402 イゼリア嬢が朗読した詩は――。
「すみません、ピエラッテ先輩がおっしゃりたいことがさっぱりわからなくて……っ。あの、ヒントをいただけませんかっ!?」
がばりと頭を下げると、「うーん」と、困ったようなピエラッテ先輩の声が聞こえた。
「私の勘違いという可能性がまったくないわけではないし、できることならハルシエル嬢自身で気づいたほうがいいと思うんだけれどね……。ハルシエル嬢は当然、イゼリア嬢が『ラ・ロマイエル恋愛詩集』を朗読したのを聞いたんだろう?」
「もちろんですっ! お隣で天上の調べをしっかりと聞かせていただきました……っ!」
ピエラッテ先輩の問いかけに、首がもげそうなほど何度も頷く。
おととい録音したイゼリア嬢の朗読を加えた生徒会役員達による『ラ・ロマイエル恋愛詩集』の朗読テープは、シノさんの尽力により、さっそく昨日から校内の売店で発売された。
生徒会の面々には、シノさんから無料で手渡しされたので、昨夜は家でイゼリア嬢が朗読された部分を何度もリピートしまくって、尊さに
いまでもほんのわずかに意識すれば、脳内でイゼリア嬢の美声が流れ出すくらいだ。
ちなみに、俺は行かなかったので伝え聞いただけだが、昨日の売店の混雑っぷりはすさまじかったらしい。
昨日から販売すると特に噂したわけではないのに、どこから話が広まったのか、「もしや聖エトワール学園の全校生徒が集まったのでは!?」と思えるほどの人が集まり、昨日用意していた分のテープはあっという間に完売。シノさんがあらかじめ用意していた予約整理券を配ることでなんとか暴動は起こらなかったらしい。
イケメンどもの人気のすさまじさを改めて思い知った気がする。
が、ピエラッテ先輩が言わんとすることに、朗読テープがどうつながってくるのだろう。
疑問を浮かべた俺の表情を読んだかのように、ピエラッテ先輩が言を継ぐ。
「幸い、手に入れた後輩の厚意で、私もテープを聞くことができたのだけれどね。ハルシエル嬢は、イゼリア嬢が選んだ詩を聞いて、どんな感想を抱いたのかな? ああ、言っておくけれど、朗読の上手い下手ではなくて、選んだ詩の内容についてだよ?」
「それ、は……」
ピエラッテ先輩の問いかけに思わず口ごもる。
正直なところ、イゼリア嬢が読まれた詩は、俺には意外な選択に感じられた。
華やかなイゼリア嬢なら、恋の喜びを
けれど、実際にイゼリア嬢が朗読した詩は、振り向いてくれない想い人にそれでも寄り添おうとする切ない片思いの詩で……。
『あなたのまなざしが
他の花にそそがれていると知っていても
わたしはあなたの足元でひっそりと蕾を揺らす』
イゼリア嬢の澄んだ声音を思い返すだけで、俺の胸まで切なさにきゅっと締めつけられてしまう。
思いが届かない片思いの切なさは、俺だって身に染みて知っている。
もしあの朗読が俺への隠れたメッセージで、
『オルレーヌさん。あなたの思いは知ってましてよ。あなたはいつもわたくしに寄り添ってくれていますもの。恥ずかしがらずに、勇気を出して一歩踏み込んでくださってもよろしくてよ?』
なんて意図が込められていたら、狂喜乱舞して、『イゼリア嬢のお気持ちは十二分に承知しております! 嬉しいです……っ! 遠回しじゃなく、もっとストレートにお伝えくださって大丈夫ですから!』とイゼリア嬢を抱きしめたいくらいだけど……。
はからずも隣で拝聴することになったとはいえ、さすがに、俺へのメッセージだとは思っていない。
二日前、イゼリア嬢は『ラ・ロマイエル恋愛詩集』に
ということは、あらかじめあの詩を読もうと決めていたということだ。急に俺が隣に座ったのは、イゼリア嬢の予想の中にはなかっただろう。
じゃあ、どうしてイゼリア嬢はあの詩を読もうと決めたのか……。
ピエラッテ先輩が俺に問いかけたいこともそこだろう。
俺は唇を引き結んで思考を巡らせる。
朗読テープ全体のイメージを損なわないためとか……?
俺やイケメンどもが読んだ詩は、片想いの切ない心情を謳ったものばかりっだった。そもそも、『ラ・ロマイエル恋愛詩集』自体が、身分違いの女性に恋してしまった切ない心情を綴ったものなので、片思いの詩が多いと言われたら、そのとおりなんだけど。
でも、そんな理由なら、ピエラッテ先輩は俺に質問しないと思う。何より、イゼリア嬢の朗読はあふれんばかりの心情がこもっていて、単にお気に入りの詩を読んだだけとは思えなかった。
ということは、つまり……。
嵐が来る直前の黒雲のように、俺の心の中でむくむくと疑惑が大きくなってゆく。
……イゼリア嬢も、もしかして誰かに切ない片思いを……っ!?
考えた途端、どくんっ! と壊れるんじゃないかと思うほど、心臓が大きく
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