245 もっときみと親しくなれば、もしかしたら……。
「生徒会の面々ということは……。きみも、わたしのことをちゃんと知ってくれているということだろうか……?」
まるで、否定の言葉が返ってくると最初から知っているかのように、クレイユとは思えない弱気な声で、おずおずと尋ねられる。
おいっ! 確かに俺だけは他の生徒会のメンバーと違って、四月からの短いつきあいだけどさ! 仮にも一学期の間、一緒に活動してきた仲間に対して、信じられないと言いたげなその言い草はないだろ!?
「もちろんじゃない!」
憤然と大きく頷く。
「こうやって一緒に手伝ってるっていうのに、クレイユ君はまだ私のことを仲間だと思ってくれてないっていうの!? それとも、私が陰で悪口と言うような奴だって、内心では思っているわけ!?」
「ち、違う! そうじゃないっ! 違うんだ……っ!」
きっ、と睨みつけた俺に、クレイユがあわてて首を横に振る。
「そう思っているわけじゃなくて、その……っ」
しどろもどろで言葉を探していたクレイユが、
「ふ……っ。くくくく……っ、あははははっ!」
突然、壊れたように笑い出す。
何だっ!? どうしたっ!? 根を詰めて作業しすぎて、頭のネジが
「きみは……。本当に、もう……っ」
ひとしきり、こらえきれないように肩を震わせていたクレイユが、ようやく笑いをおさめて俺を見つめる。
「きみと話していると、予想もつかないことを言われてばかりだな。目から
楽しげな笑みを浮かべたクレイユが口を開く。
へ? 目からウロコって……。俺、そんなに変なこと言ったっけ……?
きょとんと見返すと、クレイユが小さく吹き出した。
「きみ自身に、自覚はないのか。本当にきみは……」
クレイユの口元に甘やかな笑みが浮かぶ。
「だが、きみにわたしのことを知っていると言ってもらえるのは嬉しいな。叶うなら、もっと深くお互いのことを知りたいものだが……」
不意にクレイユの手が、テーブルの上に置いていた俺の指先を絡めとる。
「え……?」
身を引くより早く、クレイユがテーブルに乗り出し、もう片方の手が俺の頬を包み込む。
「きみにはいつも驚かされてばかりだ。もっときみと親しくなれば、もしかしたら――」
「あ、あの……」
銀縁眼鏡の奥の蒼い瞳が、ひたと俺を見すえる。
いつもクールなクレイユとは別人のような熱を宿したまなざしに、心臓がぱくんと跳ねる。ふれられた頬が、燃えるように熱い。
魅入られたように動けないでいると、かたりと椅子を鳴らして腰を浮かせたクレイユが、さらに俺へと身を乗り出し――。
「クレイユってば、こんな時間までまだ残ってたの!?」
がちゃっ、とドアを開けると同時に響いたエキューの明るい声に、弾かれたように俺から離れ、椅子に座り直す。
「あ、れ……? えっ!? ハルシエルちゃんまで残ってたの!?」
俺の姿を見とめたエキューが、信じられないものを見たように緑の目を見開き、あわてた様子でテーブルへ駆け寄ってくる。
「陸上部の練習が終わっても、まだ生徒会室が明るかったから、僕、てっきりクレイユがひとりで居残りして作業しているんだと思って……。まさか、ハルシエルちゃんまで残っていたなんて!」
そう話すエキューが着ているのは、制服じゃなくて短パンにTシャツだ。どうやら、クラブの後、生徒会室へ直行したらしい。
ありがとうエキュー! やっぱりエキューは天使だ! なんかさっきは妙な雰囲気になってたけど……。それを破ってくれて本当にありがとうっ!
「その、うっかり生徒会室にハンカチを忘れてしまって……。取りに戻ったら、クレイユ君が一人で作業してたから、見かねて手伝っていたの」
説明すると、「そうなんだ~」とエキューが安心したように可愛らしい笑顔で頷く。
「じゃあ僕も手伝うよ! もともと、そのつもりで来たんだし!」
エキューが俺の隣に腰かける。
「クレイユってば、放っておくと一人で抱え込んじゃうんだもん。無理やりにでも手伝わないとね!」
さすがエキュー! クレイユの性格をばっちり把握してるなぁ。
「別に抱え込んでなんか……」
気まずそうに視線を泳がせたクレイユに、エキューが笑顔で頷く。
「うん! 僕が手伝いたいだけだしね! だからさ、クレイユ。何をしたらいいのか教えてよ!」
エキューはクレイユの反応にも慣れているのか、笑顔でぐいぐい押していく。
「じゃあ、これを頼めるか? やり方は……」
クレイユも、エキューには素直に頼れるらしい。
やっぱり、幼なじみの二人の間には、俺にはわからない深い絆が結ばれてるんだろうなぁ……。
うんっ、やっぱり姉貴に萌えを提供してもらうためにも、クレイユとエキューにはずっとこのまま仲良くしてもらうのが一番だよなっ!
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