223 俺は今、奇跡を目の当たりにしている……っ!


「その……」


 頬を薄紅色に染めたイゼリア嬢が、恥ずかしそうに視線を揺らす。かと思うと、ひたりと俺の目に視線を定め。


「うさぎさんを抱っこさせてくださって、あ、ありがとう……」


 瞬間。



 俺の魂が、消し飛んだ。



 ぎゃ――――っ! 何これ何コレナニコレ!?


 至近距離でじっと目を見つめて、照れながら「ありがとう」って!

 可愛すぎなんですけどっ! 可愛さが天元突破してるんですけどっ!?


 やべぇ……っ! 可愛さに撃ち抜かれて、本気で心臓が止まるかと思った……っ!


 生きてる!? ねぇ俺、息してる!?

 幸福と感動のあまり、立ったまま昇天してない!?


 奇跡だ……っ! 俺は今、奇跡を目の当たりにしている……っ!


「と、とととととんでもないですっ! せっかくの機会なのに、見ているだけなんて、もったいないと思って……っ!」


 ああっ、俺のバカっ! 何でもっと気の利いたことを言えないんだよっ!


 お礼なんて! 伏して感謝したいのは俺のほうですっ! 尊さが天まで達する萌えをありがとうございますっ!


 今日のこれを、俺、一生の宝物にします……っ!


「ほ、本当に可愛いですね……っ!」


 イゼリア嬢が! イゼリア嬢が! イゼリア嬢が可愛いんです……っ!


「ええ!」


 イゼリア嬢が花が咲くような笑みを浮かべる。


 まっ、まぶしい……っ!

 尊さのあまり、太陽の光を浴びた吸血鬼みたいに、灰になってくずれ落ちそう……っ!


 天国だ……っ! 地上のエデンがここにある……っ!


「これは……。想像を遥かに超えて素晴らしいね」


「ああ……。リオンハルトの言う通りだ。天使が……。可憐極まりない天使がいる……」


「いや~っ、これはホント、エキューにはいくら礼を言っても足りないよね♪」


「これについてはヴェリアス先輩に同意します。エキュー、ありがとう。いくら感謝しても足りないな。なんと礼を言ったらいいのか……」


「先輩方、クレイユまで……! いいえ、その……っ。せっかくの旅行ですし、ハルシエルちゃんにもイゼリア嬢にも素敵な思い出を作ってほしかったので……」


 リオンハルト達が感動したように口々に呟く声と、応じるエキューの声が聞こえる。


 うんっ! エキュー、ほんとにほんと――にありがとうっ!


 素敵な思い出をまさに今、バッチリ作れた! ほんと、いくら感謝しても足りないぜっ!


 まさか、イゼリア嬢に、微笑みながら「ありがとう」と言っていただける日が来るなんて……っ! 夢にも思わなかったぜ!


 昨日は水着姿のイゼリア嬢を拝見できただけじゃなく、二人っきりでおしゃべりすることもできたし、夜にはネグリジェ姿も見られたし……っ!


 その上、恥じらいながら「ありがとう」と言っていただけるなんて……っ!


 来てる!? 今こそ俺に、イゼリア嬢の好感度を上げるビックウェーブが来てる……っ!?


 うぉおおおっ! 千載一遇のこのチャンス、なんとしてもバッチリがっしり体当たりで掴んでみせるぜ――っ!


「どうだい? 気に入ってもらえたかな?」


「リオンハルト様! ええっ、もちろんです! こんな素晴らしいものをご用意くださったなんて、皆様に何とお礼を申し上げればいいのか……っ。ありがとうございます!」


 声をかけたリオンハルトを、イゼリア嬢が輝くような笑顔で振り返る。


 あっ、おいリオンハルト! こっち来んなっ!


 俺とイゼリア嬢のきゃっきゃうふふな好感度アゲアゲタイムを邪魔すんじゃねぇ――っ!


「ハ~ルちゃん♪ こっちのロップイヤーも可愛いぜ~♪ オレと一緒になでなでしない?」


「しませんっ! ヴェリアス先輩がひとりでなでくりまわしてたらいいじゃないですか!」


「ハルシエル。なら俺と……」


「いや、わたしと……」


「ハルシエルちゃん! 前みたいにうさぎ達のごはんも用意してるんだよ! 一緒にあげない?」


 ディオスにクレイユにエキューも! わらわら寄ってくるんじゃね――っ!


「うさぎさんのごはん!? エキュー様、何ですの、それは!? あげてみたいですわ!」


 ぎゃ――っ! 瞳をきらきらさせて食いつくイゼリア嬢、可愛すぎです――っ! 目がとけるぅ~~っ!


「じゃあ、イゼリア嬢、私と――」


「一緒にあげてみるかい? イゼリア嬢」


「はいっ、リオンハルト様!」


 リオンハルト――っ! お前っ! 本気で邪魔すんな――っ!


「ほら、ハルシエル。ここに用意してあるぞ」


「ハルちゃん、せっかくだし、オレが抱っこしてるコにあげてよ♪ ほら~、待ってるよ~?」


 ああもうっ! 他のイケメンどもも割って入ってくんな――っ!


 俺はっ! イゼリア嬢ときゃっきゃうふふしたいんだよ――っ!

 本気で頼むから、俺のビックウェーブを遮るなぁ――っ!


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