290 ここ最近で一番のファインプレーだぜ!
「みんなが参加するなら、もちろんオレも参加しないとね♪」
ヴェリアスが声を弾ませてウインクする。
お前もかっ、ヴェリアスめ! そもそもお前が余計なことをイゼリア嬢に聞いたせいでイケメンどもがわらわら参加を表明する羽目になったんだぞ――っ!
思いきり睨もうとした瞬間、ヴェリアスが絶妙なタイミングでイゼリア嬢を振り返った。
「どう、イゼリア嬢? みんなもこう言ってるんだし、せっかくだから生徒会メンバーみんなでハルちゃんのクラスの展示を見に行かない? オデット姫を演じるプレッシャーもわかるケド、年に一度しかない文化祭なんだし、楽しまなきゃ損だぜ♪」
「ヴェリアス様……」
ヴェリアスの言葉に、イゼリア嬢が考え深げに視線を伏せる。
どきどきしながら俺が見守っていると、イゼリア嬢がそっと息を吐き出した。
「そう、ですわね。ヴェリアス様のおっしゃる通りですわ。皆様が行かれるのでしたら……。わたくしも参ります」
「っ!?」
イゼリア嬢の返事に息を飲む。
ま……
ぃやったあぁぁぁぁ――っ! 断られる寸前からの、まさかの大逆転ホームラン!
ヴェリアス、ここ最近で一番いいこと言ったっ! 今までの失点を帳消しにしてやっていいくらいのファインプレーだぜっ!
「イゼリア嬢! ありがとうございますっ! イゼリア嬢に来ていただけるなんて……っ! 嬉しいです! 当日は心をこめてご案内させていただきますねっ!」
喜びのあまり思わずイゼリア嬢の手をとると、アイスブルーの瞳がすっ、とすがめられた。
「言っておきますけれど、リオンハルト様達が見学なさるとおっしゃるから、わたくしも行くのですわよ? リオンハルト様達が見るに値しないような内容でしたら、承知いたしませんわよ!」
イゼリア嬢が俺の手から指先を引き抜きながら冷ややかに告げるが、喜びに浮かれる俺はまったく気にせず、こくこくと大きく頷く。
「はいっ! イゼリア嬢に感嘆していただけるように、展示内容に磨きをかけますね!」
嬉しい……っ! イゼリア嬢と文化祭の思い出を作れるなんて……っ! 青春の甘酸っぱい思い出をなんとしても輝かしいものにしてみせるっ!
イケメンどもまで一緒なのが残念だけど……。
でも、イケメンどもが来なかったら、イゼリア嬢もいらしてくれなかったところだから、今回ばかりは仕方がないよな、うん。
「ねーねー、ハルちゃ〜ん♪」
喜びにひたる俺に、にやにや笑いながら話しかけてきたのはヴェリアスだ。
「ねぇ、何かオレに言うコトない?」
「はい? あ、別にヴェリアス先輩は来ても来られなくてもどちらでもよいですよ?」
むしろ来なくていいぞっ! イケメンどもはひとりでも少ないほうがいいに決まってるからなっ!
「ちょっ!? ナニその突然の塩対応っ!? オレ、泣いてもいいっ!?」
よよよ、とヴェリアスが芝居がかった仕草で泣き真似をする。
「生徒会メンバーで行けるようにアシストしたオレへの仕打ちがソレっ!?」
と、今まで泣き真似をしていたのはどこへやら、にやけきったドヤ顔を浮かべる。
「ほらぁ〜♪ 『ヴェリアス先輩! ありがとうございますっ♡』ってお礼を言っていいんだぜ〜♪ 今なら感謝のハグだって受け付けちゃう♪」
ヴェリアスがこれみよがしに両腕を広げるけど……。
誰がお前とハグなんかするか――っ!
「一瞬、ヴェリアス先輩のことを見直しかけましたけど、ほんと一瞬の幻でしたね。さっきの発言で今までさんざん迷惑をかけられてきたのを帳消しにしてもいいかと思いましたけど……。今ので差し引きマイナスになりました」
「ちょっ!? ハルちゃんひどくない!?」
紅い目を
「いえ、ハルシエル嬢の言い分はもっともでしょう。イゼリア嬢のプレッシャーを軽減させる発言はわたしも評価しますが、ヴェリアス先輩はふだんの言動が傍迷惑過ぎますから。少々のプラス程度では、マイナスからの脱出は不可能です」
「……へぇ。言うじゃんか、クレイユ」
ヴェリアスの紅い瞳に不穏な光が宿る。
「いや、クレイユの言うことも一概に否定はできないだろう」
クレイユを庇ったのはディオスだ。
「やはり、信頼というのはふだんの言動から、こつこつ積み上げて行くものだからな」
さすがディオス! 生徒会役員の良心!
ふだんから誠実なディオスは、言葉の重みが違うなぁ……。
よーし、俺もふだんからこつこつイゼリア嬢の好感度を上げるべく頑張るぜっ!
とりあえず、心の底から残念だけど、イゼリア嬢のお声のテープは文化祭が終わるまで封印して……。
オディールの演技もクラスの展示も全力を尽くして、イゼリア嬢に「オルレーヌさんもなかなかやりますわね。認めてさしあげてもよくってよ」と言ってもらえるように頑張るぜっ!
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