222 裏庭でのサプライズ
「こ、これは……っ!?」
軽めの朝食の後、文化祭での生徒会の出し物について話し合うべく、イゼリア嬢に編み上げサンダルの履き方を丁寧に教えてもらい、全員で別荘の裏庭に出たところで、俺はそこに広がる光景に絶句した。
綺麗に手入れされた裏庭で、もふもふぴょこぴょこと
「エキューのアイデアをそのまま使わせてもらって、申し訳ない限りなんだが……」
ディオスが凛々しい眉を情けなさそうに下げる。
裏庭のあちらこちらで、もふもふと遊んでいるのは何種類ものうさぎだった。
確かに、この光景は、夏休みに入ってすぐ、エキューと体育祭のごほうびデートをした時とそっくりそのままだ。
「ハルシエル嬢もイゼリア嬢も、二人ともうさぎが好きだと聞いたものだから。きみ達が喜ぶ姿を、どうしてもこの目で見たくてね」
照れたようにリオンハルトが微笑む。
その言葉に、俺はバッと、隣のイゼリア嬢を振り向いた。
途端、イゼリア嬢が放つまぶしさに、目がくらみそうになる。
「まあっ! なんてたくさんのうさぎざん……っ!」
まんまるに見開かれたイゼリア嬢のアイスブルーの瞳は、真夏の太陽よりもきらめいている。ピンクのハートマークが次から次へとあふれる幻影まで見えそうだ。
「なんて可愛らしいんでしょう……っ!」
そうおっしゃるイゼリア嬢が、うさぎよりももっとずっと、宇宙で一番お可愛らしいです……っ!
「ほんっと――に! お可愛らしいですねっ!」
「ええっ! なんて可愛らしいうさぎさん達でしょう……っ!」
俺の言葉にイゼリア嬢が大きく頷く。
いや、俺が褒めたのはイゼリア嬢なんですけど……っ!
でも、イゼリア嬢が俺の言葉に満面の笑みで頷き返してくれたってだけで、超嬉しいっ!
それに、「うさぎ」じゃなくて「うさぎさん」って……っ! そんなところも可愛いですっ!
もうっ! どれだけ俺を萌えさせる気ですかっ!
「イゼリア嬢、行きましょう!」
今こそ千載一遇のチャンス!
感動にうち震えるイゼリア嬢の手を掴み、近くのうさぎ達に突進する。
前にも一度、イゼリア嬢と手をつないだことがあるけど、やっぱり手ちっちゃ! 指ほっそ! ハルシエルとほとんど変わらない大きさだ。
藤川陽の手だったら、握り潰してしまうんじゃないかと気が気じゃないが、非力なハルシエルなら、そんな心配はない。
「オ、オルレーヌさん?」
戸惑う声を上げるイゼリア嬢の
「どうぞ、イゼリア嬢!」
うさぎ達の前まで行くと、俺はそのうちの一匹を抱き上げ、イゼリア嬢に差し出した。
「え……っ」
イゼリア嬢の細い眉が困ったように下がる。
「わ、わたくし……。うさぎは好きですけれど、その、実際に抱っこしたことはなくて……」
ふれてみたいけれど、どうやってふれていいのかわからない。
そう言いたげに愛らしい面輪を不安で曇らせるイゼリア嬢に、俺は安心させるようににこやかに微笑んだ。
「大丈夫ですよ! 私もうさぎと遊んだのは一度だけですけれど、優しく抱っこしてあげれば、大人しくしていますよ! ほら!」
腕の中でひくひくと鼻をうごめかしているうさぎを片手で抱き直し、もう片手でイゼリア嬢の手を取る。
「こうやって、下から支えるように抱っこしてあげたら……」
二人で一緒に抱っこするように、そっとイゼリア嬢の腕の中にうさぎを下ろす。とたん、イゼリア嬢が息を飲むかすかな音が聞こえた。
「あ、あったかい……っ! それに、とくとくといっていますわ!」
イゼリア嬢が感動を抑えきれない様子で声を上げる。
「だって、生きてますもん。ぬいぐるみみたいに可愛いですけれど、ちゃんと命が宿っているんだと思うと、感動ですよね! ほら、優しく撫でてあげてください。もふもふですよ! 大丈夫、私も一緒に抱っこしてますから!」
俺の言葉に、イゼリア嬢がおずおずと、まるで壊れ物にふれるかのように、そっとうさぎの背を撫でる。
「まぁっ! なんて柔らかな毛並みなのかしら……っ!」
「ほんと、いつまででも撫でていたくなりますよね!」
抱っこされたうさぎは、鼻をひこひこさせているだけで、すこぶる大人しい。
「ふあぁ……っ」
感極まった囁き声をこぼしながら、白魚のような指先でうさぎの背を撫でていたイゼリア嬢が、ふと動きを止める。
「あ、あの……」
「はい?」
遠慮がちな声に視線を上げると、アイスブルーの瞳と、ぱちりと視線が合った。
思いがけない近さに、どきりと心臓が跳ねる。
一緒にうさぎを抱っこしてるからだけど……。こんなにイゼリア嬢と距離が近いのって初めてじゃね!?
ああっ! なんかすっごく華やかで高貴な香りがする……っ!
これってもしかしなくても、イゼリア嬢のコロンの香り!? ああっ、この空気を今すぐ真空パックにして、家へ持って帰りたい……っ!
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