331 エリュシフェール国の歴史はつまり……っ!?


「オルレーヌさんったら、なんということですの!? たとえ男爵位とはいえ、えあるエリュシフェール国の貴族の一員であるというのに、その感心の低さ……っ! 呆れ果てますわ!」


「す、すみません……っ!」


 予想外の剣幕に反射的に謝罪するが、イゼリア嬢の怒りはおさまりそうにない。


「エリュシフェール国の歴史は、すなわち王族であるリオンハルト様につながる歴史ということですのよ!? リオンハルト様だけではありませんわ! 他の高位貴族の方々が連綿と王家をお支えしてきたからこそ、現代に生きるわけくし達が平和と繁栄を享受きょうじゅできているのですから! だというのに、まったく興味のない様子だなんて……っ! そんな方が名誉ある生徒会役員のひとりだなんて、嘆かわしいことこの上ありませんわ!」


 ぴしゃ――んっ!


 イゼリア嬢のお言葉が雷のように俺を撃つ。


 た、確かに……っ! エリュシフェール国の歴史が王家と大貴族の歴史だとすれば、すなわち大貴族の一員であるイゼリア嬢につながる歴史っ!


 つまり、国の歴史を学ぶことは、イゼリア嬢のご先祖様について学ぶも同じ……っ!


 ふぉおおおっ! これはがぜんやる気が湧いてきたぁ――っ!


 それに気づかず、今まで歴史の学びをおろそかにしてきたなんて、俺のバカ! バカバカバカ!


 たとえ、イゼリア嬢にゴルヴェント家に招かれることがなかったとしても、ゴルヴェント家ゆかりの場所を訪れれば、ある意味、間接的にゴルヴェント家を訪問したようなものっ! うんっ、きっとそう!


 そんなイゼリア嬢のご先祖様にゆかりのある場所で、連綿と流れる歴史の結果、イゼリア嬢という可憐な天使が舞い降りたんだと、感動にひたるとか……っ! もうそれ至福のひとときじゃね!?


 つまり……っ! 歴史を学べは、聖地巡礼ができるっ!?


 異世界を舞台にした『キラ☆恋』だと、どんなに願っても聖地巡礼なんてできなかったけど……。実際に、『キラ☆恋』の世界に来た今なら、できるっ!


 いや、イゼリア嬢と一緒の学びである聖エトワール学園だって、俺にとっては聖地みたいなものだけど、それはそれ! これはこれっ!


 イゼリア嬢の存在を感じられる場所はあればあるほどいいに決まってるっ!


「申し訳ございませんっ、イゼリア嬢! 私が間違っておりました……っ!」


 俺は深々と頭を下げてイゼリア嬢に詫びる。


「まさにイゼリア嬢がおっしゃるとおりです! 歴史を学ぶのはとっても大切ですよね! イゼリア嬢にお教えいただくまで、それに気づかなかった自分が情けないです……っ! ご指導くださり、誠にありがとうございます! いくら感謝を申し上げても足りませんっ!」


 心の底からの感謝とともに告げると、イゼリア嬢の戸惑いがちの声が降ってきた。


「そ、そうですわ! わかってくださればいいんですの! 少しばかり大袈裟すぎる気もしますけれど……。オルレーヌさんの素直に謝罪できるところは、評価してさしあげないこともありませんわ」


 きゃ――っ! イゼリア嬢にご評価いただけるなんてっ! 嬉しすぎますっ! ありがとうございますっ!


「ありがとうございますっ! イゼリア嬢に認めていただけるよう、私、しっかり学びますっ!」


「では、わたしがしっかり案内しよう」


「うんっ! 僕達が心を込めて案内するね!」


 気合を込めて宣言した途端、クレイユが口を挟んでくる。次いで、エキューも笑顔で申し出てくれた。


 あ、いや……。俺はイゼリア嬢に案内してもらいたいから遠慮したいんだが……。


 なんといえば、角を立てずに二人を説得できるのかと悩んでいると、俺が言い訳を思いつくより早く、イゼリア嬢が冷ややかに告げる。 


「オルレーヌさんはクレイユ様とエキュー様にご案内していただいたらいかが? わたくしはリオンハルト様達をご案内しますから」


「そ、そんな……っ!」


 俺の希望とは真逆のイゼリア嬢の提案に、愕然がくぜんとしてぶんぶんと首を横に振る。


「せっかく生徒会のみんなで来たんですから、一緒に見学したいです! さっきだって、一緒に見たじゃないですか! ばらばらだなんて……。寂しすぎます……っ!」


 俺はなんとしてもイゼリア嬢の解説を拝聴したいんです――っ!


 うるうるとにじみそうになる涙をこらえてイゼリア嬢に懇願する。


「どうか、お願いします……っ!」


 がばりと頭を下げると、イゼリア嬢が答えるより早く、口を開いたのはディオスだった。


「そうだな。ハルシエルが言うとおり、せっかく生徒会のメンバーで回っているんだから、一緒に回ればいいんじゃないか?」


「まっ、そうだよね~♪ ……クレイユとエキューだけにハルちゃんを任せても悪いしね♪」


 ヴェリアスがディオスの言葉に同意するが、おいっ、なんだよその言い方は! 俺がすっごいお荷物みたいじゃねぇか!


 確かに俺はエリュシフェール国の歴史にはくわしくないけど……。これからばっちり覚えるんだからな!


「美術品の鑑賞と違って、国の歴史となれば、説明することも多いだろう。三人で分担して説明するというのはどうかな?」


 姉貴までもが俺の援護をしてくれる。


 うんっ、姉貴が加勢してくれた理由は、俺のためなんてひと欠片も考えてなくて、ただただイケメンどもをひとかたまりで見てたいっていう欲望のためだっていうのは、言われなくてもわかってるけどなっ!


 ともあれ、理事長である姉貴にまで言われては、イゼリア嬢も反対できないと思ったのだろう。


「そうですわね。では、わたくしとクレイユ様とエキュー様の三人でご説明いたしますわ。オルレーヌさん! 最初に言っておきますけれど、くだらない質問でわずらわせたりしないでくださいましね! ちゃんと静かに聞くんですのよ!?」


「はいっ! もちろんです!」


 ぴしりと背筋を伸ばし、間髪入れずに即答する。


 俺がイゼリア嬢のお言葉を聞き逃すなんて、そんなこと絶対ありえませんっ!


 脳内でリフレインするために、一語一句洩らさす拝聴いたしますっ!


「じゃあ、建国当初については、僕が説明するね!」


 ホールの中へと案内しながら、エキューがうきうきした様子で告げる。


 うんっ、よろしく頼むな、エキュー! よーし、聖地巡礼の事前準備として、しっかり勉強するぞ〜っ!


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