男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
385 ピエラッテ先輩はイケメン達に興味がないんですか?
385 ピエラッテ先輩はイケメン達に興味がないんですか?
助けの手が伸びたのはピエラッテ先輩からだった。
「魅力的な申し出だけど、遠慮させてもらうよ。二人も描くと時間がかかってしまうからね。生徒会の面々は聖夜祭の準備で忙しいだろう? だというのに、長時間拘束しては申し訳ないからね」
ピエラッテ先輩の言葉に、クレイユが不承不承頷く。
「それは……。ピエラッテ先輩のおっしゃるとおりですね」
よかった――っ! クレイユと二人でモデルを務めることにならなくて!
二人でくっついて長時間いるなんて、気を遣うもんな!
「安心してくれ。モデル用の更衣室が美術室の中にあるからね。オディールの衣装もすでに借りてきてある」
俺に手を差し出したピエラッテ先輩が、にっこりと笑う。
「着替えを手伝うよ。さあ、行こう」
「ですが、先輩に手伝っていただくのは申し訳ない気が……」
遠慮する俺に、ピエラッテ先輩はからりと笑う。
「気にしなくていい。髪のセットなどはひとりでは大変だろう。それに、他の部員達は、別のことにきもそぞろらしいからね」
窓を振り返ったピエラッテ先輩がくすりと笑う。
確かに、他の令嬢達はイケメンどもを見るのに夢中で、手伝いどころじゃなさそうだ。
そういえば、ピエラッテ先輩だけは、イケメンどもに全然興味がなさそうだよな……。
更衣室へ案内してもらいながらふと気づく。
イケメンども全員を歯牙にもかけないなんて、学園の女生徒の中では、かなり珍しい部類だろう。いや、俺が知る中では唯一と言っていい。
「ピエラッテ先輩は、リオンハルト先輩達に興味がないんですか?」
好奇心が抑えられず、『白鳥の湖』のクライマックスの時に着た白と黒のアシンメトリーのドレスの着替えを手伝ってもらいながら尋ねると、「ああ、特に興味はないね」とあっさりと頷かれた。
「まあ、見目麗しいから、モデルとしては申し分ないんだが……。私は男性より女性を描くほうが得意でね」
不意に、俺の顔を間近で覗き込んだピエラッテ先輩が、くすりと笑う。
「特に、きみみたいな可愛い女の子をね」
「っ!?」
肩口で切り揃えたストレートの髪といい、
ピエラッテ先輩も、イゼリア嬢やシノさんと同じ、俺の好みのクールビューティ系なんだよなぁ……。
いえっ、もちろん俺はイゼリア嬢ひとすじですけどっ!
「私のことを『お姉様』と呼んでくれてもいいんだよ?」
表情だけは真剣に、急にピエラッテ先輩が急に冗談をぶっこんでくる。
乙女像を貸し出してもらう代わりに、モデルを務める交渉をした時にも、
『入学当初から、きみのことは気になっていたんだよ。なかなか話しかける機会は得られなかったんだけれどね。妖精のように可憐な容姿でありながら、それを鼻にかけるところはまったくなく、あの生徒会の面々に熱い視線を送られながら、いまだに誰ともつきあっていないという……。きみの愛らしさについ見過ごしがちになってしまうけれど、性格のほうも時には可憐な乙女かと思いきや、時に驚くほど男らしいという噂を聞いたよ。わたしは外見と中身にギャップがある人物に特に
と、真面目な顔で
『というか、本当にきみの顔が好みでね!
って言ってたけど、ときどき真顔で冗談を言うところが、いまひとつ性格が掴めない要因のひとつなんだよなぁ……。独特の空気感があるっていうか。
「すみませんが、遠慮させていただきます」
ピエラッテ先輩の申し出を、俺は丁重にお断りする。
姉貴が超傍迷惑な腐女子大魔王なせいで、『姉』っていう存在に本能的に忌避感を抱いちゃうというか……。
まあ、ピエラッテ先輩も、単なる冗談なのに俺が真面目に受け取ったら困るだろうしな。
「ふむ、断られてしまったか……。残念極まりないな」
本心ではそう思っていないだろうが、言葉だけは残念そうにピエラッテ先輩が吐息する。
「ひょっとしたらと、
俺の顔を覗き込んだまま、ピエラッテ先輩が告げる。その口調は、確認というより断言だ。
くすり、と笑みをこぼしたピエラッテ先輩が言を継ぐ。
「きみが熱い視線を向けている先は――イゼリア嬢だね?」
「っ!? そうですっ! イゼリア嬢は憧れの方なんです! 見目麗しいだけじゃないんですよっ! ちょっと言い方が厳しいので誤解されがちなところはありますけれど、言葉の裏には深い思いやりがあって、
「……なるほど。きみは心からイゼリア嬢を敬愛しているみたいだね」
ピエラッテ先輩の落ち着いた声音に、はっと我に返る。
し、しまった……っ! イゼリア嬢への推し語りをできる相手なんて皆無だから、つい熱く語っちゃったぜ……っ!
「す、すみません……。突然勢いよく……」
おろおろと謝ると、驚くほど優しい笑みが返ってきた。
「何を謝ることがあるんだい? 好きなものを好きと言って、悪いことなんて何ひとつないだろう?」
「ピエラッテ先輩……っ!」
柔らかな声音に思わず感動の声が洩れる。と、ピエラッテ先輩が腕を組んで眉を寄せた。
「だが、となると……」
「ピエラッテ先輩? どうかしたんですか?」
突然、ぶつぶつと呟き出した先輩に驚いて声をかける。
「いや、気にしないでくれたまえ。大丈夫だ。きみに悪いようにはしないさ」
「はあ……?」
わけもわからぬまま、俺は頷き、準備を手伝ってくれる先輩になされるがままになっていたのだが。
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