317 そんなに僕のことを心配してくれてたなんて……っ!


 ちなみに、事前にイゼリア嬢に、ご家族が何時にどこにいらっしゃるのか、それとなく聞き出そうとしたけど、「どうして、わざわざオルレーヌさんにそんなことをお伝えしなければなりませんの?」と冷ややかに断わられてしまった。


 イゼリア嬢を生み、育まれたという俺にとっては聖母や神に等しい方々に、ぜひともお会いしたかったのに……っ!


 そして叶うなら「いつもイゼリア嬢を見守ってくださりありがとうございます! ご安心くださいっ! これからは私がイゼリア嬢の親友として、すぐそばで見守り、イゼリア嬢を幸せにしてみますから……っ!」とお伝えしたい……っ!


 さらにあわよくば、おうちではイゼリア嬢がどんな風に過ごされているのか、とっておきのレアエピソードを聞くことができたりしたら……っ!


 くぅぅっ! 感謝のあまり、その場でひざまずいて拝んじゃいそう……っ!


 残念ながらご家族の予定はわからなかったけど、イゼリア嬢は『白鳥の湖』でヒロインを演じられるんだから、ラストの劇はご家族だって絶対観に来られるに違いない!


 ロイウェルだって、ランウェルさん達と一緒に観に来てくれるから、あわよくばオルレーヌ家とゴルヴェント家が一堂に会する可能性だって、まだ十分にあるっ!


 ロイウェル! イゼリア嬢の好感度を上げるために、一緒に頑張ろうなっ!


 俺は緊張にもじもじしているロイウェルに力強く声をかける。


「心配しないで! ロイウェルはいつだっていい子だもの。いつものようにしていたら大丈夫よ! それに、もし何かあったとしても、私がついてるから、安心してちょうだい!」


 イゼリア嬢との距離を埋めるためなら、いくらでもフォローするからなっ! 任せとけっ!


「姉様……っ!」

 ロイウェルが感動したように声を上げる。


「そんなに僕のことを心配して考えてくれてるなんて……っ!」


 俺を見上げるロイウェルの目は星みたいに輝いている。


「来年、僕が念願叶って聖エトワール学園の高等部に入学できたとしても、外部からの新入生は嫌でも目立っちゃうもんね……。そのせいで、僕がトラブルに巻き込まれないように、あらかじめ生徒会のみなさんと顔をあわせておいて、何かあった時には頼れるようにって気遣ってくれたんでしょう? ありがとう、姉様っ!」


 ロイウェルが感動を抑えられないと言いたげに抱きついてくる。


 身長が俺とほとんど変わらないせいで愛らしい顔が間近に迫り、弟と言えど一瞬あせる。


 っていうか、それより……っ!


 すまんっ、ロイウェル! その発想はなかった……っ! まったく欠片も考えてなかったぜ……っ!


 いやでも確かに、第二王子を筆頭とした生徒会の面々と親しかったら、もしロイウェルに目をつけた奴がいたとしても、余計な手出しをしようとはなかなか思わないよなぁ……。


 まっ、ロイウェルは天使みたいにいい子だから、人の恨みを買うなんて心配はないだろうけど!


 ……でも、いままでちゃんと考えたことはなかったけど、もしかしたら、ハルシエルがクラスメイト達と摩擦まさつを起こさずに学園生活を送れているのは、生徒会の一員であるおかげというのも、あるのかもしれない。


 まあ、イケメンどもがぐいぐい絡んでくるせいで、平穏とはほど遠い毎日なんだけどなっ!


「姉様にそんなに思いやってもらえるなんて嬉しいっ! 本当にありがとう!」


 ぎゅっと抱きつくロイウェルに何と返そうかと迷う。


 正直に言ってロイウェルを傷つけるのは絶対嫌だし……。


 ごめんな、ロイウェル! 自分のことしか考えてないお姉ちゃんで! これじゃあ腐女子大魔王の姉貴と一緒だよな……。


 それはダメだ! 俺はあんな人でなしにはなりたくないっ! 断固断るっ!


 大いに反省した俺は、ぎゅっとロイウェルを抱きしめる。


「ううんっ、ロイウェル。お礼なんていらないわ! 私が好きですることなんだもの。気にしないで! ロイウェルも、リオンハルト先輩達が相手だからって、ちゃんとしなきゃとか緊張する必要はないから! 今日は文化祭を思いきり楽しんでね!」


「うんっ! 姉様、ありがとう!」


 うぉっ! まぶしい……っ!


 目の前のロイウェルの笑顔がきらきらと輝く。


「じゃあ、そろそろ下に降りて朝ごはんを食べましょ。今日を乗り切るために、しっかり栄養をとらなくっちゃ!」


「うんっ! 一緒に行こう!」


 抱きしめていた腕をほどいたロイウェルが、にこにこ笑いながら手を伸ばしてくる。


 も~っ、ロイウェルってば、ほんと可愛いな~っ!


 こんな可愛いロイウェルの誘いを無下にできるわけがない。


 そろそろハルシエルの手の大きさを越しそうなロイウェルとぎゅっと手をつなぎ、俺とロイウェルは連れ立って一階へと階段を降りた。


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