326 やっぱり生徒会メンバー全員じゃないと嫌ですっ!


 俺は今こそ言葉を尽くす時! と必死で言い募る。


「イゼリア嬢の朗読だけを収録しないなんて、そんな事態は看過できませんっ! 販売するなら、絶対にイゼリア嬢も一緒ですっ! そもそも、女子は私だけなんて、バランスが悪いですし……っ! イゼリア嬢だってそう思いますよねっ!?」


 ぎゅるんっ、とものすごい勢いで振り返った俺に、イゼリア嬢が戸惑った声を上げる。


「えっ、そんな急に言われましても……っ」


 おろおろされているイゼリア嬢もお可愛らしいです~っ! じゃなくて!


「やっぱり生徒会メンバー全員じゃないと嫌ですっ! イゼリア嬢だって、リオンハルト先輩達と一緒に収録されたいですよね!?」


 っていうか、イゼリア嬢が参加しないなら、どれだけ姉貴に脅されたって、絶対に販売なんてさせねぇからなっ!


 俺の心の叫びが伝わったのか、姉貴もにこやかな笑みを浮かべてイゼリア嬢を振り返る。


「どうかな、イゼリア嬢? ハルシエル嬢が言っていることはもっともだ。きみも参加しないかい?」


「そ、そうですね……。理事長様がそうおっしゃるのでしたら……」


 恥ずかしそうに頬を染めて、それでもこくりとイゼリア嬢が頷く。


 やったぁ――――っ! ついにっ! ついにイゼリア嬢の朗読がこの耳で聞ける……っ!


 『白鳥の湖』の練習テープも家宝だけど、もうひとつお宝が増えるぜ……っ!


 イゼリア嬢はいったいどんな詩を選ばれるんだろう……っ! どんな詩を朗読されても、天上の調べに違いないけどっ!


 うぉおお~っ! 今から楽しみで仕方がないぜ……っ!


「あれ? でも、理事長~?」


 喜びと興奮のあまり、叫び出しそうになるのを必死でこらえる俺の耳にヴェリアスの声が届く。


「朗読のテープを売るのは賛成ですケド……。莫大ばくだいな額になるだろう売り上げはどうするんですか~?」


「っ!?」


 ヴェリアスの言葉に、俺は息を呑んで振り返る。


 売るっていう発想もなかったけど、売り上げのことなんて、まったく全然考えてなかった……っ!


 いったい作るのにいくらかかって、いくらで売るのかわからないけど……。学園内のイケメンどもの人気を考えると、男女問わずほぼ全生徒が買うに決まってる。


 となれば、ヴェリアスが言う通り、間違いなくものすごい額に……っ!


「それはもちろん――」


 ヴェリアスの問いかけに、姉貴がすこぶる楽しげな笑みを浮かべる。


「文化祭の後に予定されている。聖夜祭の支度金に充当するんだよ! もちろん、しっかりと予算は取っているけれどね。でも、生徒会として出資すれば、さらに素晴らしいものが整えられると思うんだが、どうかな?」


 聖夜祭というのは、こっちの世界の十二月に行われるお祭りだ。クリスマスみたいなものといっていい。


 『キラ☆恋』では、そこがゲームのクライマックスとなる。


 聖夜祭のあと、一番好感度の高いイケメンから、ハルシエルが告白されるイベントがあるのだ。


 もちろん、俺はそんなイベントを起こす気なんざ、これっぽちもないけどなっ!


 っていうか、確かゲームの背景でもきらきらっぷりがすごかった気がするけど、そこにさらに資金を投入するなんて、姉貴はどれだけド派手にする気だよっ!?


 言っとくけど、姉貴がどんなに華麗な舞台を整えようと、俺は何があろうとイケメンどもの誰かと告白イベントなんざ起こさねぇからなっ! 金をかけても無駄になるだけだからなっ!


 とはいえ、そんな決意を口に出せるわけがなく。


 俺が口を挟めないでいるうちに、リオンハルトが「なるほど」と感心したように頷く。


「さすが理事長ですね。全校生徒のためになるというのなら、もちろんわたしに否はありません」


 リオンハルトの言葉に、他のイケメン達も口々に同意する。


 くっ、さすがお金に困ったことなんてないだろう王族と高位貴族様達だぜ。少しは自分のふところを潤したいって思わないのかよっ!?


 俺だったら大金は喉から手が出るほど欲しいっ! それでイゼリア嬢にプレゼントを贈ったり、イゼリア嬢をデートに誘ってみたり、個人的にイゼリア嬢グッズを発注したり……っ!


「リオンハルト、さすがですわっ! 皆様も! わたくし達は生徒会役員なのですもの。生徒の皆様に喜んでいただけることをするべきですわよね!」


「そうですねっ! イゼリア嬢のおっしゃるとおりです! 聖夜祭のために使いましょうっ!」


 生徒達のためになることをしたいなんて、素晴らしすぎるお心ですっ! なんて清らかな……っ! やっぱりイゼリア嬢は地上に舞い降りた天使ですっ! まぶしすぎますっ!


「では、全員の同意もとれたし、問題ないね!」


 姉貴が両手を打ち合わせる。


 ひ、卑怯ひきょうな……っ! イゼリア嬢のお言葉を、俺が覆せるワケがないだろ――っ!


 だが、決まってしまったものはどうしようもない。


「イゼリア嬢の朗読は、文化祭が終わってから、改めてるとして……」


 その場には、俺も絶対ぜったい同席したいですっ! っていうか、万難を排してするっ!


 ぶつぶつと呟きながら段取りを組み始めた姉貴を現実に戻すべく、俺はあわてて声をかける。


「とりあえず、次の展示品へ進みましょう! いつまでもジェケロット氏の彫刻前に居座っていてはご迷惑ですから……っ!」


 朝一番から時間が経ち、少しずつお客さんも増え始めている。イケメンどもが客寄せパンダになっているという可能性も高くはあるが。


「確かに、ハルシエル嬢の言うとおりだね」


 俺の言葉にリオンハルトが頷き、順路に従って、次の作品へと移動する。

 彫刻の次の作品は、壁にかけられた一メートルほどの高さの絵画だ。


「こちらの絵画は――」


 この日のために必死で頭に叩き込んだ案内を、一語一句間違えずにそらんじる。もちろん、イゼリア嬢にお褒めのお言葉をいただきたいがために覚えたものだ。


 ちょっと最初のジェケロット氏の乙女像で予定外のことが起こったけど、ここからはきっちりばっちり案内してみせる!


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