208 いざ開戦! 『ときめき♡エチュード』!
「同じ絵柄のカードが二セットあるんですね」
姉貴が広げてみせたカードを見たリオンハルトが呟く。
「そう。こちらの青い縁取りのカードが取り札で、赤い縁取りのカードが読み札だ」
リオンハルトが言う通り、まったく同じ絵柄で、縁取りの色だけ違うカードが一組ずつある。
って、姉貴は読み札って言ったけど……。
「理事長。どこにも文字が書かれていませんが……?」
ディオスが遠慮がちに問いかける。
だよなっ!? どう見ても白黒のイラストだけで、文字なんて背景に書かれている「どきっ♡」だの、「とくんっ」だの「きゅん♡」ってヤツしかないよなっ!? 文字が入っていないイラストだってあるし。
っていうか、少女漫画のハイライトの一コマばっかり集めたようなこのカードはいったい何なんだよ……。
「そう! 読み札に文字が書かれていない点が、このカルタの面白いところでね!」
姉貴が顔を輝かせて身を乗り出す。
「
「なるほど。これは確かに、変わり種のカルタですね……」
「エチュードというタイトルがぴったりですね!」
口々に呟いたクレイユとエキューに、姉貴が満面の笑みで頷く。
「二学期には文化祭もあるからね。生徒会の面々で劇をするし、演技力を磨くのにもちょうどよいだろう?」
「なるほど……!」
純真なエキューが感心した声を上げる。
だまされるな、エキュー!
弟である俺には、姉貴の目論見が手に取るようにわかる。
口では「演技力を磨くため」なんて言ってるけど、本心ではイケメンどもの甘い台詞を聞きたいだけだ! この腐女子大魔王は! 絶対、そうに決まってる!
きっと、行きのバスでボードゲームを出してきたのも、『ときめき♡エチュード』をプレイするための布石だったに違いない。
いきなり、こんなゲームをしようと提案したら、もしかしたら引いていたかもしれないが、今日はすでにいくつかのゲームをプレイして、ボードゲームの楽しさを味わっている。
ちょっと毛色が変わってゲームでも、まあやってみようかと思う公算が高い。
しかも、ご褒美つきでやる気を
「せっかくの機会だ。きみ達の熱演を見られるのを期待しているよ!」
姉貴が期待に目を輝かせて告げる。
ほら! やっぱりイケメンどもに合法的に甘い台詞を吐かせる気満々だっ!
ついでに、それをシノさんにばっちり録画させる気だろ!? 食器を下げに行ったまま、帰ってこねぇし……っ!
恐ろしい……っ! 我が姉ながら、なんて深慮遠謀だ……っ!
いやでも、これは俺にとってもチャンス!?
午前中の「にゃーにゃー」に続き、イゼリア嬢のときめく台詞が聞けちゃう……っ!?
うぉおおおおっ! がぜんやる気になってきた!
なんとしても一位を獲って、イゼリア嬢のお隣で散歩する権利を手に入れてやる――っ!
「では、さっそく始めようか。順番はじゃんけんで勝った人から時計回りでよいね?」
姉貴のかけ声でじゃんけんをし、順番を決める。
一番手になったのはディオスだった。
「では、いくぞ」
ディオスが緊張した面持ちで、読み札を一枚手に取る。
何と台詞を言うのか、考えているのだろう。精悍な面輪が悩ましげにしかめられる。
ふと、視線を上げた緑の瞳とぱちりと視線が合い。
「……きみだけの王子様になりたい」
「っ!?」
真っ直ぐな視線で告げられた言葉に、俺に向けられた言葉じゃないのに、ぱくんと心臓が跳ねる。
落ち着け俺! ディオスの言葉は、ゲームの読み札として言われた台詞であって、たまたま目が合った俺に言ったワケじゃない! 反応するなんて、自意識過剰すぎるだろっ!
それよりも、早く正解の取り札を探し――、
「見っけ! これが正解じゃない?」
ヴェリアスが自分の近くにあった取り札の一枚をタッチする。
一目で王子だとわかる冠をつけた美青年が、片膝立ちになって、目の前のお姫様に片手を差し伸べて語りかけているイラストが描かれた札だ。
ヴェリアスの札を確認したディオスが、「正解だ」と頷く。
「やった♪ ラッキー♪」
ヴェリアスがいそいそと取り札を裏返して自分の手元に置く。ディオスも取り札を手元に置いた。
ちゃんと正解者が出たので、これでティオスとヴェリアスに一ポイントずつ入ったことになる。札の数がそのままポイントになるのだ。
くそっ! 出遅れてヴェリアスに先取点をゲットされた……っ!
いやでもまだカードは五十枚以上あるし、ヴェリアスはたまたま自分の前にあったカードだから気づいただけだろうし!
勝負はまだまだこれからだっ!
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