284 夢から覚めれば、目の前に……。


「ハルシエル嬢はよく寝ているな……。やはり、よほど疲れていたんだろう」


「ハルシエルちゃんって、寝顔もほんと可愛いねっ!」


「ああ、控えめに言っても天使だな」


「いや〜、クレイユにしてはGJだったんじゃない?」


「ヴェリアス先輩。わたしにしては、というのはどういう意味ですか?」


「ヴェリアス、クレイユ。そんなに大きな声では、ハルシエル嬢が起きてしまうよ? それに、寝ている令嬢の顔をあまりまじまじ見るのは……」


「とか言いつつ、リオンハルトもしっかり来てるじゃん♪」


 んん? 何だよ、うるさいな……。


 いま、イゼリア嬢とお互いにオデット姫とオディールの演技を褒めあってきゃっきゃうふふしてんだから……。イケメンどもは邪魔すんなっ!


 文句を言おうとして、俺は夢から目が覚める。

 うすぼんやりと開けた視界に飛び込んできたのは……。


 俺をのぞきこむイケメンども五人の顔だ。


「っ!?」

 驚きに一瞬で覚醒する。


「なっ⁉ ななななな……っ!?」


 かすれた声を上げて周りを見回した俺は、ここがオルレーヌ家の自分の部屋ではないと気づいた。


 そうだ。今朝、登校した途端、クレイユにお姫様抱っこで保健室まで連れてこられて、仮眠を取ることになって……。


 って、何でイケメンどもがそろって俺の顔をのぞきこんでるんだよっ!?


「いったい何ですか!?」


 思わず掛け布団を目の下まで引き上げながら、イケメンどもを睨みつけると、五人がそろって気まずそうな顔になった。


 代表して口を開いたのはリオンハルトだ。


「クレイユから、きみが体調を崩したと聞いてね。クレイユはたいしたことはない。少し休めば大丈夫だろうと言っていたが、心配でたまらなくて様子を見に……」


 リオンハルトに続いて、ディオスが大柄な身体を折りたたむように頭を下げる。


「すまない、ハルシエル。眠っているところを尋ねるなんて、失礼だとわかっていたんだが、心配で矢も盾もたまらず……」


「ハルシエルちゃん、体調はどう? まだつらい?」


 エキューが身を乗り出し、心配でたまらないと言いたげな様子で尋ねてくる。


「顔色は、朝見た時より、ましなようだが……」


 俺がどれだけ回復したのか測ろうと言わんばかりに、クレイユが銀縁眼鏡の奥の蒼い瞳をすがめる。


「だ、大丈夫! もうなんともないから……っ!」


 心配してくれたのはよくわかったけどっ! だからって、イケメン全員で押し寄せて来るんじゃねぇ――っ!


 っていうか、お見舞いっていうならイゼリア嬢はっ!? イゼリア嬢のお見舞いなら、泣いて喜びますからっ!


 むしろ喜びのあまり、もう一回ベッドに気絶するレベルっ!


 って、イゼリア嬢が来てくださってるのに、そんな失礼はできねぇ……っ!


「あの、イゼリア嬢は……?」


 すがるような思いで尋ねると、俺の心中も知らず、クレイユがあっさり答える。


「イゼリア嬢なら、昼食をとりに食堂へ向かったのを見たが?」


「えっ!? もうそんな時間なんですか!?」


 よく寝たという感覚はあるけど、まさかそんなに時間が経っていたとは……。


 お昼休みなら仕方がない。空腹のせいで、イゼリア嬢の麗しのお顔が曇るような事態になったら、世界の損失だもんなっ!


 っていうか、運んでくれたクレイユと、同じクラスのエキューはまだしも、なんで他のメンバーまで保健室に集合してるんだろう……?


 今さらながら不思議に思っていると、ヴェリアスが不満げに唇をとがらせた。


「も~っ! ハルちゃんってば、体調が悪いんならクレイユじゃなくてオレに頼ってくれたらよかったのに~! そしたら、オレがお姫様抱っこで、保健室だろうとどこだろうと運んであげたのにさ♪」


「そんなの結構ですっ! 全力でお断りしますっ!」


 即座にきっぱり断ると、ヴェリアスが紅の瞳をすがめた。


「なんでクレイユならOKなのに、オレだとダメなワケ?」


「誰だろうとお断りですよっ! クレイユ君にも、運んでほしいなんてひとことも言ってませんっ!」


 むしろ放っておいてほしかったよ! 心の底からっ!


「いやでも、すごい噂になってるぜ? 特に女子がきゃーきゃー騒いでたし」


 ぎゃ――っ!やっぱりかぁ――っ!


 ってことはあれか!? リオンハルトやディオス達まで来てるのは、噂を聞きつけたからか!?


 いったいどんな尾ひれがついた噂が流れてるのやら……っ!


 うぅっ、もう一回夢の世界へ逃避したい……っ! それで、イゼリア嬢ときゃっきゃうふふしてたさっきの夢の続きを見るんだ……。


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