322 今回の展示の目玉
俺の返事に、真っ赤に顔を染めたエキューを除くイケメンどもが、一様にほっとした様子で息を吐く。
おいこら、お前らっ! いったい脳内で何を想像しやがった!?
「……ヴェリアス様……」
イゼリア嬢も滅茶苦茶引いた顔でヴェリアスに冷たいまなざしをそそいでいる。ぎゅおーん、と好感度が下がる音が俺の耳にまで聞こえた気がした。
「ヴェリアス先輩ってば、いったい何を想像したんですかっ!? 最低ですっ!」
肩に置かれたヴェリアスの手を振り払い、目を怒らせて叫ぶと、「えぇぇっ!?」と、ヴェリアスが情けない声を上げた。
「ちょっ!? 俺はハルちゃんがとんでもない目に遭ったら大変だと思って、事前に注意喚起しただけなのにっ! 最低っていうのはヒドくないっ!?」
「『とんでもない目』の内容が問題だって言ってるんです! どうやったら、そんなよこしまな思考になるんですかっ!? 破廉恥すぎますっ!」
叶うなら、今すぐエキューを除くイケメンどもの頭を、漂白剤に漬け込んで真っ白にしてやりたい。
怒りを隠さず叫ぶ俺に、ヴェリアスが不満そうに唇をとがらせる。
「えぇぇ~。だって健康なお年頃の男子だったら、それくらい当然っていうか……」
いや、俺も中身は男子だから、気持ちはわからなくもないけどなっ!?
もしも、俺が絵を描くとして、イゼリア嬢がそのモデルを務めてくださったりしたら……。
反射的に、もわんもわんとイメージしそうになり、弾かれたように首を横に振る。
ダメだっ! 考えるな俺っ! この妄想は危険すぎるっ! そ、そんなそんな、イゼリア嬢の……っ!
夏の旅行で見たイゼリア嬢の大人っぽい水着姿が脳内に甦り、今にも爆発するんじゃないかと思うくらい、顔が熱くなる。
これ以上考えるのは危険だっ! 考えただけで神々しさに魂が消し飛ぶっ! 昇天必至だぞっ! 落ち着け俺っ!
「ヴェリアス。いい加減にしないか。今は芸術作品を鑑賞する時間だろう?」
脳内に湧き上がるイメージを必死で振り払っていると、呆れ混じりのリオンハルトの美声が耳に届いた。
「そ、そうですっ! リオンハルト先輩の言うとおりです! せっかく今日しか見られない今回の展示の目玉なんですから、無駄話なんてせずにしっかり鑑賞してくださいっ!」
こくこくこくっ! とリオンハルトに
さすが生徒会長! ヴェリアスの暴走を止めてくれてありがとうっ! 今回ばかりは本気で助かったぜ……っ!
リオンハルトの言葉に、全員の視線がふたたび大理石像に集まる。
大理石像が纏っているのは、ギリシャ神話の登場人物みたいな肩を出したゆったりとしたドレスだ。固い石のはずなのに、細やかなドレープのせいか、本当に柔らかな布地を纏っているかのように見え、それだけで制作者の腕前が卓越していることがうかがえる。
ゆるく結われた波打つ髪の先は風に揺れ、ドレスから一歩踏み出したサンダルを履いた左足ともあいまって、彼女が誰かに向かって歩み寄っているのだとわかる。
前に差し伸べられた右手の先に待つのが想い人だろうということは、幸せそうなはにかみを見れば、疑う余地はない。
見学者によく見えるよう、高さ一メートルほどの台座に乗った等身大の像は、いまにも生命を得て台座から降りてきそうないきいきとした魅力にあふれていた。
「素晴らしいですわ……っ」
思わず、と言った様子でこぼされたイゼリア嬢の感嘆の声に、心の中でガッツポーズする。
イゼリア嬢にそう言っていただけるなんて、嬉しいですっ!
大理石像の貸し出しの条件にモデルを頼まれた時は正直、まったく全然乗り気じゃなかったけど……。
イゼリア嬢に喜んでいただけたのなら、引き受けた甲斐がありました!
「ああ、確かにこれは素晴らしいね」
リオンハルトの言葉を皮切りに、イケメン達も次々と称賛の言葉を洩らす。
……姉貴とシノさんだけは、大理石像じゃなくて感嘆するイケメンどもをガン見してたけど。
ほんっと、ブレないな姉貴はっ! いやまあ俺も、イゼリア嬢の麗しのお顔を脳内メモリに焼きつけるのに忙しいけどっ!
まだ文化祭が始まって間がないので、来場者はさほど多くない。
俺達が入ってすぐのところでじっくり見学していても邪魔にはならない。
は――っ! 真剣なまなざしで像を見上げてらっしゃるイゼリア嬢の横顔、まじ女神……っ!
もうどっちが芸術作品かわかんないほどじゃねっ!?
そっかぁ、イゼリア嬢は芸術にも
ジェケロット氏の展覧会とか開催されてないか、後でチェックしとこう……っ!
うっとりとイゼリア嬢の美貌を見つめていると、ホールに流れていた音楽が止まった。と。
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