305 ハルちゃんはここで何をしてたワケ?
「何をする気だ、ヴェリアス!?」
ディオスが目を怒らせてヴェリアスを睨みつける。が、ヴェリアスは
「え? ナニって……。ハルちゃんとあつ~い
「お断りです! そんなの!」
おっそろしーコトを企むんじゃねぇ――っ! ほんっと、ディオスが防いでくれてよかったぜ……っ!
「やっだな~♪ ハルちゃんってば照れちゃって~♪」
「照れてませんっ! どこをどう見たらそんな風に思えるんですか!?」
「え~♪ だって、ハルちゃんさっきオレの気配に気づいてくれたじゃん♪ それって愛のパワーだろ?」
「なんですか、その不気味なパワーはっ!」
俺が愛のパワーを発揮するなら、相手はイゼリア嬢に決まってるだろ――っ!
「さっき振り返ったのは悪寒を感じたせいですよ!」
あと、これだけイケメンどもが集まってたら、絶対ヴェリアスも現れるに決まってるって思ったんだよっ!
「ヴェリアス。いきなり女生徒に抱きつくのは感心しないな」
リオンハルトが端麗な面輪をしかめて注意する。
「そうですよ! ヴェリアス先輩! よくないと思います!」
エキューも愛らしい面輪を険しくすれば、クレイユも銀縁眼鏡の奥の蒼い瞳を細めて糾弾する。
「ヴェリアス先輩は、一度、ご自分の行動を根本から見直されたほうがいいと思います」
うんっ! ほんとそれっ! 全面的にクレイユに同意するぜっ!
こくこくこくっ! と勢いよく頷くと、「えぇぇ~」とヴェリアスが不満そうに唇を尖らせた。
「ちょっとぉ~。みんなオレにひどくない?」
「日頃の行いのせいだと思います!」
「まったくもって、エキューの言うとおりだ。もう少し、日頃の行いを悔い改めろ」
力強くエキューが言い切り、ヴェリアスから手を放したとディオスもしかめ面で頷くと、ふだんは穏やかなリオンハルトまでもが同意した。
「そうだね。もう少し気をつけたほうがいいと思うな」
「ヴェリアス先輩。さすがに自覚がないなんて言いませんよね?」
「ちょっ!? 無自覚代表みたいなクレイユにまで言われたくないんだけど!」
ヴェリアスが抗議の声を上げるが、クレイユは何が言われたのかわからないと言いたげにきょとんと顔をしている。
「で、ハルちゃんはここで何をしてたワケ~?」
ヴェリアスの問いかけに、イケメンどもの視線が俺に集中する。
俺だけベンチに座ってるから、立ってるイケメンどもに囲まれるのはなかなか威圧感があるんだが……。
ごまかしてもよかったが、別に話したところで問題はないだろうと、正直に打ち明ける。
「クラスの展示のための準備をしていたんです」
「準備を? ひとりでかい?」
リオンハルトが不思議そうに問いかける。気遣わしげに口を開いたのはディオスだ。
「いったい何の準備なんだ? 俺で手伝えることなら何だってするが……」
「いえいえっ! 大丈夫です! ただ単に、『ラ・ロマイエル恋愛詩集』の朗読を録音しようと思っていただけなので……っ!」
「録音?」
エキューがきゅるん、という擬態語が聞こえそうな様子で可愛らしく小首をかしげる。
「そうなの。録音して、展示する教室で流そうって話になったの。それでカセットデッキを持っているから、朗読を頼まれて……。家でしてもよかったんだけど、早めにしてしまおうと思って。それで静かなところへ……」
言外に「だからお前達はどっかへ行け!」という気持ちをこめて告げると、イケメンどもが顔を見合わせた。
しばしの沈黙のあと、真っ先に口を開いたのはヴェリアスだ。
「えーっ! ハルちゃんの朗読、聞いてみた――い♪」
「えぇぇっ!?」
ヴェリアスの要求に、すっとんきょうな声が出る。
「な、何を言うんですか!? 嫌ですよっ、そんなの!」
「え? なんで?」
直球どストレートに聞き返してくるヴェリアスから視線を逸らして、顔を伏せる。
「だ、だって、恥ずかしいですし……」
「く……っ」
「不意打ちとは……っ」
告げた途端、何やら複数の呻くような声が聞こえたが、視線を落としていたので誰が発したのかはわからない。
急にどうしたんだ? 昼食で腹痛でも起こしたのか?
っていうか、ようやく録音する勇気ができた矢先に邪魔が入るなんて……っ!
ほんとは、教室で流されるのも恥ずかしいんだぞ! けど、クラスメイトに頼み込まれたから断れなくて仕方なく……。って、
「あ――っ!」
俺の大声に、イケメン達が驚いたようにそろって目を見開く。
「うっかり、録音ボタンを押しちゃってました……」
たぶん、最初にクレイユとエキューが現れた時に驚いて押しちゃったんだろうな……。
停止ボタンを押した後、きゅるきゅると巻き戻す。録音用に新しいテープを用意しているので、最初まで巻き戻して問題ない。
と、俺の膝の上に置いていた詩集を、背後から身を乗り出したヴェリアスが勝手に持ち上げる。
「あっ! ヴェリアス先輩! 何するんですか!? 返してください!」
あわてて振り返ると、紅の瞳を悪戯っぽくきらめかせたヴェリアスの笑顔にぶつかった。
「え~っ! ハルちゃん、ヒドくない? ハルちゃんが恥ずかしーんなら、代わりにオレが読んだげよーと思ったのに~♪」
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