412 何としても推し様の応援をしたい……っ!
「はぁぁ~っ、イゼリア嬢のお役に立ちたいのに……っ! それと知られず恋の応援をするって、超難しい……っ!」
生徒会での試食を終えて帰宅し、夕飯やお風呂を済ませんて自室に戻ってきた俺は、ベッドに腰かけ、大きくため息をついた。
ちなみに、試食のあとであまった肉料理は、もらってもいいということだったので、シノさんに容器に詰めてもらって持って帰った。
ふだん滅多に食べる機会のない高級な肉料理に、家族全員が驚き、喜んだのは言うまでもない。
明日のお弁当には家政婦のマーサさんがまだ残ってる料理をアレンジして入れてくれるって言ってたし、楽しみでしょうがない。
って、おいしい料理に浮かれてる場合じゃなくて!
「ピエラッテ先輩は、余計なことをしないほうがいいって言ってたけど……」
ぽふん、とベッドに寝転がり、胸の中のもやもやを抱き寄せるように枕を抱きしめ、顔を埋める。
ピエラッテ先輩のせっかくのアドバイスを無にする気なんてない。けれど。
「何にもイゼリア嬢のお役に立てないなんて、寂しいよな……」
俺の勝手なワガママだってわかってる。
イゼリア嬢への想いは俺の一方的なもので、そもそもイゼリア嬢は応援なんて望んでいないかもしれないって。
「でも……」
もぞりと枕元に手を伸ばし、テープレコーダーの再生ボタンを押す。
すぐに流れ出したのは、イゼリア嬢の『ラ・ロマイエル恋愛詩集』の朗読だ。
「尊いぃぃぃぃ~っ!」
聞いた途端、胸がきゅぅっと締めつけられ、居ても立っても居られなくて、枕を抱きしめてベッドの上をごろごろ転がる。
無理。まじでヤバイ。俺、そのうち心臓が壊れちゃうかも……っ!
冴え渡る月の光のように澄んだイゼリア嬢のお声は、あふれんばかりの切なさを宿していて、聞くだけで、わずかなりともイゼリア嬢のお力になりたいと心の底から願ってしまう。
大切なイゼリア嬢には、叶うことなら、いつも笑顔でいていただきたい……っ!
「イゼリア嬢……」
小声で呟いた俺は、むくりと身を起こし、もう一度、枕元に手を伸ばす。
そっと手に取ったのは、どこからどう見ても庶民な俺の部屋には似つかわしくない、明らかに高価そうな細長い箱だ。
ぱかりと開けた箱に入っていたのは、『クレエ・アティーユ』で作ったオーダーペンだ。
ペンができあがって以来、寝る前のひととき、イゼリア嬢とおそろいと言っても過言ではないペンを愛でるのは、俺の習慣になっている。
イゼリア嬢がリオンハルトに恋していると知った昨日だって、このペンを見ながら、イゼリア嬢の恋を応援する決意を改めて固めたのだ。
「はぁぁ~っ、何度見ても素晴らしい……っ!」
薔薇の花の陰からぴょこんと顔を覗かせている黒うさぎを見た途端、にへへ、と無意識に顔がゆるんでしまう。
この黒うさぎは、もちろんイゼリア嬢をイメージしたものだ。イゼリア嬢のつややかな
(イゼリア嬢が俺と同じく黒うさぎを選ばれたのも、自分の髪の色からなのかな……? あれ? ということは……)
ふと、俺の脳裏にとある考えが浮かぶ。
俺が黒うさぎをイゼリア嬢に見立てたように、イゼリア嬢も黒うさぎを自分だと考えたのだとしたら……。
まぶたを閉じ、目に焼きつけたイゼリア嬢がデザインしたペンを思い描く。
大切そうに一輪の薔薇を抱きしめていた黒うさぎ。
薔薇は全員のペンに用いられているモチーフだ。けれど、生徒会のメンバーの中で誰をあらわすのかといえば――王族であるリオンハルトになる。
たった一輪だけの薔薇を大切そうに抱きしめる黒うさぎ。
あのペンは……。イゼリア嬢が自分の思いを人知れずあらわしたものなんじゃないだろうか。
どうかリオンハルトへの思いが実りますようにと、祈るような気持ちで。
「イゼリア嬢はそれほどまでリオンハルトのことを……っ!」
気づいてしまった途端、声が震える。
ずっと使い続ける『クレエ・アティーユ』のペンにそんな祈りを込めるなんて……っ!
イゼリア嬢がどれほど深くリオンハルトに恋しているのか、思いがけず知ってしまって、感動に胸が震える。
これほどいじらしくてけなげなイゼリア嬢を放っておくなんて、天地がひっくり返っても俺にはできない……っ!
推し様に恋する相手がいることに、ショックがないわけではない。
けれど、そもそもイゼリア嬢の親友ポジションを目指している俺にとっては、たとえイゼリア嬢に恋人ができたとしても、親友なら関係なし!
それよりも、イゼリア嬢が幸せになってくださることが何より大事だし!
むしろ、イゼリア嬢の恋を応援することでさらに友情を深めたい……っ! んだけど……。
「……ほんと、俺には何ができるんだろう……?」
今日は見事に失敗してしまった。余計なことをしないようにとピエラッテ先輩に言われていたにもかかわらず、勝手なことをしたせいだろうか。
「でもなぁ〜。ピエラッテ先輩の言うこともわかるけど、じっとしてらんないんだよなぁ……」
はぁっともう一度ため息をつく。
「次にピエラッテ先輩のモデルをする時に、もう一回相談してみるか……」
俺がひとりであれこれ悩むより、そちらのほうがいいに決まってる。
うんうんと自分の心をなだめ、俺は脳内でイゼリア嬢の朗読を
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