これ以上イベントは起こさねぇっ! 目標達成なるか!? 聖夜祭準備編

376 クライマックスのイベントを起こす気なんざ欠片もねぇっ!


 文化祭が終われば、次に待つ一大イベントは『キラ☆恋』のクライマックスである聖夜祭だ。


 が、それまでには期末テストもあるし、文化祭が終わったからといって、すぐに聖夜祭の準備が大々的に始まるわけじゃない。


 文化祭の翌週。放課後生徒会室に集まって文化祭の反省会をしたあとの空気は、ひと仕事終えたあとの気だるい雰囲気にゆるんでいた。


「いやあ、本当にみんなお疲れだったね。だが、おかげで素晴らしい文化祭になったよ」


 紅茶のカップを皿に置いた姉貴が、しみじみとした口調で俺達をねぎらってくれる。


 メイド服のシノさんを背後に控えさせ、優雅に微笑む姉貴は、一見、上品な紳士そのものだけど、姉貴の目の奥の猛禽類もうきんるいみたいな光を見ればわかる……っ!


 絶対、心の中でが『素晴らしい()文化祭になったよ』って言っただろ……っ!?


 シノさんに密かにかつたっぷりとお宝映像を撮らせたに違いない……っ!


 イケメンどもの映像なんてどうでもいいから、イゼリア嬢が映ってるところだけ超欲しい〜〜〜〜っ!


 が、下手に言い出せば、腐女子大魔王な姉貴にどんな無理難題を言われるのか、恐ろしくて仕方がない。


 『キラ☆恋』では、クライマックスの聖夜祭で、その時、一番好感度が高い攻略対象から告白されるイベントがある。


 が、俺はもちろんそんなイベントを起こさせる気なんて、これっぽっちもねえ……っ!


 そもそも、イケメンどもの好感度を上げる行動なんてしてないし!


 俺が好感度を上げたい相手はイゼリア嬢だけなんだよ……っ! イケメンどもはお呼びじゃねぇ――っ!


 いまは二学期半ばの十月末。聖夜祭まではあと一ヶ月半ほどあるけど、その間もイケメンどもとできるだけイベントを起こさないよう、気をつけるに越したことはないだろう。


 聖夜祭が『キラ☆恋』クライマックスということは、裏を返せば、そのあとはゲームは関係ないということ……っ!


 つまり、聖夜祭さえ無事に乗り越えられることができれば、『キラ☆恋』のイベントはすべて終わって、平穏な学園生活を手に入れられる……っ!


 そうなったら、イケメンどもに邪魔されることなく、もっとイゼリア嬢と仲良くなるんだ……っ!


 俺の人生の目標と言うべき大願を叶えるためにも、あと少しだからって気を抜かずに、いままで以上に気をつけないとっ!


 聖夜祭は二学期末の年の瀬に行われることもあって、年間行事の中でも一、二を争うほど盛大に行われるらしい。


 確かにゲームの聖夜祭も、クライマックスということもあって、背景がめちゃくちゃ豪華だったもんな……っ! 『これは学校じゃなくてお城だろ!』とプレイしながら思わずツッコんでたし……。


 入学したいまは、あの背景が講堂だってわかるけど、いやそれにしても豪華すぎだろ……。


 っていうか、ふつーの学校は講堂でダンスパーティーなんてしないだろっ!


 でも、お城と見まごう華やかな背景をバックにしたゲーム内のイゼリア嬢も、素敵極まりなかった……っ!


 ゲーム内ではほとんど制服のスチルばっかりだったけど、聖夜祭の時は瞳と同じ、アイスブルーのドレス姿だったもんな……っ!


 麗しすぎて、永遠に画面を見つめていられるかと思ったもん!


 リオンハルトルートだったから、リオンハルトの盛装姿のスチルもあったけど、『リオンハルトなんざいいから、イゼリア嬢のスチルをよこせ――っ!』って心の中で絶叫してたし……。


 はぁ……っ、イゼリア嬢は聖夜祭でどんなドレスをお召しになる予定なんだろ……っ!


 どんなドレスだって、天上の女神と見まごうほどお美しいに決まってるっ!


 きっと王室御用達店『プロープル・デュエス』のジョエスさんがデザインするだろうから、目もくらむほど麗しいのはすでに約束されてるけどっ!


 もう、いまから楽しみすぎる……っ!


「お褒めの言葉をいただき、恐縮です。文化部長のクレイユをはじめとして、生徒会メンバー全員が一丸となって取り組んだゆえの大成功だと思っています」


 リオンハルトの声に、聖夜祭のイゼリア嬢を想像して、うっとりとしていた俺は、はっと我に返る。


「文化祭の成功におごらず、聖夜祭でも大成功を収められるよう、みんなで真摯に取り組むつもりです」


 リオンハルトが穏やかながらもきっぱりとした表情で告げる。


「まあっ、さすがリオンハルト様! 文化祭が終わったばかりだというのに、もう先のことを見据えていらっしゃるなんて、素晴らしい姿勢でいらっしゃいますわ……っ!」


 感嘆の声を上げたのはイゼリア嬢だ。リオンハルトを見るアイスブルーの瞳は、きらきらと輝いている。


 くぅぅっ、リオンハルトめ、イゼリア嬢にそんなまなざしを向けてもらえるなんて、うらやましすぎるぜ……っ!


「そうですねっ! リオンハルト先輩のおっしゃるとおりです! 私も、微力ながら、イゼリア嬢と一緒に、精いっぱい頑張ります!」


 そうっ! イゼリア嬢と一緒に! イゼリア嬢と一緒なら、どれだけだって頑張れますっ!


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