330 解散になる前に、イゼリア嬢を誘うんだっ!


 なぜか熱心にロイウェルと友誼ゆうぎを結ぼうとするイケメンどもをいなして案内を再開し、一年二組の展示を回りきった頃には、俺は早くも疲労に肩で息をしていた。


 ちなみに、ロイウェルやランウェルさん達とは別行動だ。耐性のないロイウェル達には、イケメンどものキラキラオーラはまぶしすぎたらしい。


「広い校内で迷って遅くなっちゃった僕達が悪いんだし……。せっかくの姉様のクラスの展示だから、順路通りにじっくりと見させてもらうね」と、逃げるように離れていってしまった。


 イゼリア嬢さえいらっしゃらなければ、俺だって、家族の案内を理由に、イケメンどもから逃げたかったぜ……っ!


 だが、俺にはイゼリア嬢をお誘いして、一緒に文化祭を回って素敵な思い出を作るという超重要任務があるっ!


 案内の間、隙を見つけてイゼリア嬢をお誘いしようと虎視眈々こしたんたんと狙ってたけれど、イケメンどもがあれこれ話しかけてきたり、質問してくるせいで、ろくに話せなかった……。


 けど諦めるな俺っ! まだ最後のチャンスが残されてる!


 このまま解散となる前に、イゼリア嬢に一緒に文化祭を回りましょうと――、


「ハルシエル嬢。案内をしてくれてありがとう。素晴らしい案内だったよ。もちろん、展示の内容も素晴らしかった」


 俺がイゼリア嬢に話しかける機先を制するように、リオンハルトがにこやかに微笑んで話しかけてくる。


 おいっ! 今俺がイゼリア嬢をお誘いしようと思ってたのに……っ! 邪魔すんなっ!


「素晴らしいと言っていただけて光栄です。頑張って準備した甲斐がありました」


 にこりと微笑んで応じ、すぐさまイゼリア嬢を振り返る。


「それでですね、イゼリア嬢。この後――」


「ハルシエル嬢の素晴らしい案内のお礼に、次はわたし達が案内しないといけませんね」


 俺がみなまで言うより早く、今度はクレイユが口を開く。


 クレイユ! お前も邪魔してくんなっ!


「そうだねっ! ねえ、ハルシエルちゃん。次は僕達のクラスの展示を見に来てよ! 僕達が案内するからさ!」


 クレイユに続き、エキューがにこにこと俺を誘ってくる。


 ……ん? クレイユとエキューのクラス? それはつまり……。


「イゼリア嬢のクラスである一年一組の展示を案内してくれるってこと……?」


「うんっ! 心をこめて案内するよ!」


 エキューの頷きに、喜びのあまり叫びそうになる。


 グッジョブ! クレイユにエキュー! まさか俺から誘わずとも、一年一組の展示を案内してもらえるなんて!


「えっ!? ほんとに案内してもらえるんですかっ!?」


 信じられない気持ちでイゼリア嬢を振り返ると、しぶしぶといった様子でイゼリア嬢が頷いた。


「案内をしたことで、オルレーヌさんに貸しと思われるなんて、我慢できませんもの。それに、リオンハルト様達に、わたくし達が頑張った成果を見ていただきたいですし……。一年一組の展示だって、二組に負けないくらい素晴らしいんですのよ!」


 イゼリア嬢がアイスブルーの瞳を険しくし、きっ! と俺を睨みつけてくる。


 きゃ〜っ! 負けず嫌いなイゼリア嬢も可愛すぎます~っ!


 『キラ☆恋』のゲーム本編でも、イゼリア嬢はイベントごとにハルシエルに勝負を挑んできたり、つっかかってきたりしてたけど……。


 大貴族の令嬢として、貧乏庶民に負けられないという気持ちが、イゼリア嬢を勝負へと駆り立てていたのかもしれない。


 さすがイゼリア嬢っ! 自分の身分におごらず、中身もふさわしくあろうとする誇り高いところも素敵です〜っ!


「そうですよねっ! イゼリア嬢も加わられた展示ですもん! 素晴らしいに決まっていますよねっ! 見せていただくのが楽しみですっ!」


 俺は一も二もなくこくこく頷く。


「ぜひぜひ一年一組の展示も案内していただきたいですっ! 一年一組は、エリュシフェール国の歴史についての展示ですよねっ!」


 イゼリア嬢のクラスの展示内容は、ばっちり把握している。当日のお楽しみにと、くわしい内容までは、あえて聞かないようにしてたけど……。


 やっぱり、聞かずにいて正解だったぜ! 新鮮な気持ちで、イゼリア嬢にご案内いただくっていう感動が味わえるもんなっ!


「では、次は一年一組の展示へ行こうか」


「ええ、リオンハルト様! 心をこめて案内させていただきますわ!」


 リオンハルトの言葉に、輝くような笑顔を浮かべたイゼリア嬢に案内され、小ホールを出て、一年一組の展示会場となっている別のホールへと移動する。


 それにしても、一クラスごとに建物ひとつを使用してるなんて、すごい贅沢ぜいたくだよなぁ。初めて学園を訪れたロイウェル達が迷ってなかなか辿り着けなかったのも納得できる……。


 半年経って、俺もようやく主要な建物を覚えたくらいだからなぁ。


 二組のホールからさほど離れていないところに建つ一年一組のホールは、エリュシフェール国の国旗や、旗に使われている色である青と緑と白のリボンなどで飾られた華やかかつ荘厳な雰囲気だった。


「すごいっ! 雰囲気からして重厚で素敵ですね!」


 これからここで国家行事が行われると言われても納得しそうな壮麗さだ。

 入る前から感心している俺に、クレイユが解説してくれる。


「来年、エリュシフェール国は建国五百年を迎えるんだ。それに先駆けて、国の歴史を振り返るべきだろうということで、展示内容が決まったんだ」


「へぇ~っ。建国五百年なんだ……。すごい歴史があるのね……」


 もちろん歴史の授業でエリュシフェール国の歴史も習っていたけど、なんというか……。俺の知っている歴史と微妙に似ていて微妙に違うから、あんまり興味がもてなかったというか……。


 あくまでテストで点を取るために勉強した程度で、そんなにくわしく知っているわけじゃないんだよな。


 のほほんと感心の声を上げると、イゼリア嬢の鋭い声が飛んできた。


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