353 控えめに言っても女神ですっ!
ぎゃ――――っ! 神様仏様女神様っ、ありがとうございます――っ!
聖エトワール学園の一画に建てられた劇場。
舞台裏に設けられた俺とイゼリア嬢にそれぞれ用意された女子用の控え室を出たところで、ちょうどイゼリア嬢と出会った俺は、抑えきれぬ感動に、心の中で神々に感謝を叫んでいた。
目の前にいらっしゃるのは、オデット姫の衣装に身を包んだイゼリア嬢だ。
まもなく、学園祭の締めを飾る生徒会役員による『白鳥の湖』が開演しようとしている。
きっと客席は劇を楽しみにしている観客で満員御礼状態なんだろう。期待に満ちた
これから大勢の前で演技をするなんて、本当なら緊張でガチガチになっているところだろう。
けど、今の俺はそれどころじゃなかった。
目の前にいらっしゃるイゼリア嬢が神々しすぎてっ!
えっ!? ここ、ほんとに地上っ? こんなに麗しい女神様がいらっしゃるなんて、やっぱり天界じゃね!?
つややかな黒髪を結い上げ、小さなティアラを飾ったイゼリア嬢のなんと可憐でお美しいこと! あのティアラの宝石、絶対本物のダイヤモンドと真珠に違いないだろうけど……。イゼリア嬢自身の輝きには足元にも及ばない。
王室御用達服飾店『プロープル・デュエス』のデザイナー、ジョエスさんがデザインした白鳥をイメージして白い羽があちらこちらに飾られた清楚なドレスは、文句なしにイゼリア嬢に似合っている。
本番前の通し稽古では、もちろん衣装を着たイゼリア嬢を見たし、むしろオディールの出番がない時は、まばたきも惜しんで麗しのお姿を目に焼きつけようとガン見してたけど……っ!
本番ということでうっすらとお化粧までしているイゼリア嬢のお美しさと言ったら……もうっ!
控えめに言っても天使ですっ! 妖精ですっ! 女神様ですっ! オデット姫以上のオデット姫です――っ! どれだけの賛美を捧げても足りませんっ!
いやっ、この賛辞、ちゃんとイゼリア嬢にもお伝えしなくては……っ!
と口を開こうとして、俺はようやくイゼリア嬢の表情が硬いことに気がついた。
んんっ!? すでにオデット姫の役に入り切って、魔王ロットバルトの呪いで白鳥の身に変えられたことを嘆いてる……っ!? それとも……。
「イゼリア嬢……。もしかして、少し緊張なさってるんですか?」
強張った面持ちのイゼリア嬢にそっと声をかけると、イゼリア嬢が弾かれたように
「そ、そんなことありませんわっ! こ、これは集中するあまり……っ!」
「なるほどっ! さすがイゼリア嬢っ、素晴らしい集中力ですねっ! 私も見習わないと……っ!」
笑顔で感嘆の声を上げると、イゼリア嬢がアイスブルーの瞳をすがめて俺を睨みつけた。
「オルレーヌさんはまったく緊張なんてなさってなさそうね。文化祭の最後を飾る生徒会の劇の重要さを欠片も理解してらっしゃらないなんて、やはり庶民ですわね!」
きや――っ! こんなお美しいイゼリア嬢のまなざしが俺に向けられるなんて、どきどきしちゃいます〜っ!
なるほどっ! 大トリを飾るというのは、それだけ責任重大ってことなのか……。「終わりよければすべてよし」なんて言葉もあるもんな!
「そこまでお考えになられているなんて、さすがイゼリア嬢ですっ! でも……」
今こそイゼリア嬢の心をほぐして好感度アップを狙う時っ!
「ご心配は無用ですっ! 私が――」
「二人とも、準備が終わったようだね」
おいっ、リオンハルト! 邪魔しに来るんじゃねぇ――っ! あと一分! あと一分遅く来いっ!
文句を言いたい怒りをこらえて振り向くと、そこに立っていたのはジークフリート王子の衣装を身に纏ったリオンハルトだけでなく、ディオス達生徒会役員全員だった。
ナレーション役の姉貴と、記録係という名目のもと、今やビデオカメラをがっちり構えているシノさんもいる。
シノさんっ! イゼリア嬢を写したそのテープ、後で俺にもくださいっ! いくらでも払いますからっ!
舞台にのぼるわけじゃない姉貴とシノさんはいつものスーツとメイド服だが、リオンハルト達は舞台衣装に着替えて準備万端だ。舞台映えを考えてか、今日はうっすらと化粧までしている。
っていうか、イケメンどもがそろっているとキラキラ度がすげぇ……っ! まあ、もちろん一番輝いてるのはイゼリア嬢だけどなっ!
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