340 いい前例を作ってくれて、ほんとにほんっと――に、ありがとうっ!


「え……? ハルちゃんが手放しで褒めてくれるなんて、マジ……?」


「本気ですよっ! 先輩方が自らギャルソンにふんして出迎えてくださるなんて……っ! 私、感動しました! 本当にありがとうございます!」


 いやほんとっ! いくら感謝してもし足りないぜっ!


 なんてったって、えある生徒会メンバーが、自らギャルソン姿でお出迎えするっていう前例を作ってくれたんだからっ!


 リオンハルトもディオスもヴェリアスも、いい前例を作ってくれて、ほんとにほんっと――に、ありがとうっ!


「きみにそれほど喜んでもらえるなんて、嬉しいよ」


 ぶリオンハルトがふたたび、ぶわっと薔薇の花が背後で咲き乱れる微笑みを浮かべる。


 うぉっ、まぶし……っ! が、その程度で俺のこの情熱は止められねぇっ!


「はいっ! 先輩達の思いやりに、私、感動しました! このお返しに、来年の文化祭では、今度は私達がウェイトレス姿で先輩方をエスコートしないといけませんよねっ! そうですよねっ、イゼリア嬢!」


「えぇっ!?」


 突然、話を振られたイゼリア嬢が、可憐な声を上げる。


「だって、リオンハルト先輩達に、こんなにも素敵なおもてなしをしていただいたんですから! 後輩としては心を込めてお返しをするべきですよねっ!」


 ふ、ふふふふふ……っ!


 こう言っておけば、来年、イゼリア嬢のウェイトレス姿が見られる可能性がぐぐんっ! と高まるハズ……っ!


 もうっ、俺ってば天才っ! まじで自分で自分を褒めてあげたい……っ!


 正直にいえばリオンハルト達へのお返しなんてどうだっていいけど、清く礼儀正しいイゼリア嬢は、きっとちゃんとお返ししなければと思われるハズ!


 すみませんっ、イゼリア嬢っ! イゼリア嬢のウェイトレス姿を見るためなら、俺は悪魔にでもなりますっ!


 来年はイゼリア嬢と一緒のクラスにしてもらえるように、姉貴に魂を売ってでも頼み込むんで、一緒にウェイトレスになりましょう……っ!


 イゼリア嬢のウェイトレス姿を見るためなら、俺だってミニスカを履いてみせますからっ!


 テーブルに身を乗り出してイゼリア嬢をかき口説くと、


「た、確かにリオンハルト先輩達をおもてなししたいですけれど……。で、でも、ウェイトレスなんて、そんな……っ」


 とうっすらと頬を染め、困ったように視線を揺らす。


 きゃ〜っ! 照れてらっしゃるお姿も素敵です〜!


 けど、俺はなんとしてもイゼリア嬢のウェイトレス姿を見たいんですっ!

 ここは絶対にぐいぐい押さねばっ!


「イゼリア嬢のウェイトレス姿なら、女神のようにお美しいに決まってますっ! もちろん私も一緒にしますからっ!」


 イゼリア嬢のレアなお姿を拝むためなら、俺がウェイトレス姿になるのも辞さねぇぜ! 


 ですからどうか一緒に……っ!


 力強く宣言すると、なぜかイケメンどもが騒ぎ出す。


「えっ!? ハルちゃん、イゼリア嬢と来年一緒にウェイトレスに扮するつもり!?」


「ハルシエルとイゼリア嬢が……」


「ハルシエルちゃんとイゼリア嬢がするんなら、僕達だってウェイターにふんするよっ! だよねっ、クレイユ!」


「ああ、もちろんだとも」


 驚きの声を上げたヴェリアスとディオスに続き、エキューも力強い声で宣言するとクレイユを振り返る。


 おおっ! エキューもクレイユも賛成してくれるのかっ! これは心強い……っ!


「エキュー君もクレイユ君もやる気ですし、イゼリア嬢も一緒にしませんかっ!?」


 俺はいまが最大の好機とイゼリア嬢に誘いかける。


 お願いですっ、イゼリア嬢っ! 「うん」とおっしゃってくださいっ! どうか……っ!


 祈るような気持ちでイゼリア嬢を真っ直ぐに見つけていると、俺の視線に耐えかねたように、頬を薄紅色に染めたまま、イゼリア嬢がぷいっとそっぽを向いた。


「クレイユ様もエキュー様もウェイターをなさるのでしたら、わたくしもリオンハルト様達をおもてなししないこともありませんけれど……。ですが、まだ一年も先の話ですわ! 具体的なことが決まらなければ、どうするかなんて決められませんわ!」


 つまりそれは具体的な話が進んだらウェイトレス姿になるのもやぶさかではないということですねっ!?


 よぉ――っし! 言質げんちばっちりいただきました――っ!


 俺、一年間かけてイゼリア嬢の魅力を最大に引き出すウェイトレス姿はどんなのかじっくり研究しますっ! 待っててくださいっ、イゼリア嬢っ!


 うぉおおっ! 来年の文化祭が楽しみすぎるぜ……っ!


 うきうきと心が弾んでいるせいか、豪華なランチがさらにおいしく感じられる。


 にこにことランチを楽しんでいると、ディオスとヴェリアスが両側から、これまた笑顔で話しかけてくる。


「ハルシエルは本当においしそうに食べてくれるな。そんなにいい笑顔で食べてくれると、企画した俺達も嬉しいよ」


「ほんと、ハルちゃんってばご機嫌だね~♪ さっきはオレのことをべた褒めしてくれてたし、ようやくオレの魅力に気づいてくれた?」


「そうですね。今日だけはヴェリアス先輩に感謝をしてもいいかもしれません」


「ハルちゃん……っ!?」


 ヴェリアスが何やら感極まったような声を上げてるけど、無視だ無視!


 俺には、イゼリア嬢に似合うウェイトレス姿はどんなだろうと、麗しのご本人を見ながら、しっかり考えなきゃいけないんだからなっ!


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