210 バカバカ、俺の大バカ野郎――っ!
「じゃあ、次は僕が出題者ですね!」
エキューの声にはっと我に返る。
今は姉貴なんぞにかまっている暇はねぇっ!
ディオスはああ言ってたけど、俺はイゼリア嬢のお隣を散歩できるかもしれないチャンスを無駄にする気はないぜ……っ!
ディオスがのんびり構えているなら、むしろ好都合! ライバルがひとり減ったも同じだもんな! ありがとうディオス!
ちらりと他の面々を見回すが、みんな真剣な表情でテーブルの上のカードを見つめている。
負けず嫌いのクレイユなんて、銀縁眼鏡の奥の蒼い瞳が底光りしているようで、怖いくらいだ。
くそぅ、みんなやる気満々かよ……っ。いいんだぞ!? もっと気軽に考えて手を抜いてくれたって!
「じゃあ、行きますね!」
元気のよいエキューの声に、反射的に顔を上げる。
視線が合ったエキューがにこりと微笑み。
「きみの可愛い笑顔を見られるなら、僕、絶対に一位を獲ってみせるよ!」
「っ!?」
ああああぁ~っ! 俺のバカ! 超おバカ!
なんでつい出題者を見ちゃうんだよっ!?
っていうか、いちいち反応するなっ、俺の心臓――っ!
なんで俺の意思とは無関係に、いちいちイケメンどもの出題に反応しちゃうんだよっ!? おかげで毎回出遅れてるじゃねーか!
出題者の顔を見るな! カードだけ見て集中しろ、俺……っ!
ああっ、でも次の出題者はイゼリア嬢!
イゼリア嬢がどんなお顔で出題するのかは、ばっちり見て脳内のイゼリア嬢メモリーに永久保存しなくては……っ!
エキューの出題をクレイユが淡々と正解したのを横目に、俺は拳を握りしめて気合いをこめる。
さあ、イゼリア嬢! どんな出題でもばっちこいです! 一字一句のお言葉だけじゃなく、表情から視線のひとつひとつまで、きっちり記憶に刻み込んでみせます!
イゼリア嬢の白魚のような手が、優雅な所作で読み札を手に取る。
細く形良い眉をわずかにひそめて黙考し。
「いつか……。あなたにふさわしい、立派なレディーになってみせますわ」
アイスブルーの瞳に真摯な光を宿して、イゼリア嬢が告げる。
う、美しい……っ! 凛と告げるお姿が美しすぎます!
心配ご無用です! イゼリア嬢はもう、三百六十度どこから見ても完全完璧な淑女ですっ! むしろ、イゼリア嬢の隣に並び立てる存在になれるよう、俺こそが精進しなくては……っ!
――はっ! もしかしてこれはっ!
遠回しに俺に頑張れと言ってくださっている……っ!?
ぎゃ――っ! なんて光栄なんだっ! 嬉しすぎる――っ!
もう感動で涙がにじみそうです!
イゼリア嬢のメッセージは、しっかりがっちりきっちり、心に刻み込みましたっ!
ゲームにことよせて伝えてくださるなんて、ツンデレなイゼリア嬢らしい……っ!
俺、これからももっともっと頑張ります! イゼリア嬢のお隣に並ぶにふさわしい存在になれるように!
俺が決意を新たにしている間に、クレイユがカードを取ってしまう。
ああっ、取られてしまった……っ!
いやでも、今回ばかりは悔いはないっ!
なんてったって、イゼリア嬢のお言葉が、夜空に輝く一番星のように、俺の胸に宿って輝いているもんな……っ!
イゼリア嬢! カードは取れませんでしたが、お言葉は俺の心にしっかり刻み込みましたからっ!
一週目、ラストの出題者はヴェリアスだ。
よしっ、次こそカードをじっくり観察して……。
「おっ、ハルちゃんってば、ちょー気合い入ってるね~♪」
からかい混じりのヴェリアスの声に、思わず顔を上げてしまう。その瞬間。
「可愛いきみを見てたら、悪戯したくなっちゃうな~♪ キスでもしちゃう?」
「っ!?」
に、と楽しげに唇を吊り上げたヴェリアスが、とんでもない台詞を吐く。
バカ――っ! 俺の大バカ野郎――っ! なんでヴェリアスの顔を見ちゃったんだよ――っ!
っていうかキスってなんだよっ!? そんな言葉、ゲームであっても、サラッと言うんじゃね――っ! 心臓に悪すぎるだろっ!?
ヤ、ヤバイ……っ! 俺に向けて言ったんじゃないってわかってるのに、ばっちり目が合ったせいで、胸のどきどきがおさまらねぇ……っ!
顔が熱を持って仕方がない。
っていうかヴェリアス! なんでピンポイントで俺の邪魔をするんだよっ!?
邪魔するんなら、今のとこ一番ポイントの多いクレイユとかにしておけよっ!
絶対、嫌がらせ以外の何物でもないだろ、これ……っ!
イゼリア嬢が出題者の時以外は、もう絶対に顔なんか上げるか――っ!
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