250 それは、ぜひとも知りたいな
「これは……」
「ああ、予想以上だな……」
リオンハルトとディオスが厳しい顔つきで
いや、難しいのをしているのは二人だけじゃない。
生徒会室の大きなテーブルに座る姉貴を含めた生徒会メンバーの全員が、真剣な表情で手元の冊子を見つめていた。
全員の手にあるのは、ついさっき俺がコピーして配ったばかりの『白鳥の湖』の台本だ。
昨日の夕方、『コロンヌ』でバイトをしている時にシャルディンさんが来てくれ、
「台本ができあがったよ。読んで、気になるところがあれば修正するから、すぐに言ってほしい」
とタイプされた紙の束をいただき、さっそく今日、生徒会の面々に見せたのだが……。
「あのぅ、皆さん黙りこくってどうかしましたか……? も、もしかして、台本が気に入らないとか……?」
夕べ、家で先に読んだときには、「さすがシャルディンさん! イゼリア嬢の魅力が余すところなく書かれていて、素晴らしいですっ!」と感動したんだけど……。セレブ達だと、また感性が違うんだろうか……?
台本が気に入らなかったから、やっぱり『白鳥の湖』以外で……。なんて、お願いだからやめてくれよっ!?
不安を隠せず問いかけ、テーブルの面々を見回す。
あわててかぶりを振ったのはリオンハルトだった。
「気に入らないだなんて、とんでもない! まったくの逆だよ!」
ディオスもまた早口にリオンハルトの後に続く。
「予想以上というのは、予想以上に素晴らしい台本だということだ! 正直……。ここまで素晴らしい台本が仕上がってくるとは……。あ、いや、決してハルシエルを侮っていたというわけではないんだが……っ」
「すごいよ、ハルシエルちゃん! こんなすごい台本が書けるなんて! 僕、感動して泣きそうになっちゃった!」
エキューが感極まった声を上げる。少し潤んだ明るい緑の瞳は、エキューの言葉がお世辞などではなく本心なのだと雄弁に示していた。
クレイユもエキューに続いて力強く頷く。
「ああ、素晴らしい台本だ。ここまでの台本が書けるとは……。正直、きみを見誤っていたよ、ハルシエル嬢。恋愛詩集を愛読しているだけあって、文学的才能にもあふれているんだな、きみは」
銀縁眼鏡の奥の蒼い瞳に見つめられ、俺はあわててかぶりを振った。
「ち、違うの! 褒めてくれるのは嬉しいけれど誤解よ! これは私が書いたものじゃないの! アレンジは全部、アドバイザーさんがしてくれたもので……っ!」
「アドバイザー?」
クレイユがいぶかしげに目を細める。
「こんな見事な台本を書けるなんて、只者ではないようだが……。いったい、誰にアドバイスをもらったんだ?」
「やっぱり、クレイユも気になるかい?」
リオンハルトが気持ちはわかると言いたげな声を上げる。クレイユが大きく頷いた。
「ええ、誰なのか知りたいですね。見事なハッピーエンドに書き換えただけでなく、主人公のジークフリート王子とオデット姫の切ない心情を見事に描いている台詞の数々。それだけでなく、増えた登場人物まで、まるで最初から原作にいたように組み込まれている巧みな構成……。いったい、誰がハルシエル嬢に協力してこれを書いたのか、純粋に気になりますね」
クレイユの言葉に、我が意を得たりとリオンハルトが頷く。
「ああ、わたしも台本を読んで、さらに知りたくてたまらなくなっているんだよ。ハルシエル嬢が言うには、とても紳士的な人物らしいんだが……」
リオンハルトのひと言に、なぜかイケメンどもがどよめく。
なんだなんだ!? 急にどうした!?
「……それは、誰がハルシエルを手伝ったのか、ぜひとも知りたいな……」
「ハルちゃんってば、誰に手伝ってもらったの!? 僕達の知ってる人!? この学園の生徒なの!?」
低い声で呟いたディオスに続き、エキューが身を乗り出す。「ん~?」と顔をしかめて唸ったのはヴェリアスだ。
「こんな巧みな台本、演劇部員でもそうそう書けるとは思えないんだケド……。これを見せられちゃあ、ハルちゃんがオレ達を頼らなかったのも仕方がないと思えるできだもんねぇ。でも、端々の台詞回しとか、微妙に知っている気がするっていうか……」
「何っ!? ヴェリアス、これを誰が書いたのかわかるのか!?」
ディオスがヴェリアスの呟きに食いつく。
うぇええっ!? ヴェリアス、もしかしてシャルディンさんの劇を観たことがあるのか!?
シャルディンさんは、自分の劇団を貴族達が観に来ることなんて、そうそうないって言ってたけど……。ヴェリアスは意外と庶民派なところがあるから、女の子とのデートとかで観たことがあるのかもしれない。
とにかく、シャルディンさんが書いたってバレるのはマズイ!
っていうか、お前らなんでそんなにアドバイザーが誰か根掘り葉掘り聞こうとするんだよっ!?
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