318 イゼリア嬢とのデートだと思えば、待っている時間もまた至福……っ!


 いつもはご令嬢やご令息の上品な笑い声や会話がさざめく優雅な聖エトワール学園も、文化祭の今日ばかりは一般の高校と同じように、にぎやかなざわめきに満ちていた。


 ……いや、違う。一般の高校は断じてここまできらびやかじゃないっ!


 なんだよこの半端ないセレブ感が漂うこの空間は――っ!


 生徒達は制服だからいつも通りだけど、来賓が招待されたセレブばっかりだからきらきら度が半端ない……っ!


 いまさらながらにとんでもないセレブ校なんだと実感させられる。


 まあ、クラスの展示で小さいとはいえ、建物ひとつ使うって時点で感覚がおかしいけどなっ!


 一年二組が展示を行うのは学園内の庭園にほど近い小ホールだ。『ラ・ロマイエル恋愛詩集』のイメージにふさわしく、秋薔薇を中心に色とりどりの花で飾られた空間は、馥郁ふくいくたる花の香りで満ちている。


 そのホールの玄関を出たところで、俺はそわそわそわそわとしながら立っていた。


 つい先ほど、校内放送で理事長である姉貴のあいさつが流れ、文化祭の開始が宣言されたばかりだ。


 一年二組の展示には、まだそれほどお客さんは来ていない。


 せっかくクラスのみんなと頑張って作り上げた展示だから、お客さんでにぎわってくれたら嬉しいんだけど……。今はまだ、混まなくていいっ!


 だってこれから、イゼリア嬢をお出迎えするんだからっ!


 混んでたらイゼリア嬢にじっくりとご覧いただけないだろ――っ!


 さっきから胸のどきどきが止まらない。

 時間と場所を決めて待ち合わせだなんて、まるでデートみたいじゃね!?


 イゼリア嬢とデート……っ! 嗚呼ああっ、なんて甘美な響きなんだ……っ!


 そうっ! 今日は俺とイゼリア嬢の! 俺とイゼリア嬢の記念すべき文化祭デート! さっきから鼓動がばっくんばっくん高鳴ってるのも仕方がないよなっ!


 イケメンどもってゆー、超巨大な邪魔者達がくっついてくるけど……。そこはあえて意識しない方向で!


 イケメンどもは視界に入れず、存在を無視したら、俺とイゼリア嬢のデートになるハズ! うんっ!


 っていうか、イケメンどもはほんとに来なくていいんだぞ!? 自分達の展示とか出店の番でもしとけ!?


 姉貴情報によると、『キラ☆恋』のゲーム本編では、もちろん文化祭はイベントが目白押しらしいんだが……。


 もちろん、俺はイケメンどもとイベントを起こす気なんざ、これっぽちもねぇっ!


 なんとしてもイベントを回避するためにも、今日はイゼリア嬢とつかず離れず行動するに限るっ!


 あぁ~~っ! ほんっと、イゼリア嬢、早く来てくださらないかなぁ~っ! いやでも、イゼリア嬢とのデートだと思えば、待っている時間もまた至福……っ!


 今日はどんな素敵なイゼリア嬢をおそばで拝見できるのかと想像するだけで、喜びのあまりうきうきと踊りだしちゃいそうだぜ!


 と、ふと小ホールに通じる道の生垣の向こうからざわめきが近づいてくる気配を感じる。


 はっ! もしやこれはイゼリア嬢が歩まれるお姿に感動する人々の声では……っ!?


 どきどきしながら生け垣の向こうを注視していると。


 い、いらっしゃった――っ! イゼリア嬢がいらっしゃいましたぁ――――っ!


 生け垣の角を曲がってお姿を現したイゼリア嬢に、心の中で歓喜の叫びを上げる。


 ふぉおおおおっ! 今日もお美しいです……っ!


 いつもの制服姿ですけれど、イゼリア嬢がお召しになっていたら、なんだって素敵ですからっ! いつだって俺の目にはイゼリア嬢は太陽よりもまぶしく輝いていらっしゃいます……っ!


 しかも、しかもなんとっ!


 イゼリア嬢がにこやかな笑みでこちらへいらっしゃっているぅ――っ!


 そんなに俺のクラスの展示を見に来るのを楽しみにしてくださってたんですかっ!? 嬉しすぎますっ! ありがとうございますっ!


 やっぱり、イゼリア嬢のお好きな『ラ・ロマイエル恋愛詩集』を展示のテーマに選んで、ほんとよかった……っ!


 っていうか、輝くような笑みを浮かべるイゼリア嬢と楽しげに談笑しているリオンハルト! そこは俺の場所だっ! さっさと代われ――っ!


 残念ながら、イゼリア嬢はひとりじゃなかった。やはりというか予想どおりというか、イケメンどもと一緒だ。


 リオンハルトがイゼリア嬢と並んで先頭に立ち、後ろにはディオスとヴェリアス、さらに後ろにクレイユとエキューの姿が見える。


 くそぅっ! やっぱりイケメンどももついてくるのかよ……っ! お前らは来なくたっていいってのに……っ!


 俺の心も嘆きを知ってか知らずか、イゼリア嬢はリオンハルトと楽しげに話しながらこちらへ歩いてくる。


 うぉおおおおっ! 超レアなイゼリア嬢の一点の曇りもない笑顔……っ!


 女神だ……っ! 地上に舞い降りた女神がいらっしゃる……っ! イゼリア嬢から差す後光に、目がくらんで気絶しちゃいそう……っ!


 しかもその女神が俺に向かって歩いてきてくださってるなんて、もうこれ、こここそが天国と言っていいんじゃね!?


 輝くような笑みを浮かべるほど、俺の案内で展示を見るのを楽しみにしてくださっていたなんて……っ! 光栄すぎますっ!


 も、もしかして、今までの俺の努力が実って、ついにデレに突入したとか……っ!?


 夢としか思えない光景に、心臓のときめきが止まらない。


 ど、どうしよう!? どうしよう……っ!? いつかそんな日が来てくれたらと、心の底から願ってるけど、急にこんなにデレられたら、心の準備が……っ!


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