329 僕がロイウェル君とお友達になるよっ!


「そういえばさ♪ ロイウェル君は、合格したら、ハルちゃんみたいに生徒会に入ろうって思ってるワケ?」


「それは……」


 ヴェリアスの問いかけにロイウェルがちらりと俺に視線を向け、次いでヴェリアスを見返す。


「は、はいっ! まだ合格も決まっていないのにおこがましいかもしれませんが……。もし入学できたら、僕も生徒会に入りたいと思ってます! 姉様のことを手助けしたいですし……っ!」


 ロイウェル……! ほんっといい子だなぁ……っ!


 っていうか、今が大チャンスなのではっ!?


「あのっ! イゼリア嬢の弟君おとうとぎみのシェスティン君も来年、聖エトワール学園に入学予定なんですよねっ!?」


「え、ええ……。そうですけれど、何か?」


 控えめに一歩引いた様子で俺達のやりとりを見守っていたイゼリア嬢が、急に問いかけられていぶかしげに細い眉を寄せる。


「イゼリア嬢の弟君ですから、シェスティン君もきっと生徒会役員に立候補されるんでしょう? シェスティン君とロイウェルは同い年ですから……。来年はロイウェルと同じクラスになったり、一緒に役員活動をするかもしれませんねっ! ロイウェルは外部からの入学生ですから、来年、一緒に入学した時は、どうか、いろいろお教えください!」


 俺はイゼリア嬢に深々と頭を下げて頼み込む。


 そうっ! 今こそイゼリア嬢にロイウェルを売り込んで、来年、君とロイウェルが親友になる布石を打っておくべき時……っ!


「私も、今年、外部の中学校から入学したので、最初は知り合いなんて一人もいなくて、不安な日々を過ごしていて……。ですから、イゼリア嬢と出会えて一緒に生徒会に入れることになって、本当に嬉しくて心強かったんです!」


 いや、入学式の時からリオンハルト達を知っていたといえば知ってたんだけど……。それは『キラ☆恋』で知ってただけだからノーカウントでっ!


 こっちが一方的に顔を知ってただけで、別に友達でもなんでもなかったしなっ!

 俺はイゼリア嬢を見つめ、熱心に語りかける。


「姉として、大切な弟にはそんな不安な思いをさせたくなくて……。シェスティン君と仲良くなれたらとっても安心で、嬉しいなって思うんです……っ!」


「ハルシエルちゃん……っ! すっごく弟思いなんだね……っ!」


 エキューが感動したように潤んだ声をこぼす。かと思うと。


「大丈夫っ! 安心して! 僕がロイウェル君とお友達になるよっ!」


 やにわに、握り拳で胸を叩いて宣言する。


 え……。えぇっ!? いやっ、そりゃあエキューがロイウェルと友達になってくれたらありがたいし、タイプが似てるから仲良くなれそうだけど……。俺としては、ロイウェルにはシェスティン君と友達になってほしいっていうか……。


「エキューの言うとおりだ。わたしも友達になろう。よろしく、ロイウェル君」

 エキューに感化されたのか、クレイユが片手をロイウェルに差し出す。


 クレイユまでっ!? いやいやいやっ! ほらっ、急に言われてロイウェルも目が点になってるし……っ!


「そうだな。友達が同い年でなければならないということはない。よければ、俺とも友達になってくれ」


 ディオスまで名乗りを上げてきたぁ――っ!?


 いやっ、ディオスと友人なんて、ちょっとロイウェルがうらやましいくらいだけど! でもさすがに、「はいっ! よろしくお願いします!」って気軽に頷けるわけが……。


「確かに、いろいろな人物と交流を持つことは、これからの成長にも大切なことだろう。よければ、わたしとも友人になってくれないかな?」


「リ、リオンハルト殿下……っ⁉」


 ディオスに続いて申し出たリオンハルトに、ロイウェルがこぼれんばかりに目を見開き、かすれた声を洩らす。


 リオンハルトの甘やかな笑みは、耐性のないロイウェルには刺激が強すぎるらしい。頬を染め、水揚げされた魚みたいに口をぱくぱくさせている。


 ちょっ!? お前らちょっと待てぇ――っ!


 ロイウェルがキャパオーバーになってるからっ! 言っとくけど、こっちはセレブなんてセの字も関わりのない庶民なんだからなっ!?

 イケメンどもに急にそんな申し出をされたら、喜ぶより先に混乱の渦に叩き込まれるのがフツーの反応だからっ!


「そーそー。ハルちゃんの弟なら、色んなコトを教えてあげるよ♪」


 ヴェリアスまでもが悪戯っぽい笑みを浮かべて告げるが……。


「ロイウェルはほんとに真面目で優しいいい子なんですからっ! 悪の道に引きずり込むのはやめていただけますっ!?」


「ちょっ!? ハルちゃん、ヒドくないっ!?」


「というか、ロイウェルにだって友達を選ぶ権利がありますから! みなさんみたいに年上で高位の貴族や王族の方から言われたら、選択肢なんてないでしょう!?」


 姉? いや兄貴? ええいっ、今はどっちでもいいっ! ロイウェル、安心しろっ! 俺が守ってやるからなっ!


 いったい何と返せばいいのやらと、おろおろとうろたえまくっているロイウェルが気の毒で、俺はロイウェルを背に庇ってイケメンどもに相対する。


 っていうか、俺がロイウェルに仲良くなってほしいのは、イゼリア嬢の弟のシェスティン君なんだよっ! そのために、イゼリア嬢にロイウェルを紹介したいのに……っ!


 イケメンどもの障壁が高すぎるっ! イゼリア嬢の小柄なお姿がほとんど見えねぇかねーかっ!


 姉貴とシノさんは背後でこそっと、


「これは新しい萌えの組み合わせ……っ!」

「慣れない新入生を優しく教え導く先輩……。素晴らしいですね!」


 とか喜んでるんじゃねぇっ! 俺の耳には届いてるぞ、おいっ!


 ったく、イケメンどもはお呼びじゃないってのに……っ!


 わらわらわらわら、肉を見つけたわんこみたいに寄ってくるんじゃねぇ――っ!


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