男なのに乙女ゲームのヒロインに転生した俺の味方は、悪役令嬢だけのようです ~ぐいぐい来すぎるイケメン達にフラグより先に俺の心が折れそうなんだが~
310 初めてきみを見た日から、ずっと忘れられないんだ
310 初めてきみを見た日から、ずっと忘れられないんだ
「初めてきみを見た日から、ずっと忘れられないんだ」
真剣極まりない声で告げたリオンハルトが、じっと俺の目を覗き込む。
逃げ出したい衝動を意志の力を総動員してこらえ、碧い瞳を見つめ返すと、リオンハルトが甘やかな笑みを浮かべた。
「朝も昼も夜も、きみのことを考えない時はない」
熱を宿した言葉と同時に、リオンハルトの腕が俺の腰の後ろに回され、ぐいっと抱き寄せられる。
ふわりと華やかなコロンの香りが
抱き寄せていないほうのリオンハルトの指先が、そっと俺の頬にふれ。
「わたしが伴侶にと望むのはきみしかいない。どうか、わたしの求婚を受けてほしい――。オデット姫」
よーし! 今回もよく耐えた、俺っ!
「ふふふ。うふふふふ!
溜まりに溜まっていたストレスを爆発させるように、高笑いしながらリオンハルトを突き放す。
「一度口にした言葉は決して取り消せないわ! 舞踏会に出席している者全員が証人よ! ジークフリート王子が愛を誓ったのは、オデット姫ではなく、この私オディール! これでもう、オデット姫は永遠に白鳥から戻ることはできないわ!」
勝ち誇り、高らかに笑う俺――オデット姫に化けた黒鳥オディールの言葉に、リオンハルト演じるジークフリート王子が
文化祭も間際に迫ってきた最近の放課後は、毎日のように通し稽古をしている。
いまは足止めされたオデット姫に代わって、姫に化けた黒鳥オディールがジークフリートに求婚されるシーンだ。
なんていうか……。何度演じても、このシーンすっごい苦手なんだよなぁ……。
さすがなんでもそつなくこなすリオンハルトというか、ジークフリートの演技力がすごくて、熱の入った台詞に、演技とわかっていてもどきどきしちゃうんだよ――っ!
オディールの台詞になる前に、恥ずかしさに耐えられなくなってリオンハルトのことを突き放したくて仕方がなくなるし……。
そのせいで演技もぎこちなくなっているんだろう。このシーンの時は、舞台袖で出番待ちをしているイゼリア嬢の視線が、やけに厳しい気がするんだよなぁ……。
うぅぅっ! すみませんっ、イゼリア嬢! イゼリア嬢のお眼鏡にかなう演技ができるように、俺、もっと頑張りますっ!
俺が心の中で反省している間にも劇はどんどん進み、ヴェリアス演じる魔王ロットバルトと、クレイユ演じる魔王の部下・クレイルの妨害によって、出遅れたオデット姫が舞台に登場する。
「おーほっほ! ずいぶんと遅かったのね、オデット! ジークフリート王子の愛の誓いは、すでに私がもらったわ! 残念ね。あなたの呪いが解ける日が来ることは、決してないわ! あなたは一生、白鳥の姿から戻れないのよ!」
「そんな……っ!」
勝ち誇ったオディールの宣言に、オデット姫が絶望に膝をつく。
ううぅ……っ! 申し訳ありませんっ! いくら劇とはいえ、俺のせいでイゼリア嬢を哀しませてしまうなんて……っ! 罪悪感で胸が張り裂けそうです……っ!
ああっ! でも哀しみに沈むイゼリア嬢のお顔もなんて麗しい……っ!
オデット姫と黒鳥オディールが一緒に登場する唯一のシーンと言ってもいいクライマックスは、何度練習しても喜びが抑えられない。
このシーンがあるからこそ、日々の練習を頑張れているとも言える。
全員が登場するクライマックスは、演技にも身が入るから、演じ終えた時には、へとへとになるんだけど……。
でも、充実感のある心地よい疲労だ。
全員、順調に演技を進め、劇が終わる。
いまは生徒会メンバーや劇のために派遣してもらってる証明担当さんや音響さんしかいないけれど、本番ではこの広い観客席に、満員のお客さんがいるんだろうなぁ……。
闇に沈んでいる観客席を見回し、感慨にふける。
いま俺達が練習をしているのは、本番でも使う劇場の舞台だ。
すでに舞台の上には、たった一回だけの講演で使うにはもったいないほど立派な大道具が揃えられ、リオンハルトやディオス達が身に着けている剣などの小道具もできあがっている。
俺の記憶にある前世の文化祭だと、大道具や小道具なんかも、生徒達が自作してたんだけど……。
さすがセレブ校! 王室御用達服飾店の『プロ―プル・デュエス』に衣装を依頼した時点で気づくべきだったけど……。
大道具や小道具なんかも、その道の専門家が作ってるんだぜ!? 生徒会メンバーは全員、舞台に上がるから、照明や音響さんも外部から人を呼んでるし……。
単なる生徒会の劇にいったいいくらかかっているのか、恐ろしくて考えたくねぇ……っ!
ちなみに、ジョエスさんデザインの衣装も、明日には届く手はずになっているので、俺は今から明日の通し稽古が楽しみで仕方がない。
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