413 ピエラッテ先輩にもう一度相談してみよう!
「ピエラッテ先輩っ! 私がイゼリア嬢のためにできることは、本当に何もないんでしょうか……っ!?」
翌週、モデルをするために美術室に行くなり、俺はピエラッテ先輩に
更衣室でオディールの衣装への着替えを手伝ってくれていたピエラッテ先輩が、俺の質問に目を
「何かあったのかい?」
「いえ、特に何かあったわけではなくて……。そのっ、余計なことをせず見守るようにってピエラッテ先輩にアドバイスをいただいて、それを破る気はないんですけど……。でも、イゼリア嬢の切ないお気持ちを考えるとじっとしていられなくて……っ! ささいなことでもいいんですっ! 何か、私がイゼリア嬢のためにできることはありませんかっ!?」
真摯に問いかけた俺に、ピエラッテ先輩が困ったように眉を寄せる。
「うーん。なかなか難しい質問だねぇ」
「ピエラッテ先輩でも、そうなんですか……」
頼りになるピエラッテ先輩がこう言うからには、言葉どおり難しいんだろう。
しゅんと肩を落とすと、慰めるようにピエラッテ先輩に肩を叩かれた。
「まぁでも、きみに頼ってもらえたのは嬉しいからね。私も考えてみよう。今日は、モデルが終わった頃に、ジョエス氏がデザイン画を持ってくると言っていたよ。きみの時間さえよければ、クラブの後に三人で話そうか。余計な騒動を起こさないためにも、部員がいるところで大っぴらに話さないほうがよいだろうからね」
「それは確かにそうですね」
今日は美術部の活動日なので、他の部員も大勢いる。
イゼリア嬢がリオンハルトに恋していることを大勢に知られて、万が一、変な噂を立てられることになったら目も当てられない。イゼリア嬢にご迷惑をおかけするなんて、言語道断だ。
相手が、学園でも絶大な人気を誇るひとりであるばかりか第二王子でもあるリオンハルトだけに、きっと大騒ぎになるに違いない。
リオンハルトに恋している女生徒は、イゼリア嬢以外にも大勢いるだろう。
まあでも、イゼリア嬢が美貌も気品も能力も家柄も、王族に嫁ぐに最もふさわしいに決まってるだろうけど!
ピエラッテ先輩に連れられ、更衣室から出ると、部員達の視線がオディールの衣装を着た俺に集中した。
っていうか……。
「ピエラッテ先輩、なんか部員が増えてません……?」
俺の問いにピエラッテ先輩が苦笑する。
「仮入部の生徒が多いけどね。きみが美術部でモデルを務めてくれる件と、先日の生徒会役員の面々が見学に来てスケッチしたことが広まっているらしくて……。びっくりするほど入部希望者が増えたんだよ。きみの人気は驚くばかりだね」
「へっ? 増えたのはイゼリア嬢やリオンハルト先輩達の人気のおかげじゃないんですか? 次また来られるかと言われたら、かなり可能性は低いと思うので、入部希望者には申し訳ないですけど……」
きょとんと返すとピエラッテ先輩が驚いたように目を
「何を言うんだい? 仮入部した部員のほとんどは、ハルシエル嬢がモデルになっていることを聞きつけたからだと思うよ? きみは……。本当に面白いね。これほど本人と周りの認識がズレていることも、そうないんじゃないかな」
悪戯っぽく片目をつむったピエラッテ先輩が言を継ぐ。
「けれど、そんなアンバランスなところもきみの魅力のひとつかもしれないね。危なっかしくて、目が離せなくなる」
ピエラッテ先輩に目を覗き込まれ、どきりと心臓が跳ねる。
「そんなきみの魅力をぜひともキャンバスに表したいね。今日も、よろしくお願いするよ」
「は、はい……っ」
ピエラッテ先輩って、ひょっとしてイケメンども並に破壊力が高いんじゃないだろうか。
そんなことを思いながら、俺は段上のソファーに腰かけた。
◇ ◇ ◇
「さあっ、ハルシエルお嬢様っ! お好きなデザインをお選びくださいませっ!」
美術部のモデルが終わって、制服に着替えたあと。
ピエラッテ先輩以外の部員は帰ってがらんとした美術室の片隅に置かれた机で、向かいに座るジョエスさんが紙の束を手に、立ち上がりそうなほどの勢いで俺に身を乗り出した。
ジョエスさんの熱意に気圧されて、思わず腰が引けてしまいそうになる。
「あ、ありがとうございます……。拝見しますね」
もともと、俺自身は聖夜祭のドレスにさほど興味があるわけじゃない。むしろ、リオンハルト達に説得されるまでは制服で参加しようと思っていたくらいだ。
それなのに、仕事とはいえこんなに熱心にドレス制作に取り組んでくれているジョエスさんに、申し訳ない気持ちが湧いてしまう。
その気持ちをごまかすように、俺は手渡された紙の束に目を落とした。
っていうか、デザイン画なんてせいぜい数枚だと思ってたのに、なんかやたらと分厚くない、これ?
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