252 一緒に読み合わせをしませんかっ!?
「では、採寸やデザインの打ち合わせのためにデザイナーも呼ぶとして……。ああ、練習のための場所も押さえておかないといけないね」
「大丈夫です。それはすでに手配しています」
リオンハルトの言葉に間髪入れずにクレイユが返す。さすがクレイユ、手配はばっちりらしい。
「まあ、台本の読み合わせなら生徒会室でも十分できるだろうしな」
ディオスの言葉に、勢いよくイゼリア嬢を振り返る。
「あのっ! イゼリア嬢! 一緒に読み合わせをしませんかっ!?」
ナイスディオス――っ! 読み合わせをダシにすれば、イゼリア嬢と一緒に過ごせるぜ……っ!
だが、俺の誘いに、イゼリア嬢は冷ややかにアイスブルーの瞳をすがめる。
「なぜ、オルレーヌさんと読み合わせをしなければなりませんの? そもそも、オデット姫と黒鳥オディールが一緒に舞台に立つシーンなんて、ほとんどないではありませんの!」
しまったぁ――っ!
確かに、オデット姫と黒鳥オディールが一緒に登場するシーンなんてほとんどない……っ!
前半はオデット姫とジークフリート王子のシーンが多くて、オディールと一緒に出るのはロットバルトか部下役だし、後半のダンスパーティーのシーンは、オディールがオデット姫に化けるからオデット姫は出てこないし……っ!
イゼリア嬢が演じられるヒロインを舞台袖の特等席でによによ観られるぜ! って浮かれてたけど、こんなことなら、シャルディンさんにもっとオデット姫とオディールが一緒に出るシーンを書いてもらっておけばよかった……っ!
くそぅっ、何たる不覚……っ!
いやっ、ここでくじけるな俺! イゼリア嬢と仲良くなれるかもしれないチャンスを逃すなんて、とんでもない!
「大丈夫ですっ! 私がオディール役以外も演じれば問題ありませんからっ! なんといってもイゼリア嬢はヒロインですから、台詞も多いでしょう!? なので、何度も台本を読む必要がおありなんじゃないかと……っ!」
「失礼な! それはわたくしが物覚えが悪いとおっしゃりたいの!? たんぽぽ頭なあなたにそんなことを言われるなんて……っ! 心外ですわっ! それに読み合わせをするのでしたら、ちゃんと相手役のリオンハルト様にお願いしますわ!」
「ち、ちが……っ! 違うんですっ!」
アイスブルーの瞳に怒りの炎をきらめかせるイゼリア嬢に、俺はぶんぶんと千切れんばかりにかぶりを振る。
「私が言いたいのはそうではなくて……っ! ほ、ほら! リオンハルト先輩は生徒会長ですし、きっとお忙しいだろうと思いまして……っ! その点、庶民の私なら暇ですから! いくらでもイゼリア嬢の練習におつきあいできると、そういう意味で……っ!」
イゼリア嬢の誤解を解こうと、うろたえながら必死に説明していると、リオンハルトが頷いた。
「確かに、これから本格的に文化祭の準備が始まれば、全員が一堂に会するタイミングも限られてくるだろう。手の空いている者同士で読み合わせをするのはいいアイデアだろうね」
よっし、リオンハルト! ナイスフォロー!
と、リオンハルトがイゼリア嬢ににこやかに微笑む。
「もちろん、きみが望むなら、できるだけ読み合わせの時間を取るようにはするけれどね」
「リオンハルト様……っ! ありがとうございます!」
ぽっ、と頬を桜色に染めたイゼリア嬢が、感極まった声でリオンハルトに礼を述べる。
おい待てリオンハルト! そこは「わたしは忙しいから、わたしの代わりにハルシエル嬢と読み合わせをするといい」って言うとこだろっ!? お願いだからそう言えっ!
そうしたら、俺が堂々とイゼリア嬢と読み合わせできるってのに……っ!
たとえ台本の上だとしても、イゼリア嬢に「あなたをお慕い申しあげております」なんて言われたりしたら……っ!
あっ、やべぇ。想像するだけで興奮のあまり鼻血が出そう……っ! 気合いを入れて引き締めておかないと、思わず顔が緩んじゃうぜ!
と、ヴェリアスがにやけ顔で口を開く。
「じゃあ、ハルちゃんが暇だってゆーんなら、オレとの読み合わせを手伝ってもらおっかな~♪」
はぁっ!? ちょっと待てヴェリアス、なんでお前なんかと……っ!
「いや、ハルシエル。もしよかったら俺とも……」
「僕もハルシエルちゃんと読み合わせしたいっ!」
「いや、やはり読み合わせをするなら部下役のわたしとだろう。実際、台本でもわたしとハルシエル嬢のシーンは多いし……。ディオス先輩はエキューとなさったらどうですか?」
ディオスにエキュー、クレイユまでも次々と身を乗り出してくる。
ちょっと待て――っ!
確かに「暇だ」って言ったけど、それはイゼリア嬢と読み合わせをするためなら、何をおいても一番に時間を取りますって意味であって、別にお前らの読み合わせにまでつきあう気なんざ、これっぽちもねぇ――っ!
放課後は『コロンヌ』でのバイトだってあるんだし……っ!
「そーそー、クレイユの言う通り、王子の友人役同士、ディオスはエキューと読み合わせをしなよ♪ 悪役同士、ハルちゃんはオレと読み合わせをしよーね~っ♪」
ヴェリアスが勝ち誇ったようなドヤ顔でディオス達に言う。即座にクレイユが銀縁眼鏡の奥の蒼い瞳をきらめかせて反論した。
「それなら、部下役のわたしも加えてもらわなくては困りますね、ヴェリアス先輩。読み合わせをするのなら、三人で、しましょう」
やけに「三人で」の部分にアクセントを置きながら、クレイユが言う。
ええぇぇぇ~っ! もうディオスとエキュー、ヴェリアスとクレイユでしろよ――っ! 俺の台詞はヴェリアスかクレイユのどっちかが読んでくれたらいいから! 俺は一人で練習するし!
俺が読み合わせをしたいのはイゼリア嬢とだけであって、断じて! お前らイケメンどもとしたいワケじゃね――っ!
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