422 イゼリア嬢のパートナーは……っ!?
ハラハラしている俺をよそに、ヴェリアスがあっけらかんと言を継ぐ。
「ほら、ファーストダンスが終わったあとのダンスの順番を決めなきゃいけないじゃん? イゼリア嬢のパートナーが決定してるなら、今日で調整できるかな~って思ってさ」
おお……っ! 口実までちゃんと用意してるなんて、ちょっと見直したぞ!
せっかくヴェリアスが口火を切ってくれたので、ここぞとばかりに俺も乗っかる。
「あ、あの、イゼリア嬢のパートナーが決まってらっしゃるのなら、お教えいただいてもよろしいですか……っ!?」
もし、リオンハルトがまだだなんて答えたら、生徒会が終わった後でこんこんと説教してやる……っ!
そんな決意を固めながら尋ねると、俺の不安とは裏腹に、尋ねた瞬間、イゼリア嬢の頬がぽっと薄紅色に染まった。
「わ、わたくしのパートナーは、その……っ」
おろおろと視線をさまよわせたイゼリア嬢が見上げたのは、もちろんリオンハルトだ。
視線を受け止めたリオンハルトが、イゼリア嬢に優雅に微笑み返す。
「イゼリア嬢のパートナーは、わたしが務めさせてもらうことになったよ」
よぉ――しっ! よくやった! リオンハルト! 俺がヴェリアスのエスコートを受けた甲斐があった……っ! 俺の選択に一片の悔いなし!
「ええ、そうですの……っ!」
リオンハルトの言葉に、イゼリア嬢がこくんと頷く。
頬を染め、恥ずかしげに、けれども嬉しげに声をはずませるイゼリア嬢は、この上なく幸せそうで――。
見ている俺にまで幸せのあまり、天に昇りそうになる。
も――っ! 頬を染めて恥じらうイゼリア嬢が可憐すぎます――っ!
この愛らしさ、まさに国宝級……っ! いやっ! イゼリア嬢の可憐さは、国レベルじゃ不足っ! これは世界遺産登録も待ったなし!? いや、宇宙レベルと言ってもいいかも……っ!
誰もがイゼリア嬢を崇め奉れるように、ここにイゼリア嬢の可憐さを
ご神体は有名彫刻家のジェケロット氏に、微笑むイゼリア嬢を永遠にとどめておけるように刻んでいただいて、彫刻を毎日清掃する大神官は俺でっ!
人類の至宝を讃えるためには、それくらいしなきゃ……っ! あぁぁっ、俺に
いまほど俺の経済力のなさを嘆いたことはないぜ……っ!
「そういえば、ハルちゃんはドレスのデザインのほうは進んでるワケ?」
イゼリア嬢の素晴らしさを布教する手段を考えていた俺は、ヴェリアスの声にようやく現実に返る。
興奮していたせいで、ヴェリアスの言葉なんてまったく耳に入っていなかった。
「へっ? 何ですか?」
きょとんと首をかしげた俺の顔を、「だからさぁ~」とヴェリアスが覗き込む。
「ハルちゃんのドレスの進捗はどうなってるのかな~って♪ せっかくオレがエスコートするんだからさ。まだ変更が可能なら、二人の衣装の装飾とか、同じモチーフで揃えたいよね♪」
「はいっ!? なんで揃える必要があるんですかっ!?」
すっとんきょうな声を上げて言い返す。
いやマジで意味がわかんないんだけどっ! なんでわざわざヴェリアスと衣装を揃えないといけないんだよっ!? さらにパートナー感が増しちゃうじゃねぇかっ!
断固拒否! という気持ちを込めてかぶりを振った俺に、ヴェリアスが楽しげに目を細める。
「も〜っ! ハルちゃんったら照れ屋なんだから♪ せっかくの聖夜祭のダンスパーティーなんだし、誰が見てもオレとハルちゃんがパートナーってわかるように揃えようよ♪」
何だよその罰ゲーム! ヴェリアスが教室に迎えに来たせいでただでさえ目立ってるのに、そんなことをした日には、学園内でどんなろくでもない噂が流れることか……っ! 絶対ぜったい嫌だっ!
「照れてませんっ! 心からお断りしたいだけですっ!」
俺がおそろいにしたいのはお前じゃなくてイゼリア嬢なんだよっ! ……イゼリア嬢ご本人に断られたから、それについては泣く泣く諦めたケドさ……。
「それに、踊るのはヴェリアス先輩とだけじゃないんですから! ヴェリアス先輩の衣装とだけあわせたら、ディオス先輩達に悪いでしょう!?」
「ハルシエル……っ!」
俺の言葉に、ディオスやクレイユ、エキューが嬉しそうに目を輝かせる。
「ありがとう、ハルシエル。そんな風に気遣ってもらえるなんて、嬉しいよ。……おかげで、少しは立ち直れそうだ」
ディオスが精悍な面輪をほっとゆるめれば、クレイユが、
「ハルシエル嬢……。いまのでようやく正しい理解が進んだよ。つまり、きみがヴェリアス先輩のエスコートを受けたのは、純粋に『早い者勝ち』だったというだけで、他意はないというわけだね」
と、やたらと『早い者勝ち』を強調して、くいと銀縁眼鏡を上げる。
いやだから、さっきもそう言っただろ!
いやまあ、ヴェリアスの『イゼリア嬢とリオンハルトのことを応援してくれる』っていう約束にほいほいつられたから、他意はないかと言われたら、ちょっと微妙かもだけど……。
「僕達のことも思いやってくれて嬉しいな! ありがとうっ、ハルシエルちゃん!」
天使な笑顔でにぱっと笑ったエキューが、ちょっと照れたようにはにかむ。
「僕だって、ハルシエルちゃんとお揃いの衣装にできたら嬉しいなって、ちょっと考えてはいたけど……」
エキューの言葉に、クレイユとディオスが大きく頷く。
いや、ちょっと待て! ヴェリアスとお揃いにする気はまったくないけど、だからといって、エキューやディオス達とあわせるとも言ってないからなっ!?
内心で焦る俺に、ヴェリアスがあわてたような声を上げる。
「ちょっ、ハルちゃんってばほんと天然小悪魔すぎない!?」
「へっ? 悪魔っぽいドレスになんて、するわけないじゃないですか! オディールのモノトーンの衣装だって、前に反対されましたし……」
そのせいでジョエスさんに新しくドレスを作ってもらわないといけないことになったっていうのに、ヴェリアスは何を言い出すのか。
きょとんを返すと、
「いや、そーゆーイミじゃなくて……」
と、ヴェリアスが苦笑する。
「まぁでも、当日のハルちゃんのエスコートはオレで決まりだからね♪ あ~っ、ほんと、ハルちゃんのドレス姿、楽しみだな~♪ 当日は、オレがしっかりエスコートするから任せといてね♪」
うきうきと声をはずませるヴェリアスは、一見、本気でそう思っているように見えるが、ヴェリアスのことだ。これも冗談に決まってる。
っていうか、イゼリア嬢がリオンハルトに誘われたってわかったからには、俺のエスコートはもう、どうでもいいんだけど……。
「よし、ではファーストダンスの相手はエスコートするヴェリアスで仕方がないとして、セカンドダンス以降の順番を決めないといけないな……っ!」
やたらと気合の入った様子のディオスの言葉に、これまた真剣な面持ちでクレイユとエキューが頷く。
三人とも、すごいやる気だ……っ!
聖夜祭での生徒会役員のダンスって、そんなに大事な見せ場なのか……。
よしっ、だったら俺もイゼリア嬢に認めてもらえるように、華麗なダンスを決めてみせるぜっ!
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