男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
345 ここまで気にさせておいて話さないなんて、怒るから!
345 ここまで気にさせておいて話さないなんて、怒るから!
「……話した結果……。きみに、軽蔑されたくない……」
悪いことを告白するのをためらう子どもみたいな頼りなげな表情と声は、いつもの冷徹なクレイユとは別人みたいだ。
ふつうの女生徒達なら、もしかしたらギャップに母性本能をくすぐられたかもしれない。
だが、俺の心に湧き上がった感情は――。
「馬鹿にしないでっ!」
ぺしっ、と掴まれていないほうの左手でクレイユの頭をはたくと、蒼い瞳がハトが豆鉄砲を食らったみたいに
「さっき言ったこと聞いてなかったの!? そりゃあクレイユ君とは半年ちょっとのつきあいしかないけど、でも同じ生徒会の役員として一緒に活動してきて、それなりに性格だってわかってきてるつもりなんだからっ! 私が軽蔑するかもなんて、勝手に決めつけないで! それともナニ!? 私の知らないところで昔に犯罪でも犯してたって言い出すつもりなのっ!?」
「は、犯罪なんてとんでもないっ!」
クレイユがはじかれたようにかぶりを振る。
「じゃあいったい何をそんなに気にしているのか教えてちょうだい。話しもせずに、軽蔑されるかもなんて勝手に私の心を決めつけるなんて
「だが……」
なおもぐずぐずと何やら言おうとするクレイユに声を荒げる。
「っていうか、ここまで気にさせておいて事情も明かされないなんて、そっちのほうが怒るから! そのせいで『白鳥の湖』に集中できなくて台詞を間違えたら、クレイユ君のせいだからねっ!」
こんな中途半端に「ナニカあります」っていうことだけ教えられた状況で引き下がれるかぁ――っ!
気になって、このあとの『白鳥の湖』に集中できねぇっての!
シャルディンさんをあのまま放置することになったら、申し訳なさで劇を見せるどころじゃなくなるし……っ!
「わたし、の……?」
「そうよ! だから、ちゃんと責任を取ってちょうだい!」
ここまで来たら、俺だって引く気はない。胸をそらして
「そうか、わたしの……。本当に、きみには
くすくすとクレイユがこらえきれぬように肩を震わせる。
「あの、クレイユ君……?」
さっきから情緒不安定だったけど、ついにネジが外れたかっ!?
おずおずと問いかけると、不意に掴んだままの腕を引かれた。
「ひゃっ!?」
ふらりとかしいだ俺の身体をクレイユが抱きとめる。
「きみがそう言ってくれるのなら……。わたしのほうからお願いしたい。どうか、話を聞いてくれないか?」
「だから聞くって言ってるでしょう!? それより、放してちょうだいっ!」
だーかーらーっ! 急に抱きしめるんじゃねぇ――っ!
じたばたと
「落ち着いて話したい。こちらへ来てもらえるか?」
手を引かれて歩んだ先は、生徒会室の一角にある応接用のソファーだ。三人掛けのソファーに並んで座る。
ソファーに座っても、クレイユの手は俺の手を握ったままだった。
強い力じゃない。けれど、まるで離れていく不安を押し殺し、つなぎとめようとするかのような様子は、さすがに振り払うのがためらわれる。
覚悟が決まったのだろうか。何度か深呼吸を繰り返していたクレイユが、視線を伏せ気味にしたまま、ゆっくりと話し出す。
「いまこそカルミエ公爵の地位についているわたしの父だが、本当は次男の生まれで、でカルミエ家を継ぐ立場ではなかったんだ……。本来なら、長男であるシャルディン叔父さんがカルミエ家の爵位を継ぐはずで……」
クレイユの告白にびっくりする。
確かにシャルディンさんは上品で貴族だと言われても納得なんだけど、まさか公爵家出身だったとは……っ! 思いもよらなかったぜ……っ!
「だが」
硬い声音に、はっと我に返ってクレイユに視線を向ける。
「昔から演劇が好きで
クレイユの声に抑えきれない苦みが混じる。
「アリーシャさんと結ばれるだけなら、彼女を公爵家に迎えることもできた。けど、公爵自らが大衆向けの劇の脚本を書くだけでも批判を浴びるだろうに、公爵夫人が女優として舞台に立つなんて、周りが許すはずがない。それをわかっていた叔父さんは、あっさりと爵位を弟であるわたしの父に譲って、貴族の地位を捨てて、一般人として
「そんな……っ!」
ハルシエルになってからの約七か月、俺は貴族だの一般人だのと身分の違いを感じることなんてほとんどなかった。
いやもちろん周りがとんでもないセレブ達だっていうのはわかってたし、実際に資産の差だって、嫌というほど見せつけられてたけど……。
それはあくまでも資産の差であって、身分の差じゃなかった。貴族でも平民でも、同じ人間には変わりない。
そう、思ってたのに。
ショックを受けた俺の様子を見たクレイユが、自嘲するように唇を歪めた。
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