319 イゼリア嬢は俺に任せて、イケメンどもは解散しろ!


 俺がおろおろしている間にも、イゼリア嬢達はどんどん近づいてくる。


「イ、イイイイイイゼリア嬢っ! おはようございますっ! 本日も女神のようにお美しいですっ! 今日は私のクラスの展示に来ていただきまして、誠にありがとうございますっ!」


 緊張に耐えきれず、俺は思いっきり噛みながら、がばりと深く頭を下げて挨拶する。


「……ごきげんよう、オルレーヌさん。ですが、わたくしより、先に生徒会長でいらっしゃるリオンハルト様にご挨拶するべきではなくって?」


 ……あ、あれ……?


 イゼリア嬢のお声は、先ほどまでにこやかに笑ってらしたのが嘘のように冷ややか極まりない。まるで、一足先に冬が来たかのようだ。


 はっ! そうか! 俺が年長者への敬意を忘れたからですねっ!? 俺が淑女にふさわしく礼儀正しく振舞うよう、あえて厳しく指導してくださるなんて……っ!


 さすがイゼリア嬢ですっ、ありがとうございますっ! イゼリア嬢のお心は、しっかりばっちり伝わってますからっ!


 俺はこほんと咳払いして挨拶を仕切り直す。


「すみません。たいへん失礼いたしました。皆様をご案内するのだと思うと、つい緊張してしまいまして……。皆様、本日は一年二組の展示にお越しいただきまして、誠にありがとうございます」


 俺が案内したいのはイゼリア嬢だけで、あくまでイケメンどもはおまけだけどなっ!


 内心でそう叫びながら、表向きはあくまでも淑女らしく、制服のスカートをつまんで楚々とした所作で頭を下げる。と、リオンハルトの困ったような声が降ってきた。


「おはよう、ハルシエル嬢。今日も優雅で愛らしいね。だが、どうかそんなに緊張しないでほしい。生徒会のメンバーばかりなのだし、いつもどおりにしてくれたらいいんだよ?」


「あ、はい。大丈夫です」


 顔を上げ、あっさり答える。


 うんっ、お前らに気を遣うつもりはないからっ! 俺が緊張しているのはイゼリア嬢にご満足いただけるか心配してるからであって、むしろお前らは勝手に好きに見学してろ!


 リオンハルトに続いてディオスも口を開く。


「おはよう、ハルシエル。リオンハルトの言うとおりだぞ。全員で押しかけてしまって申し訳なかったが……。いつもどおりでいいんだからな?」


 申し訳ないと思うんなら、イケメンどもは今すぐ解散だ、解散! イゼリア嬢を連れて来てくれたことには特大の感謝を捧げるけど、お前らの役目はそこで終わりだから! 後はイゼリア嬢は俺に任せて解散しろ!


 と、俺の心の叫びを読んだかのように、ヴェリアスが悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「全員で押しかけたのが邪魔だったら、二人っきりで見学する?」


 そうっ! それだよ、それ! 俺が言いたかったのは――、


「モチロン、オレとハルちゃんの二人っきりで♪」


 ちーがーうーだーろぉ――っ! そこはどう考えてもイゼリア嬢一択だろぉ――――っ!


 ヴェリアスの提案に、イケメンどもが色めき立つ。


「ヴェリアス先輩! なんてことを言うんですか!? みんなで一緒に回ろうって約束したじゃないですか! それを急に翻すなんて、ひどいですっ!」


 いつもにこやかで愛らしいエキューが、珍しく、きっ! と目を怒らせてヴェリアスを睨む。すかさずクレイユが追撃した。


「エキューの言うとおりです。和を乱すつもりでしたら、いっそのこと、ヴェリアス先輩だけ、おひとりで見学されたらいかがですか?」


 氷よりも冷ややかなクレイユの声に、ヴェリアスの口元がひくりと引きつる。


「へぇぇ~。クレイユったら言うじゃんか。そんなにオレとヤル気なら、こっちも――」


「おいヴェリアス! さきに余計なことを言ったのはお前だろう! クレイユにみつき返すんじゃない!」


 あわてて割って入ったのはディオスだ。


「そうですよ! ディオス先輩の言うとおりです! ヴェリアス先輩が余計な冗談を言ったのがそもそもの原因なんですから、反省してください!」


 ええいっ! イケメンどもでもめてるんじゃねぇ――っ! 俺は早くイゼリア嬢を案内したいんだから邪魔すんなっ!


 と、不意に別のイケボが割って入る。


「ああ、よかった。間に合ったようだね。わたしもご一緒させてもらえるかな?」


 いつも以上ににこやかな笑みを浮かべて加わってきたのは、腐女子大魔王の姉貴だ。姉貴の後ろには、メイド服に身を包んだシノさんもちゃっかりいる。


 おい姉貴っ! お前さっきまで校内放送で挨拶してたんじゃなかったのかよ!? いつの間に移動してきた!? ほんっと侮れねぇ……っ!


 っていうか、来ても無駄だから!


 にやけ顔で何を期待してんのかは知らねーけど、俺は今日はイケメンどもと絡むつもりはこれっぽっちもないからっ! 俺はあくまでもイゼリア嬢を案内するんだからなっ!?


 と、イゼリア嬢が姉貴に微笑みかけ、次いで鋭い視線を俺に向ける。


「理事長様のお申し出を断るなんて、そんなことをするはずがございませんわ! オルレーヌさん、責任重大ですわよ。理事長様やリオンハルト様達をしっかりご案内してくださいませね」


「はいっ! 承知しました!」


 イゼリア嬢が理事長も一緒にと望むんだったら、仕方がないから一緒に見学するくらい許してやる! イゼリア嬢に心から感謝しろよ、姉貴!


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