306 イケメンどもの急なやる気はどうしたんだ!?
「……へ?」
予想外のヴェリアスの提案に、まぬけな声が出る。
「ダメですよ! 私のクラスの展示なのに! ……た、確かに、誰がっていう指定はなかったですけれど……」
クラスメイト達には、「オルレーヌさんが朗読してくれたら、それ目当てに来場者が増えるに決まってるから!」って言われたんだよなぁ。だから……。
「そりゃあ、ヴェリアス先輩の朗読だったら、女生徒が大挙してきてくれるでしょうけれど……」
「でしょ~? ハルちゃんも助かるし、一石二鳥じゃん♪」
「それは……。そうかもしれませんが……」
軽い口調で告げるヴェリアスに頷くと、周りのイケメンどもがどよめいた。
「じゃあ、僕だって読む!」
勢いよく「はーい!」と手を上げて宣言したのはエキューだ。
「エキューが読むならわたしも参加しよう」
エキューに続いてクレイユもやけにきっぱりと宣言する。続いてディオスも重々しく頷いた。
「ハルシエルが困っているとなれば、先輩として手伝わないなんて選択肢はないからな。ヴェリアスの発案だというのが
「やっだな~、ディオスったら~♪ オレの発案が気に入らないなら、参加しなくったっていいんだぜ~?」
「すると言っただろう! 男に二言はない!」
茶化すヴェリアスにディオスが眉を怒らせて返す。
「そうだね。みんなが朗読するのなら、もちろんわたしも参加させてもらうよ。ハルシエル嬢の役に立てるのなら、わたしにとっても喜びだからね」
リオンハルトが甘やかに俺に微笑みかけてくる。
おいこらっ! だから砂糖をぶっこんで来るなと……っ!
っていうか、何だ!? イケメンどもの急なやる気は!?
ふだんから女子に言われてるくせに、さらにきゃーきゃー言われたいのか!? さすがイケメン……っ! どんなチャンスも逃さないってことか!?
リオンハルトが端麗な面輪に上品な笑みを浮かべて言を継ぐ。
「『ラ・ロマイエル詩集』の朗読会をしようと言っていたものの、忙しくてできていないままだったからね。代わりといってはあまりに小規模だけれど、せっかくの機会だし、ひとり一篇ずつ好きな詩を朗読するのはどうだろう?」
「え……っ!? で、でも……っ!」
リオンハルトの提案に、必死に声を上げる。
「それじゃあ、イゼリア嬢が参加できないじゃないですか! そんなの申し訳なさすぎますっ!」
俺が朗読会をしたいと言ったのは、『ラ・ロマイエル恋愛詩集』をネタにイゼリア嬢ときゃっきゃうふふと距離を詰めたいからであって、イケメンどもの朗読を聞きたいからじゃねぇ――っ!
「え~っ、でもさぁ~」
ぱらぱらと詩集をめくりながら、ヴェリアスが反論してくる。
「いまからイゼリア嬢を探して呼びに行ってたら昼休みが終わっちゃうじゃん。それに……」
「それに?」
後ろから俺を覗き込んだヴェリアスが悪戯っぽく笑う。
「さっきハルちゃんが言ってたとおり、朗読したテープは展示で流すんデショ? 想像してごらんよ。イゼリア嬢が来たタイミングで生徒会の面々が朗読したのをサプライズで流したら……。かなり喜んでくれるんじゃない?」
「……っ!?」
ヴェリアスの言葉に息を呑む。脳内で流れ出すのはイゼリア嬢の感嘆の声だ。
『まぁっ! オルレーヌさん、素晴らしいわ! 生徒会の皆様の朗読を聞けるなんて! さすが皆様、素晴らしい朗読ね』
『あら、この発案はオルレーヌさんがなさったの? 見直しましたわ!』
って、発案したのはクラスメイトとヴェリアスと言えなくもないけど……。
でも、これはイゼリア嬢を喜ばせてお褒めの言葉をいただけるかもしれない大チャンス!?
それは乗るっきゃないっ!
「わかりました! ヴェリアス先輩、みなさんっ! お願いしますっ!」
深々と頭を下げて依頼する。
「そうこなくっちゃね♪」
楽しそうに笑ったヴェリアスがベンチを回り込み、俺のすぐ隣に座る。
「なんで横に来るんですか!?」
「え? カセットデッキに近いほうがちゃんと声が入っていいじゃん」
「じゃあ、私が移動しますから……」
「ダメだよ。ハルちゃんにはボタンを押してもらわなきゃいけないんだから♪ さ、行くぜ~♪」
「えっ、ちょ……っ!?」
ヴェリアスの勢いに呑まれるように録音ボタンを押すと同時に、ヴェリアスがずいっと俺に身を寄せてくる。
「っ!?」
反射的に身を強張らせた俺の耳に。
「『恋しき人は金の乙女
陽光の髪はわたしを照らす光
歌う声は心を惑わす蜜
たおやかな肢体をかき抱けば
心は歓喜に舞い上がる』」
甘く、熱を宿したヴェリアスの声が忍び込む。
ぱくりっ、と心臓が跳ね、一瞬で顔が燃えるように熱くなる。
び、びっくりした――っ!
おいっ! いきなり不意打ちで俺の耳に囁きかけるんじゃねぇ――っ! 録音するのはカセットデッキだろーがっ!
ヴェリアスが選んだ詩は、前に図書館に『ラ・ロマイエル恋愛詩集』を借りに行って出くわした時に口にしていた詩だ。
あの時も、相手がヴェリアスだってことも忘れて、ついうっかり聞き惚れちゃったけど……。
くそ~っ! ヴェリアスのくせに、こんないい声で耳元で囁くのは反則だろ――っ!
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