314 前にシャルディンさんが朗読してくれたのと同じ詩だったんですよ!


「そういえば、私のクラスは『ラ・ロマイエル恋愛詩集』についての展示をするんです! よかったら、そちらもアリーシャさんと一緒に見に来られませんか? ちょっと恥ずかしいですけれど……。詩を朗読したテープを流したりもするんですよ」


「おや、ハルシエルちゃんが朗読したのかい? それとも、クラスのみんなで?」


「ええっと……。最初は私だけの予定だったんですけれど、なぜか生徒会の面々も朗読することになっちゃって……」


 あはははは、と乾いた笑いをこぼす。


 あの時は、すぐ隣で矢継ぎ早に繰り出されるイケボにどきどきしちゃったけど……。


 あれは、『ラ・ロマイエル恋愛詩集』の素晴らしさに感動しただけだからっ! 断じて、イケメンどもにどきどきしちゃったワケじゃねぇ――っ!


 イケメンどもが朗読したテープを聞いたクラスメイト達には、


「オルレーヌさん、すごいよ! まさか、生徒会の方々にも朗読してもらえるなんて……っ!」


「これで大盛況間違いなしだよっ!」


「リオンハルト先輩やディオス先輩、ヴェリアス先輩だけじゃなく、クレイユ君やエキュー君の朗読まで聞けるなんて……っ! オルレーヌさん、ありがとう! どんなに感謝してもしきれないわっ!」


「当日の当番はわたくし達に任せて! 皆様の朗読を聞いていたら、あっという間に時が経ってしまいそう……っ!」


 って、めちゃくちゃ感謝してもらえたけど……。


 あんな居心地の悪い空間、俺はもう二度と嫌だ……っ! いやっ、イゼリア嬢も参加して、もう一回朗読会を開くんなら、万難を排して出席するけど!


「おや。生徒会の面々も朗読したのかい? それは聞くのが楽しみだね」


「あっ、そういえば、クレイユ君が朗読した詩、前にシャルディンさんが朗読してくれたのと同じ詩だったんですよ! まさか同じ詩を読むなんて思いもしなかったのでびっくりしました!」


「えっ!? クレイユがあの詩をっ!?」


 シャルディンさんが珍しく驚愕の声を上げる。


「ええ、そうなんですけど……。どうしたんですか?」


 蒼い目を瞠り、凍りついたように動きを止めたシャルディンさんにおずおずと問いかける。


「ああ、いや。そうか、……が……」


 表情を隠すように、シャルディンさんが片手で口元を覆ってしまったので、何を言ったのかはくぐもって聞こえない。


 だが、柔らかな弧を描く目を見れば、理由はわからないものの、シャルディンさんが喜んでいることは一目で知れた。


「……本当に、ハルシエルちゃんには、いくら感謝してもし足りないね」


 ややあって、照れたように小さく咳ばらしたシャルディンさんが、真摯な声音で口を開く。


「えぇぇっ!? 急に何を言うんですか!? 感謝しないといけないのは、私のほうですよっ!」


 ぶんぶんぶん、と首を横に振るが、シャルディンさんもゆるりとかぶりを振る。。


「いや、本当に感謝しているんだ。ありがとう」

 深々と頭を下げられ、俺の口から変な声がほとばしる。


「シ、シャルディンさん!? 本当にどうしたんですか!? そんな風に頭を下げられたら困っちゃいます……っ!」


 わたわたと両手を上げ下げしていると、うつむいていたシャルディンさんが、ぷっと小さく吹き出した。


「本当に、ハルシエルちゃんは反応が素直で可愛らしいね。話していると、わたしも癒されるよ」


「なななっ!? 急にどうしたんですか!?」


 まぶしいものを見つめるような柔らかな笑みに、心臓がぱくんと跳ねる。


 いやっ、奥さんがいるシャルディンさんは、何がどう間違っても攻略対象キャラになるわけがないってわかってるから、油断してたけど……っ!


 イケメン紳士の甘い微笑みはなんかヤバイ……っ!


 ブランさんっ! ブランさ――んっ! お願いですから厨房から出てきてくださ――いっ!


「そんなハルシエルちゃんだから、……も恋をしたのかもしれないね」


 脳内でパニックに陥っていた俺は、シャルディンさんの静かな呟きを聞き逃す。


「……へ? 何ですか?」


「いや、何でもないよ。気にしないでおくれ」

 聞き返したが、シャルディンさんは品よく微笑んでかぶりを振る。


「はあ……?」


 あいまいに頷いたところで、背後からブランさんの大きな声が聞こえてきた。


「やあ、シャルディンさん、いらっしゃい! ハルシエルちゃんが、渡したいものがあるって待ちかねてたんだ。来てくれてよかったよ。もう、渡せたのかい?」


「はいっ、ちゃんと渡せました!」


 ブランさ――んっ! 来てくれてありがとう~! さすが、頼りになる~っ!


「ブランさんも聖エトワール学園の文化祭に行くのかい?」


 シャルディンさんの問いかけに、ブランさんが小太りな身体を揺らすようにして大きく頷く。


「もちろんだよ! ハルシエルちゃんがわざわざうちの分も招待状を用意してくれたからね! その日は臨時休業にして家内と一緒に行くつもりなんだ。俺も今から文化祭が楽しみだよ!」


「シャルディンさんも、ブランさんも……っ! そんなに楽しみにしてもらってるなんて、光栄です! 当日は、めいっぱい楽しんでくださいね!」


 イゼリア嬢と素敵な思い出を作るためだけじゃなく、生徒会の一員として、文化祭を成功させようという気持ちは持っているけど……。


 こんな風に楽しみにしているという生徒以外の声を聞くと、改めて頑張らないと! と気合いが湧いてくる。


 よーし! 文化祭、頑張って成功させるぞ!


 それで、イゼリア嬢にもお褒めの言葉をもらうんだ……っ!


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