251 イゼリア嬢は気に入ってくださいましたか!?
「だ、誰がアドバイザーでもいいじゃないですか! それより、問題にするべきは台本の内容でしょう!?」
話を逸らすべく、俺は大声を上げる。
「ああ……。まったく、この台本は素晴らしいねっ!」
力強く頷いて応じたのは姉貴だ。
「この、ジークフリート王子と友人達との熱い友情! ジークフリート王子の思いを叶えるためには、自己犠牲も
感動を抑えきれないと言いたげに熱く語った姉貴が身を乗り出す。
いやちょっと待て姉貴! なんで真っ先に出てくる感想がソコなんだよっ!?
ふつー、オデット姫とジークフリート王子の感動的なハッピーエンドが一番心に響くだろっ!?
お前の脳内で繰り広げられてるのは、絶対にめくるめく腐妄想だろっ!? イケメン紳士な理事長の偽装がハゲかけてんぞっ!?
俺は今にも「うぇっへっへっへっへ……っ」と笑いだしそうなほど、にやけた顔をしている姉貴に心の中で思いっきりツッコむ。
っていうか、どこをどう読んだらオディールを挟んでロットバルトと部下役が三角関係に見えるっていうんだよっ!?
俺が読んだ時はそんな風には思わなかったぞっ!?
俺を挟んでヴェリアスとクレイユが三角関係だなんて……っ! たとえ劇の中だとしても、そんな不気味なモン、演じてたまるか――っ!
「ここまで読んだ者の想像を刺激する才能があるとは……っ! この才能あふれた脚本家をこのまま埋もれさせておくのは、あまりに惜しい……っ! ぜひとも我が学園の演劇部の専属脚本家になってほしいね……っ!」
おい待てっ!? 演劇部にどんな劇を演じさせるつもりだ、この腐女子大魔王め……っ!
っていうかシャルディンさんはもう自分の劇団の専属脚本家だからっ!
「やはり、理事長もこの素晴らしい脚本家の正体をお知りになりたいようですね……」
リオンハルトがやけに真剣な面持ちで口を開く。他のイケメンどもも緊張した表情で頷いた。
うぇええっ!? なんでそこに話が戻ってくるんだよっ!?
シャルディンさんの名前は明かせないっていうのに……っ!
「イ、イゼリア嬢っ! イゼリア嬢は台本を読まれてどんな感想をお持ちになられましたか!? どうでしょう!? 気に入っていただけたでしょうか!?」
俺は黙りこくって台本に視線を落としたままのイゼリア嬢に問いかける。
イケメンどもだって認めてるから、きっとこの台本が却下になることはないだろうけど……っ。
でも、一番大事なのはヒロインであるオデット姫を演じるイゼリア嬢のお気持ちだもんなっ!
シャルディンさんには、観客全員が幸せになるようなハッピーエンドでお願いします! と依頼して、その通りに書いてもらってるけど……。
不安な気持ちでイゼリア嬢に問いかけると、魅入られたように台本を読みふけっていたイゼリア嬢が、我に返ったように顔を上げた。
「ど、どうなさいましたかっ!?」
その面輪を見た途端、俺は思わずテーブルに身をついて乗り出す。
イゼリア嬢のアイスブルーの瞳には、うっすらと涙がにじんでいた。
俺の叫びに、イゼリア嬢があわてた様子で顔を背ける。
「な、何でもありませんわっ! あまりに素晴らしい台本に感動しただなんて、そんな……っ」
潤んだ瞳をごまかすように、イゼリア嬢が何度もまばたきを繰り返す。
よ、よ、よかったぁ――っ!
一瞬、驚きのあまり心臓が止まるかと思ったぜ……っ! イゼリア嬢に泣かれたら、正気でいられる気がしない。
ほんと、何事かと焦った……っ! でも、台本だけで感動して目を潤ませるなんて、イゼリア嬢ってばなんて繊細な感性をお持ちなんだろう……っ! さすが俺の天使ですっ!
初めて見たイゼリア嬢の潤んだ目に、どきどきが止まらない。もし、あんな顔で「オルレーヌさん、お願いが……」なんて言われたら、どんな願い事だって叶えてしまいそうだ。
顔を背けたまま、イゼリア嬢が早口に告げる。
「は、
「はいっ! イゼリア嬢のおっしゃる通りです!」
力いっぱいこくんと頷く。
『コロンヌ』でバイトして、常連のシャルディンさんと仲良くなれたばかりか、台本のアレンジまでお願いすることができて……っ!
ほんっと、俺ってラッキーだよなっ!
シャルディンさん! ほんっと、ありがとうございます……っ! シャルディンさんのおかげで、イゼリア嬢に褒められたばかりか、超レアな、イゼリア嬢が涙ぐみお姿まで見ることができました……っ!
どれほどの感謝を捧げても足りません……っ!
「では、誰もこの台本に異議はないようだし、これを元に練習を進めていくということでよいね?」
テーブルの面々を見回して確認したリオンハルトに、全員が頷く。
「そういえば……。大道具とか衣装とかって、どうするんですか? 演劇部から借りるんでしょうか?」
ふと疑問に思って尋ねると、イゼリア嬢が呆れたようにアイスブルーの瞳をすがめた。
「オルレーヌさんったら、借りるだなんて、本当に発想が庶民みたいですわね。いえ、庶民みたいではなくて、本当に庶民でしたわね!」
おほほほほ、と高笑いしたイゼリア嬢が教えてくださる。
「リオンハルト様達が借り物の衣装など、纏われるわけがないでしょう? 演劇部員の衣装だって、既製品ではなく、部員ごとのオートクチュールですもの。もちろん、生徒会が演じる『白鳥の湖』の衣装も、オートクチュールに決まっていますわ!」
きっぱりと断言したイゼリア嬢の言葉に、思わずぽかんと口が開く。
え……? マジで……っ!? 文化祭のためだけの衣装をわざわざあつらえるんですか!?
「大道具や小道具を頼む職人達は去年と同じでいいだろうか?」
ディオスの言葉に、ヴェリアスが「いいんじゃない?」と頷く。
「去年の舞台装置もいい感じだったしさ~。今回はお城を舞台にしたダンスパーティーのシーンもあるし、ばばーんと派手なのにしようぜ♪」
ヴェリアスに続き、クレイユとエキューもわくわくと口を開く。
「森の中の
「ロットバルトの根城は、いかにも悪の本拠地って感じだと、メリハリが効いていいかも!」
えっ、ちょっ!? どこまで豪華な舞台にする気なんだよっ!? 舞台装置まで本職に造らせんの!?
俺達が劇をするのって文化祭だよなっ!? 入場制限があるとはいえ、学校行事だよなっ!?
イケメンどものセレブっぷりには、いまだについていけねぇ……っ! 貧乏人の俺とは、根本の発想からして違うぜ……。
……はっ! でもオートクチュールということは……っ!
イゼリア嬢の素晴らしくお美しいオデット姫を拝むことができる……っ!?
ふぉおおおおおっ! どんな感じだろ!? やっぱり清楚な感じかな!? イゼリア嬢のお美しさなら、どんなドレスを着たって、麗しいに決まってるけどっ!
楽しみ~っ! 衣装を着て練習する日が今からめちゃくちゃ楽しみだぜ……っ!
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