324 いちおう、感謝はしていなくもない
心の中でイケメンどもに文句を言って、ふと気づく。
あ、それともアレか? ハルシエルが貧乏男爵貴族だから、リオンハルト達に気を遣ってると思ってるのか?
いやまあ、経済的格差はいかんともしがたいから、遠慮というか気が引ける時がないとは言えないけど……。
でも、王城の薔薇園のお茶会とか、夏休みの旅行とか、令嬢にふさわしい立派な服がいる時は、イケメンどもが気を遣ってくれてるしな……。
それについては、感謝していなくもない。
イゼリア嬢のお隣に並ぶ可能性があるのに、みっともない格好はできないからなっ!
頭に「???」を浮かべながら、俺はイケメンどもを見回す。
「遠慮することがまったくないとは言いませんけど……。でも、みなさんがいろいろ助けてくださってますから、大丈夫ですよ? いつもお気遣いいただいて感謝しています」
たまには少しくらい感謝の言葉を述べてもいいだろう。
今回のサプライズだって、イケメンどもの協力がなかったら、そもそも録音できてなかったし。
笑みを浮かべてぺこりと軽く頭を下げると、イケメンどもが息を呑んだ。
「くっ、この笑顔……っ!」
「ハルちゃんってば、無自覚に高威力をぶつけてくるんだから……っ!」
何やらイケメンどもがぶつぶつ言ってるが、のんびりかまってる暇なんかない。
「というか、遠慮しないでいいっていうんでしたら、とりあえず退いてくれませんか? イゼリア嬢にご感想をうかがいたいんですけど」
リオンハルトの手からするりと抜け出し、イケメンどもを回り込んでイゼリア嬢のもとへ小走りに駆け寄る。
「いかがでしたか、イゼリア嬢! イゼリア嬢に喜んでいただきたくて……っ! サプライズを用意したんですっ!」
「いやぁ、素晴らしかったね! まさか生徒会メンバーの朗読が聴けるなんて……っ! で、オリジナルテープはどこに保管してるのかな?」
イゼリア嬢が答えるより早く、満面の笑みを浮かべた姉貴がずずいっ! と身を乗り出してくる。
おい姉貴っ! 割って入ってくるんじゃねぇ――っ!
俺はっ! イゼリア嬢にっ! ご感想を聞いてるんだよっ!
お前はすみっこでシノさんとおとなしく萌えとけ! 邪魔すんなっ! どうせ姉貴のことだから、シノさんに隠し撮りさせてるんだろう!?
「理事長の感想は後でうかがいますね」
俺は冷ややかに姉貴に告げると、イゼリア嬢へと身を乗り出す。
「イゼリア嬢、いかがでしたでしょうかっ!? どの朗読も素晴らしいと思うんですけれどっ!」
「あ……」
朗読に聞き惚れていたのか、遠い目をしていたイゼリア嬢が、俺の言葉に我に返ったように小さな声を洩らす。
今がチャンスとばかりに、俺はどさくさにまぎれて両手でイゼリア嬢の手を握った。
前にも手をつないだことがあったけど、なんて細くて可憐な手……っ! 指の形、爪の先まで
ジェケロット氏の乙女像も目じゃありませんっ! イゼリア嬢こそが至高の芸術品です~っ!
「お喜びいただけましたかっ!? もしイゼリア嬢にお気に召していただけたのでしたら、それに勝る喜びはないんですけれど……っ!」
そうっ! 「なんで俺がボタン押し係なんだよっ!」と心の中でツッコミを入れながらもイケメンどもの美声に耐えたのは、ひとえにイゼリア嬢にお喜びいただきたかったがため……っ!
「た、確かに、皆様の朗読は素晴らしかったですわ!」
やった――っ! イゼリア嬢からお褒めのお言葉をいただきました~っ!
「ですけれど!」
心の中で歓喜の舞を踊る俺の手の中から、イゼリア嬢がさっと指先を引き抜く。
「一年二組の展示だというのに、生徒会の皆様のお力によって集客するのは、
怒りを宿したアイスブルーの瞳が俺を貫く。
た、確かに……っ!
イゼリア嬢のご指摘に、俺はぐうの音も出ない。
いや、別に文化祭では集客数の多いクラスが優勝だとか、そんな戦いはないけれど……。
でも、自分のクラスに大勢のお客さんが来てほしいと願うのは、これまで企画や準備に取り組んで来た者にとっては、当然のことだ。
学園内でのイケメンどもの人気は絶大だ。それを利用して、一年二組の展示にお客さんを呼び込もうとしていると……。イゼリア嬢がそう考えて怒るのも当然だ。
「も、申し訳ありません……っ!」
イゼリア嬢に喜んでいただくどころか、叱られてしまった……。
しょぼぼぼぼん、と肩を落として詫びる。
と、誰かの手がぽんと肩に置かれた。
「まぁまぁ、イゼリア嬢。真面目なのはいいことだけど、そんなにハルちゃんを叱らないでやってくれる? そもそも、生徒会メンバーで朗読して、そのテープを流そうって提案したのはオレだし♪」
「ヴェリアス先輩っ!?」
俺は、割って入ったヴェリアスの横顔を驚いて見上げる。イゼリア嬢も信じられぬと言いたげに目を
「本当に、ヴェリアス様の発案ですの……?」
若干、
「もっちろ~ん♪ 当ったり前じゃん♪ こんなナイスなアイデア、思いつくのはオレくらいでしょ!」
思いっきりドヤ顔をしているのが腹立たしいこともないが、ヴェリアスの言っていることは事実だ。視線で問いかけてきたイゼリア嬢に、俺はこくんと頷く。
「そうです。実は朗読したテープを流したらどうかという発案は、ヴェリアス先輩のもので……」
「まあっ! では、オルレーヌさんはヴェリアス様発案のアイデアを、さも自分が思いついたかのように言っていたということですの!?」
俺に向けられたイゼリア嬢の視線が、さらに鋭く、針のように細くなる。
と、不意にイゼリア嬢の姿が見えなくなる。一歩踏み出したヴェリアスが俺を背にして一歩踏み出したせいだ。
おいっ、ヴェリアス! 邪魔だ邪魔っ! イゼリア嬢の麗しのお姿が見えねーじゃねぇかっ! どけ――っ!
「え~? ハルちゃんはひと言も、自分の発案だなんて言ってないじゃ~ん♪
「それは、そうかもしれませんけれど……」
「いえいえいえっ! まぎらわしいことを言った私が悪いんですからっ! イゼリア嬢、誤解させてしまって申し訳ありませんっ! イゼリア嬢のおっしゃるとおり、そこまで考えが及んでませんでした……っ!」
俺はヴェリアスの前に出ると、
ヴェリアスを追い払うのは諦めて、俺はうちしおれた花のように視線を落としたイゼリア嬢に、あわてて深く頭を下げた。
「ちょっ、ハルちゃん!? せっかくオレが……」
「ヴェリアスが口を挟むと余計にややこしくなりそうなので黙っててください」
「ひどっ! オレ泣いてもいい!?」
ヴェリアスが哀れっぽい声を出すが、知るかっ! イゼリア嬢のご尊顔を哀しげに歪めさせるなんて……っ! 万死に値するっ!
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