369 イゼリア嬢のご家族と挨拶できないなんて不公平です!


 俺の指摘に、イゼリア嬢が「そういえば!」と言いたげにアイスブルーの目を瞠る。


 うぅぅっ、せっかくイゼリア嬢も一緒に一年二組の展示を回っている時にランウェルさん達が来てくれたっていうのに、イケメンどもがぐいぐいぐいぐい前に出てくるおかげで、イゼリア嬢と家族を引きあわせることができなかったもんなぁ……っ!


 シェスティン君と仲良くなる下準備として、ロイウェルがどんなにいい子か、イゼリア嬢にじっくり見ていただきたかったのに……っ!


 突然イケメンどもがロイウェルに怒涛どとうの「友達になろう宣言」をしたせいで……っ!


 イゼリア嬢に紹介するどころか、イケメンどものアタックから必死に守る羽目になっただろ――っ! ロイウェルなんて、最後、イケメンオーラにあてられて、気絶しそうになってたし……っ!


 ったく、どこまでも邪魔しに来るイケメンどもめ……っ!


「そ、そうですわね。確かに、オルレーヌさんの言うとおりですわ」


 俺の指摘に、気を取りなすようにイゼリア嬢が小さく咳払いする。


「たとえ偶然とはいえ、リオンハルト様がオルレーヌさんのご家族と会われてご挨拶をされたのは確か。しかも、あれほどの衆人環視の中でだなんて……。オルレーヌさん、うまく企んだものね」


 イゼリア嬢のアイスブルーの瞳が、きっ! と俺を睨む。


 ん? 何でイゼリア嬢にこんな険しい視線を向けられるんだろ……?


 いやっ、『うまく』と言ってくださったってことは褒められてるってコトですよねっ!? イゼリア嬢はツンデレだから素直に出せないだけでっ!


 も――っ! やっぱりイゼリア嬢はお可愛らしすぎます――っ!


「えっと、よくわかりませんがお褒めいただけて嬉しいですっ! ありがとうございますっ!」


 にっこりと笑顔でお礼を言うと、なぜかイゼリア嬢のアイスブルーの瞳が刺すように鋭くなった。


 後ろから、ぶはっ、とヴェリアスが吹き出した声が聞こえる。


「も~っ! ハルちゃんってばサイコー! ふつー、そこでお礼言う!?」


「えっ!? イゼリア嬢にお褒めいただいたんですから、お礼を言うのは当然でしょう!?」


 ヴェリアスのつっこみに真顔で返すと、ディオスまでもが精悍せいかんな面輪を微妙にしかめた。


「いや、イゼリア嬢は……。いや、うん。どんなことも前向きに捉えるのはハルシエルの美点のひとつだな、うん」


 ディオスの言葉もよくわからないが、何やら褒めてもらっているらしいのでよしとする。


 イゼリア嬢に関することに対しての前向きさだけは自信がありますっ、俺!


「確かに、イゼリア嬢の言うことにも、一定の説得力がありますね。ハルシエル嬢のご家族だけが、リオンハルト先輩と挨拶できたことを不公平だというのなら、そのとおりです」


 クレイユも、生真面目な顔でこくりと頷く。


 うん……? よくわからないけれど、いま俺のほうに流れが来てる……っ!?

 よしっ! 畳みかけるから今だ!


「リオンハルト先輩! やっぱり不公平はよくないと思います! イゼリア嬢のご家族にもちゃんとご挨拶しましょう!」


「オルレーヌさん、珍しく真っ当なことをおっしゃいますわね。そのとおりですわ!」


 やった――っ! 今度こそちゃんとイゼリア嬢にお褒めいただきました~っ!


 俺とイゼリア嬢、両方から見上げられる形になったリオンハルトが、仕方がなさそうに吐息する。


「ハルシエル嬢にまでそう言われたら、断れないね。……でも、本当にいいのかい?」


 リオンハルトが遠慮がちに俺に問う。


 っていうか、なんで俺に確認するんだ? 俺が断るわけがないだろ――っ!


「えっ? もちろんですよ! イゼリア嬢のご家族をお待たせしてはいけませんから! 早く行きましょう!」


 いゃったぁ――っ! イゼリア嬢のご家族に会えるなんて……っ!


 少しでもいい印象を持っていただけるように、しっかり挨拶しなきゃ……っ!


 けど、緊張よりも、喜びのほうが大きい。イゼリア嬢のお母様でいらっしゃる公爵夫人、どんな聖母マリア樣なんだろう……っ⁉ シェスティン君にもいい印象を持ってもらわないとな!


 うきうきしながら促すと、リオンハルトだけでなく、他のイケメン達も動き出す。


「生徒会として挨拶するなら、俺達も一緒に行くべきだろう」


 生真面目な顔で至極当然のことを言ったのはディオスだ。


「だよね~♪ イゼリア嬢のご家族への挨拶はリオンハルトに任せるとしても、オレ達もちゃぁんとそばで見守らないとね♪」


 にぱっと笑って軽やかに告げたのはヴェリアスだけど、なんかいま、ちょっと含みがあったような……?


 っていうかヴェリアス! イゼリア嬢のご家族に好印象を持ってもらわないといけない大事な面会なんだから、お前は絶対に邪魔するなよっ!?


 が、俺がヴェリアスに釘を刺すより早く、エキューがにこにこと口を開く。


「シェスティン君と会うのは久々かも! 楽しみだなぁ~!」


 あっ、そっか……。


 貧乏男爵家のハルシエルと違って、高位貴族のエキュー達なら、イゼリア嬢のご両親や、シェスティン君とすでに面識があるに違いない。


 あ――っ! 俺の馬鹿――っ!


 もっと早くに気づいて、事前にエキューからシェスティン君の人となりとかリサーチしておけばよかった……っ!


 が、いま思いついても後の祭り。


「じゃあ、意見が一致したところで行こうか」


 なぜか一緒に来る気満々の姉貴に促され、俺達は舞台衣装に身を包んだまま、ぞろぞろと移動を開始した。


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