209 開始早々マイナスの危機!?


「次はわたしだね」


 俺の右隣に座るリオンハルトが読み札を手に取る。


 よしこい! 次こそ取ってみせるぜ!


 じっ、とテーブルのカードを注視する。

 全部きらきらしいイラストな上に、枚数も多いから……。少しでも取り札の場所を頭に叩き込んでおくのが、高得点を取る鍵だろう。


 全員、同じことを考えているのか、メンバー全員が唇を引き結び、真剣な表情でテーブルに並べられたカードを見つめている。


 緊張に張りつめた空気を破るかのように。


「綺麗なのは、ドレスではなく、きみ自身だ。……本当に、とりこになってしまうほど、愛らしい」


 リオンハルトの甘やかな声が、すぐ隣で響く。


 おまっ! それ、王宮の薔薇園のお茶会の時の台詞じゃねーか――っ!


 心の中でツッコんだ分、一拍出遅れる。


「はいっ!」

「これかしら?」


 エキューとイゼリア嬢が、ほぼ同時にそれぞれ別のカードをタッチした。


 二人のカードを見比べたリオンハルトが、

「残念だったね、エキュー。イゼリア嬢のほうが正解だ」

 と、自分が手にしていた読み札を見せる。


 エキューが選んだカードもイゼリア嬢が選んだカードも、男性が女性に手を差し伸べ、話しかけている絵柄が書かれているけれど……。


 イゼリア嬢のカードのほうがドレスっぽくて、エキューのカードはワンピースっぽい感じだ。でもエキューがこれを選んだ気持ちもわかる。俺だって、目の前にこのカードがあったら迷わず取っていただろう。


 このゲーム、思ったより難易度が高いかも!?


「次はハルシエル嬢の番だよ」


 リオンハルトにうながされ、自分の番だとはっと気づく。


「昼間のゲームと違って、今回は制限時間はないからね。ゆっくり考えてくれてかまわないよ」


 読み札に手を伸ばした俺にリオンハルトが優しく言ってくれる。


「ありがとうございます……」

 礼を言いながら読み札をめくる。


 そこに描かれていたのは、学生服の美少年が窓から校庭らしき場所を見下ろしているイラストだった。切なげな少年の視線の先には、友人と微笑みながら帰る女生徒の姿がある。


 よっし! これなら俺でもなんとか思いつけそう! ええっと……。


「あなたの姿を見るだけで、切なさに胸が締めつけられるんです!」


 きゃ――っ! 言っちゃった! しかも、イゼリア嬢をばっちり見つめながら言っちゃったぜ――っ!


 イゼリア嬢の反応を確認するより早く。


「はいっ!」

「これ、だろうか?」

「これっかな~?」


 エキュー、リオンハルト、ヴェリアスの三人が、それぞれ別のカードをタッチする。俺は三人の手元を確認し。


「三人とも、不正解です」


「そんなぁ~っ」

「わたしとしたことが……」

「え~っ! 絶対コレだと思ったのに~!」


 三人が三者三様に肩を落とす。


 おいっ、お前ら三人とも不正解かよ!

 ヤバイ……っ! このゲーム、正解したら、取り札を取ったプレイヤーと読み手に、それぞれ一点ずつ入るんだよな!?


 それで、誰も正解者が出なかったら、マイナス一点……っ! 開始早々、マイナスに突入してしまう……っ! それだけは……っ!


 イゼリア嬢~っ! なんとしても正解してください~っ! 正解はほら、そこの真ん中あたりの……っ!


「正解は、このカードだろう?」

 ぱしっとクレイユの手が正解のカードを押さえる。


 おおっ! ありがとう、クレイユ! これで俺も一点ゲットだぜ!


 でも、可能ならイゼリア嬢に正解してほしかった……っ! くそーっ、俺のポンコツテレパシーめ……っ!


「次はわたしですね」


 俺の左隣のクレイユが読み札を手に取る。俺を見たクレイユが、薄い唇を思わせぶりに吊り上げ、笑みを刻んだかと思うと。


「きみを思って手紙を書く時間は至福だが……。早く、直接告げたいものだ」


「っ!?」

 思わず心臓がぱくりと跳ねる。


 お、落ち着け俺! 別に俺に向けて言ったってワケじゃ――、


「はいっ! 今度こそ当たりだよね!?」

 エキューが勢いよく一枚のカードにタッチする。


「ああ、それが正解だ」

「やった~っ!」


「あーっ! そのカード、取ろうと思ったのに!」

 ヴェリアスが悔しげに歯噛みする。


「スピード勝負なら、ヴェリアス先輩にだって負けませんから!」

 エキューがえっへんと胸を反らせる。


 ほんと、エキューはほぼ毎回、一番にタッチしてるもんな。ただ……。


「確かに、エキューのスピードは見事だな。正答率が問題点ではあるが……」


 ディオスの呟きに、エキューがうぐ、と声を詰まらせる。


 おおっ!? まさかここで、いつも穏やかなディオスからダメ出しされるとは! これは意外!


 と、ディオスが包み込むような穏やかな笑みを浮かべる。


「きっとエキューの本領が発揮されるのは、取り札が少なくなってからだろうな。選択肢が減れば、おのずとお手つきも減るだろうから、これは俺もうかうかしていられないな」


「ディオス先輩……っ! アドバイスありがとうございます!」

 沈んでいたエキューの顔がぱあっと輝く。


「ちょっとー、ディオス。敵に対して塩を送ることないじゃん~」

 不満そうに唇をとがらせたのはヴェリアスだ。


「いや、そんなつもりはなかったんだが……。それに、勝負事とはいえ、その前にゲームなんだから、アドバイスをしても悪くはないだろう?」


 ディオスが困ったように苦笑する。


 さすが、人間ができてるディオス!

 いいなぁ、この穏やかさ。癒される……。


 観戦してる姉貴だって、にこにこ笑顔で……。って、いや。


 あのにやけ顔は、絶対、ディオス×エキューとか、ロクでもねぇコト考えてやがるな……。


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