311 衣装が届くのが楽しみ過ぎるっ!
「いやぁ、みんな見事な演技だったね! 本番の成功も間違いなしだよ!」
ぱちぱちと拍手をしながら、満面の笑みで舞台に姿を現したのは腐女子大魔王である姉貴だ。後ろにはもちろんシノさんも控えている。
理事長特権でナレーションという地味ながらもおいしい役をゲットした姉貴は、それをフルに活用して、毎日の練習に意気揚々と参加している。
この満面の笑みも、心の中で「イケメン達が熱くぶつかり合うクライマックスって素晴らしい……っ! もう、どこまでも萌えられるわ……っ!」と萌えまくる腐女子心が抑えきれなくてあふれ出しているからに違いない。
シノさんだって、いつもはクールな無表情なのに、劇の練習を見た後は、いつも微妙に口元が緩んでるし!
きっと隠れて、練習風景をビデオに収めまくっているんだろうなぁ……。
シノさん! お願いですから、後でそのテープのイゼリア嬢が登場しているシーンだけダビングさせてくださいっ!
っていうか、姉貴は毎日俺達と一緒に練習してて大丈夫なのか!? 理事長の本来の仕事はどうしたっ!?
「理助長にそう言っていただけると、自信が持てます」
上品な笑みを浮かべて、姉貴の言葉に応じたのはリオンハルトだ。
「明日には衣装も届くんだろう? 衣装を身につけて、本番さながらの演技を見せてくれるのを期待しているよ! 明日が楽しみだね!」
それだけは俺も同意するぜ!
オデット姫の白い衣装を纏ったイゼリア嬢、お美しいだろうなぁ……っ!
ああっ! 試着の時のイゼリア嬢のお姿がまざまざと脳裏に浮かぶ……っ! オデット姫の衣装を纏って、舞台で演じるイゼリア嬢……っ!
ヤバイ! 劇場が天上に変わっちゃうんじゃね!? ほんっと楽しみだなぁ……。
俺はうっとりと妄想の世界に浸る。
『白鳥の湖』の準備も整い、いよいよ文化祭本番が間近に迫っているんだと思うと、緊張すると同時に、わくわくどきどきと胸が弾んでくる。
朝いちばんから、イゼリア嬢が俺のクラスの展示に来てくれる予定になってるし!
……もれなくイケメンどもがくっついてくるのは余計だけど……。
前に録音した朗読のテープを流したら、どんな反応を見せてくれるんだろう……っ! ほんっと楽しみだぜ!
それで、もしチャンスがあったら、他のクラスも一緒に回りませんかってお誘いするんだ……っ!
イゼリア嬢のクラスはエリュシフェール王国の歴史の展示をするんだよなっ!
「案内してくださったお返しに、今度はわたくしがオルレーヌさんを案内してさしあげてよ」
なんて言ってもらえたら……っ! 俺、昇天しちゃうかもっ!
たとえ案内してもらうのは高望みだとしても、せっかくの文化祭! イゼリア嬢も非日常の雰囲気にいつもよりガードが甘くなるかもしれないし、となんとしても青春の一ページを飾る思い出を作るんだ……っ!
イゼリア嬢ときゃっきゃうふふと文化祭を楽しんでいる姿を妄想し、口元が緩みそうになるのを必死でこらえていると、そばにいたディオスに顔を覗き込まれた。
「どうした? ハルシエル。何だか嬉しそうだが……。明日、衣装が届くのが楽しみなのか?」
「はい? ええ、とっても楽しみです!」
イゼリア嬢の麗しいオデット姫を見られるなんて、楽しみに決まってるだろ~っ!
ヤバイ、気をつけてたつもりだったけど、妄想に
焦りながら答えると、ディオスが柔らかな笑みを浮かべた。
「そうだな。俺も楽しみだ」
「ですよね! ディオス先輩の衣装も素敵でしたし、待ち遠しいですよね!」
『プロ―プル・デュエス』の衣装はほんと素敵だもんな~! ディオスが待ち遠しいのもわかるぜ!
俺の言葉に、なぜかディオスが苦笑をこぼす。
「いや……。自分の衣装より、いつもと雰囲気の違うハルシエルの姿を見るのが楽しみなんだが」
「っ!?」
にこやかに告げられたディオスの言葉に息を呑む。
「そ、そそそうですかね!? まあ確かに黒鳥オディールのドレスは、いつもとは違う感じですけど……っ」
「ああ。大人っぽくて素敵だ」
ディオスの甘やかな微笑みにぱくぱくと心臓が騒ぎ出す。
おいっ、ディオス! 急に砂糖をぶっこんでくるな――っ!
そもそも俺は男だから! 綺麗なドレスに浮かれたりしないから!
「ハルシエルちゃんの黒鳥オディールはホント素敵だもんね!」
騒ぐ鼓動を
「いつも可愛らしい感じのハルシエルちゃんとは違って
「エキュー君、ジークフリート王子役をしたかったの?」
ドレスの話題から少しでも離れようと、少し
エキューって主役をしたい! って言うタイプじゃないと思ってたから、ちょっと意外かも。
「えっ、いや! そういうわけじゃないんだけど……っ!」
エキューがあわてた様子で両手を振る。
「そう? エキュー君も格好いいし、王子様役も似合うと思うんだけど……?」
「え……っ!?」
俺の呟きにエキューが碧い目を
「ハルシエルちゃんに格好いいって思ってもらえてるなんて……っ!」
感極まったように呟いたエキューが、やにわに俺の手を握りしめる。
「ありがとうっ! 嬉しいよ!」
うぉぉっ!? 急にどうした!? 満面の笑みが、太陽みたいにぴかーっってまぶしいぞ!?
「ハルシエル! その、俺は……?」
逆側からはディオスがエキューとは対照的に、何やら悲愴な顔つきで尋ねてくる。
「え? もちろんディオス先輩も王子様役にふさわしいですよ。というか、生徒会のメンバーって、ほんと、誰が王子役をしても似合いそうですよね」
二人の様子にたじろぎながら返すと、エキューがしょぼんと肩を落とし、ディオスがほっとしたように表情を緩める。
ん? どうした、二人とも!? また急変したな!?
「んも~っ! ハルちゃんってば、ほんと無自覚に小悪魔なんだから~♪」
ぶくくくくっ、とこらえきれないようにお腹を抱えて吹き出したのはヴェリアスだ。
「……? 黒鳥オディール役なんですから、小悪魔なのは当然でしょう?」
きょとんと問い返すと、なぜかヴェリアスがもう一度吹き出した。エキューとディオスも微妙な表情になっている。
あっ! それとも、ジークフリート王子を
「まったくきみは……」
ヴェリアスに続いてクレイユまでもが苦笑してやって来る。
「ある意味、本当に小悪魔だな。……まあ、そんなところもきみの魅力だが」
クレイユが、不意に甘やかな微笑みをこぼす。
「わたしも王子にふさわしいと言ってもらえて嬉しいよ」
ふだんのクレイユからは想像もつかないような甘い声音に、心臓がぱくんと跳ねる。
「そ、その……っ! だって生徒会の男性陣は女生徒達の人気だってすごいじゃない! っていうか、そもそもエキュー君に言ったことだから!」
だからお前まで乗っかってくんな――っ!
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