


「わたくし、オルレーヌさんは、てっきりリオンハルト様にエスコートを申し込まれたいと思っているものと考えていましたわ」


 真意を探ろうとするかのようなまなざしに、俺は「とんでもありませんっ!」と千切れんばかりに首を横に振る。


「男爵家にすぎない私なんかが、第二王子であるリオンハルト先輩にエスコートしていただくなんて……っ! そんなのおそれ多すぎますっ! リオンハルト先輩だって、私を気遣ってくださるのは、単にお優しいからでしょうし……。何より!」


 両手を胸の前で組み、真っ直ぐにイゼリア嬢を見つめる。


「素晴らしいイゼリア嬢をエスコートなさるのでしたら、お相手も素晴らしい方でなくてはっ! その点、リオンハルト先輩なら、非の打ちどころがありませんっ! お二人が並んでらっしゃるところを見るだけで、うっとりしてしまいます……っ!」


 いやっ、俺が見たいのはイゼリア嬢だけだけどっ! むしろリオンハルトは添えものだけどっ!


 でも、リオンハルトが隣にいるとイゼリア嬢がさらに輝かれるとなれば、イゼリア嬢とリオンハルトのセットを認めることにためらいはない……っ!


 何より、それがイゼリア嬢のお幸せというのなら、応援しない理由があるだろうか!? いやないっ!


「きっと、聖夜祭の出席者達も皆が皆、お二人が並んでらっしゃる姿を見て、うっとりすることでしょうね……っ!」


 いつも可憐極まりないイゼリア嬢だけど、リオンハルトがそばにいる時は、本当に幸せそうに微笑んでらっしゃって、麗しさが天上まで届きそうだもんなっ! どこの女神様が降臨したのかと思うもん……っ!


 恥じらいに頬を染めるイゼリア嬢だなんて……っ! 『キラ☆恋』のイベントスチルには存在しなかった超レアなお姿っ! リオンハルトにエスコートされるだけでそれを見られるなんて、俺にはもうご褒美でしかねぇっ!


 そのためだったら、どんな努力でもしてみせるっ!


「ああっ! その姿を想像するだけで、私もうっとりしてしまいます……っ! どれほどお美しいイゼリア嬢を拝見できるでしょう……っ! 楽しみで仕方がありませんっ!」


 ジョエスさんが素晴らしいドレスを仕立ててくれるのは間違いないしなっ!


 うんっ! これは、事前にシノさんに『イケメンどもだけじゃなく、イゼリア嬢もしっかりしっかり撮ってくださいねっ!』って頼んでおかなくっちゃ……っ!


 この喜びを少しでもお伝えしようと身を乗り出すが、イゼリア嬢はいぶかしげな表情のままだ。


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