300 文化祭前にテスト勉強イベントをわざわざ起こすんじゃねえっ!


 文化祭があるといえども、学生の本分は勉学。


 というわけで、心おきなく生徒達が文化祭を楽しめるようにということだろう、中間テストの日程は文化祭の半月ほど前に設定されていた。


 生徒会のメンバーは、基本的にみんな成績がいいんだが……。


「やっぱり学生の本分は勉学だからね。文化祭前であっても、しっかりテスト勉強をする時間は必要だろう。どうだい? せっかくほぼ毎日生徒会室に集まっているのだし、一緒にテスト勉強をして、苦手な科目を補い合ったり、切磋琢磨せっさたくましてみるのは?」


 という理事長である姉貴の鶴の一声で、テスト前のとある日、俺達は生徒会室でテスト勉強をすることになった。


 っていうか、どう考えてもこれは腐女子大魔王の策略だろ――っ!


 理事長だからテストなんて関係ないくせに、ちゃっかりテーブルの一角に陣取ってるし……っ!


 確かに『キラ☆恋』でも、テストごとに勉強イベントがその時一番好感度の高いキャラと起こってたけど、それを無理やり起こすんじゃねぇ――っ!


 イベントではイケメンどものうちのひとりとだったけど、全員とテスト勉強だなんて、むしろ『キラ☆恋』より状況が悪くなってるじゃねーかっ!


 イゼリア嬢も一緒に勉強できるのは嬉しいけど……っ! 他のイケメンどもが邪魔すぎるっ!


 いやでも、このチャンスをなんとしてもものにしてみせる……っ!


「あっ、あのっ! イゼリア嬢! よろしければぜひ私と一緒に――」


「リオンハルト様。よろしければわたくしに数学をお教えくださいますか?」


 俺が誘いの言葉を言い終えるより早く、イゼリア嬢がリオンハルトにお願いをしてしまう。


 ああっ! 小首をかしげてのぞきこむイゼリア嬢も天使みたいにお可愛らしいですっ! って、そうじゃなくて!


 イゼリア嬢! 数学なら俺にお任せくださいっ! これでも中身は高校三年生ですからっ! リオンハルト以上に知識があります! って言えたら、どれだけいいか……っ!


 っていうか断われ、リオンハルト! そうすれば俺がイゼリア嬢に教えるチャンスも……っ!


 心の底からの願いをこめてリオンハルトを見つめたが、俺の祈りもむなしく、リオンハルトはあっさりと、


「わたしでよければもちろんかまわないよ」

 とイゼリア嬢に頷いてしまう。そればかりか。


「ハルシエル嬢も数学が不安なら一緒にわたしが見ようか?」

 と俺も誘ってくれた。


「っ!?」


 さすがリオンハルト! 素晴らしい気遣いだぜっ! リオンハルトが邪魔とはいえ、イゼリア嬢と一緒にテスト勉強ができるなんて……っ!


 いそいそと頷こうとした瞬間。


「いや、リオンハルト。ひとりで二人を見るのは大変だろう。ハルシエル嬢はわたしが見よう」


「ハルシエルちゃんのことはオレに任せなよ~♪ オレが手取り足取り全教科教えてあげるからさ♪」


 ディオスとヴェリアスが横から余計な口を挟んでくる。


 ええいっ! お前らっ! 邪魔するんじゃねぇ――っ! 俺はイゼリア嬢と――、


「ディオス様とヴェリアス様がおっしゃる通りですわ! リオンハルト様が大変ですもの。オルレーヌさんはお二人のどちらかに見ていただいたらいかが?」


 当のイゼリア嬢がディオスとヴェリアスの言葉に同意する。


 そ、そんな……っ! ですがリオンハルトを気遣うイゼリア嬢、マジ天使です! つやかな御髪おぐしの上に天使の輪っかが輝いているのが見えますっ!


「わたしは別に負担ではないが……」

 リオンハルトがかぶりを振るが、ディオスもヴェリアスも聞いちゃいない。


「ハルちゃんはもちろんオレがいいよね~♪」


「いや、ヴェリアスだと途中でふざけそうだからな。ここはわたしのほうがハルシエルも安心だろう」


 二人がぐいぐいとテーブルに身を乗り出してくる。

 だから、イケメンどもと勉強なんざ御免だっての!


「いえ、わたしはひとりで勉強できますから……」


「え〜っ! それだと、せっかく勉強会を開いてる意味がないじゃん!」 

 ヴェリアスが唇をとがらせる。


 いやっ! そもそも俺はイゼリア嬢が参加するのと、腐女子大魔王の姉貴がコワイから参加してるだけであって、別にイケメンどもに勉強を教えてほしいわけじゃないからっ!


 っていうか、ディオスもヴェリアスも、声をかけるならエキューにかけてやれよ! 一年生メンバーの中で一番成績に自信がないのはエキューなんだから!


 いやでも、エキューにはクレイユがぴったりくっついてマンツーマンで教えてるか……。


 姉貴だって、クレ×エキュに萌えて大人しくしてるだろうしな!


 と思っていると。


「ではハルシエル嬢。わたしと一緒に端のほうでそれぞれ勉強するか?」


 クレイユまでが口を挟んでくる。


 いやっ、それぞれ勉強するなら一緒って言わないからっ! っていうか、ややこしくなるからお前まで入ってくんなっ!


 そもそもお前っ、エキューはどうした――っ!? 放っておいちゃダメだろーがっ!


「もうっ! クレイユ君はエキュー君の勉強を見てあげないといけないんだから、私と勉強している場合じゃないでしょう? ほら、エキュー君が寂しそうにしてるじゃない」


 決して成績が悪いわけではないものの、生徒会メンバーの中では一番、勉強が苦手なエキューが、捨てられた子犬みたいな顔でこちらを見ている。


 きゅぅん、という鳴き声と一緒に、ぺしゃんと垂れた耳と尻尾の幻影まで見えるかのようだ。


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