男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
359 ジークフリートを誘惑してやるくらいの心意気で挑まねばっ!
359 ジークフリートを誘惑してやるくらいの心意気で挑まねばっ!
リオンハルトの巧みなリードで踊る俺達に、観客の視線が釘付けになっているのがわかる。
きっと全員、リオンハルトの姿にうっとりとなっているんだろう。
だって、リオンハルトのきらきら王子っぷりが、ほんとすごいもん……っ!
端整な面輪に浮かぶ甘やかな笑み。腰の後ろに回された手は大きく頼もしく、碧い瞳に浮かぶまなざしは、オデット姫が愛しいと万の言葉より雄弁に語っていて……。
ううぅっ、演技だって、しかもオディールじゃなくてオデット姫に向けたまなざしだってわかっていても、勝手に心臓がどきどき騒いで仕方がない……っ!
なんでだよっ!? 俺の中身は男子高校生だろ――っ! それなのに同じ男子高校生のリオンハルトにときめいちゃうなんて……っ!
舞台っていう非現実的な空間のせいなのか!? それともリオンハルトのきらきら王子様っぷりが同性の俺にまで影響を及ぼしてるってことかっ!?
リオンハルト、恐るべし……っ! さすが、『キラ☆恋』のメイン攻略キャラだけあるぜ……っ!
そのせいか、このシーンって妙に苦手意識があるんだよなぁ……。
苦手なのがバレてしまっているのか、このシーンの時はやけにイゼリア嬢に睨まれてる気がするし……っ!
すみませんっ、イゼリア嬢! イゼリア嬢のオデット姫を映えさせるために、頑張らないといけないのに、不甲斐ない俺で……っ!
叶うなら、リオンハルトのまなざしに紅く染まっているだろう顔を伏せたいところだけれど、いまの俺は黒鳥オディール!
イゼリア嬢に褒めていただくためにも、むしろこっちからジークフリートを誘惑してやるくらいの心意気で挑まねばっ!
いけっ、俺! 頑張れ俺っ! いまこそ練習の成果を見せる時!
気合いを入れてリオンハルトを見上げ、できるだけあでやかに見えるように微笑む。
どうだっ!? アリーシャさん直伝の大人の女性の余裕のある笑み!
だが。
「愛しいきみとこんな風に踊れるなんて、なんと幸せな時間だろう」
蜜のように甘い声音とともに、にこりと、とろけるような甘い笑みが返ってくる。
「っ!?」
途端、心臓がぱくりと跳ねた。
リオンハルト、お前っ! こんな大事なシーンでアドリブをぶっこんでくんな――っ!
アドリブはヴェリアスだけで十分だっての!
まさかリオンハルトまでアドリブを入れてくるとは……っ! 全員、やる気にあふれすぎだろっ!
思わず睨み上げると、優雅な微笑みにいなされた。リオンハルトが本来の台詞を口にする。
「きみと一緒なら、いつまでもこうして踊っていられる気がするよ」
「あら? わたくし、今日は大切なお話をうかがえると聞いていたのですけれど?」
熱っぽく囁くジークフリートをかわすように小首をかしげる。
「ああ、そのとおりだ。聞いてもらえるかい?」
ワルツが終わり、俺とリオンハルトは舞台の中央で止まる。
名残惜しげに俺の身体から腕をほどいたリオンハルトが、片膝をつき、片手をとって真摯なまなざしで俺を見上げた。
「愛しい姫。わたしの心はすべてきみだけのものだ。わたしの真実の愛をきみに捧げよう。どうか、この想いを受け入れてくれ」
握っていた俺の手に、リオンハルトが恭しくくちづけを落とした。
「愛しいオデット。わたしの真実の愛で、きみの呪いを解いてみせよう。きみを愛している。どうか、わたしの求婚を受け入れてくれ」
「お――っほっほ! なんて愚かなのかしら、ジークフリート王子!」
ジークフリートの台詞が終わるなり、俺は突如、高笑いを上げる。
どうですか、イゼリア嬢っ!? イゼリア嬢の高笑いを見本に、悪役らしさをつけ加えてみたんですけれど!
「オデット?」
突然のオデット姫の急変に目を見開いたジークフリートに
「おめでたいことね! あたしをまだオデットだと信じているなんて!」
俺はくるりとジークフリートに背を向け、いままで観客に見せていた白い右半身とは対照的な、左半身の黒い側を観客席へ見せる。
いまここに立っているのはオデット姫ではなくオディールだと、観客の目に焼きつけるかのように。
「オデットなら、お父様の妨害に遭って、今ごろはまだ森の中を
くすり、と唇を吊り上げたオディールは猫がねずみをいたぶるようにジークフリートを見やる。
「残念ね、ジークフリート王子。あなたが愛を誓ったのは、呪いを解きたいオデットではなくて、このあたし。魔王ロットバルトの娘、オディールなのよ!」
「な……っ!?」
高々と宣言すると、ジークフリートだけでなく、ディオンやエリューまでもが驚愕の叫びを上げ、
そこで、オデット姫が息も絶えだえに城に飛び込んできた。
いや、オデットだけじゃない。オデットの後ろにはクレインもついている。
クレインを目にした途端、俺は不快げに目をすがめた。が、すぐにオデットに視線を移し、勝ち誇った高笑いを上げる。
「あら、意外と早く着いたじゃないの。クレインまでたぶらかして助けてもらったのかしら? でもお
喉を反らし片手を口元に当て、俺は愉快でたまらないとばかりに哄笑する。
「そんな……っ!」
手遅れだと知ったオデット姫が、蒼白な面輪で絶望の声を上げてよろめく。
「オデット!」
すかさず駆け寄ったジークフリートがオデット姫を抱き寄せて支えた。
うぅぅっ、すみませんっ、イゼリア嬢……っ! 麗しのお顔を絶望に歪ませてしまうなんて……っ!
オデット姫の哀しみに満ちた面輪や
が、いまの俺は黒鳥オディール! ここで仏心を出して手を緩めるわけにはいかない。
いますぐイゼリア嬢に土下座して謝りたい内心を押し隠し、俺はオデット姫にさらに追い打ちをかけた。
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