192 おいっ! ヒントがピンポイント過ぎるだろ!?


 シノさんがまた新しくカードを並べる。今度は、詩集、靴、ラジオ、風邪、ポニー、倉庫の七枚だ。


「じゃあ、次はオレの番かな~♪」


 ヴェリアスがわくわくした様子でシノさんから出題カードを受け取る。


 すげーな、ヴェリアス。よくわくわくできるよなぁ……。いざ、俺がヒントを言う段になったら、がっちがちに緊張して、頭が動かなさそうだ。


「じゃ、いっくぜ~♪」


 うきうきと告げたヴェリアスが出題カードを確認する。

 瞬間、ヴェリアスの唇が楽しげに吊り上がった。


 こちらに視線を向けたヴェリアスと、ぱちりと目が合う。


 な、なんだよ!? その意味ありげな笑顔は!?


「そ~だな~♪ オレのヒントは、探し物、ぱたぱた、おそろい、かなっ♪」


 ヒントを聞いた瞬間、ヴェリアスの意味深な笑みの理由を知る。


 ってゆーか、ヴェリアス! それ、『ラ・ロマイエル恋愛詩集』を探しに図書館に行った時のことだろ――っ!?


 そんなピンポイントなヒント、俺しか気づかねぇじゃねーかっ!? もしかして、これってそういうゲームなの!?


 シノさんに促され、相談タイムに入る。


「あのぅ……」


 悩ましげな表情をしているディオスとエキューに、おずおずと挙手する。


「さっきのヴェリアス先輩のヒント……。私だけにわかるように出したみたいなので、答え、わかりました……」


「えっ!? ハルちゃんわかったの!?」

 エキューが驚いた声を上げる。


「そうか……。ハルシエルだけに……」


 ディオスが難しい顔つきでうなる。


 だよな!?

 ひとりにしかわからないヒントってどうなんだよっ!? って思うよなっ!?


 いやまあ、ディオスのヒントもたいがいピンポイントだった気がするけど……。


「相談タイムは終了です。よろしいですか?」


 シノさんの言葉に、星組の面々も難しい表情で頷く。


  今のヒントじゃ「詩集」ってわかりようがないよな……。敵ながら同情するぜ。


 「せーの」で俺とリオンハルトが同時に指をさす。

 俺が選んだのは「詩集」で、リオンハルトが選んだカードは「靴」だった。


「正解は詩集でした~♪ 靴はNGワードだよ♪」


 ヴェリアスが出題カードをひらひらさせる。


「そうだったか……。見事に引っかかったよ。ハルシエル嬢はよくわかったね」


 少し悔しそうに呟いたリオンハルトが、だが俺には感心したように微笑みかける。


 体育祭の時も思ったけど、負けても相手の健闘を称えられるリオンハルトの器の大きさは、ほんと感心する。


「だって、オレとハルちゃんはおそろいだもんね♪」


 ヴェリアスが楽しげに俺にウィンクしてくる。


「いえ、違いますから! ヴェリアス先輩とはおそろいじゃないです! おそろいなのはイゼリア嬢とですから!」


 変な誤解をされてはかなわない。はっきりきっぱり訂正する。


「わたくし……?」

 イゼリア嬢がいぶかしげに眉をひそめた。


「そうです! その、イゼリア嬢が以前、読まれていた『ラ・ロマイエル恋愛詩集』なんですけれど……。私も図書館で借りて読んでいるんです!」


 旅行の時に、詩集をダシにお近づきになろうと思ってたけど……。せっかく詩集のことが出た今がチャンスだ!


 ヴェリアスのせいで変な誤解を受けないためにも、ここぞとばかりにアピールする。


「切なくなるような素敵な詩がいっぱいで、ぜひイゼリア嬢と感想を話し合えたら光栄だと……っ!」


「『ラ・ロマイエル恋愛詩集』には、確かに素敵な詩がたくさんあるね」


 リオンハルトが甘やかに微笑んで口をはさんでくる。

 おいリオンハルト! 余計なくちばしを突っ込んでくんなっ!


「そうですわよね! 有名な詩集ですもの。リオンハルト様も読まれてらっしゃったのですね」


 イゼリア嬢が輝くような笑顔をリオンハルトに向ける。

 レアなイゼリア嬢の満面の笑みを見られたのは嬉しい! けど……っ。


「修辞もらされていて、なかなか勉強になりました」


 真面目くさった顔つきで口を開いたのはクレイユだ。


 夏休み前に、『ラ・ロマイエル恋愛詩集』を読みたいって、「くだらない」と吐き捨てていたクレイユと同一人物とは思えないことを言ってたけど……。ほんとに読んだのかよっ!?


 驚いたのは俺だけじゃなかったらしい、


「へぇ~♪ クレイユが恋愛詩集を読んだんだ~♪ こりゃ、嵐が来るかもね~♪」


 意外そうな声を上げたヴェリアスが、にやにやとからかい混じりの声を上げる。


 おいヴェリアス。俺も同感だけど、そんな言い方をしたら面倒くさい性格のクレイユがまた……。


「さまざまな知識を蓄えることは悪いことではないと思いますが?」


 クレイユが銀縁眼鏡の奥の蒼い目をすがめてヴェリアスをにらみつける。


「リオンハルト先輩やイゼリア嬢も読んでらっしゃいますし、わたしだって読んでいる。ヴェリアス先輩の「おそろい」発言は、不適切ですね」


「もちろん俺も読んでいるぞ」

「僕だって読んでいます!」


 負けじとディオスとエキューも割って入ってくる。


 つまり、生徒会メンバー全員かよっ!? すげー。ディオスが言っていた通り、ほんとに有名な詩集なんだなぁ……。


「そうか……。みんなが読んでいるのなら、近々、『ラ・ロマイエル恋愛詩集』を語る会を開いてもいいかもしれないね」


 リオンハルトが微笑んで提案する。


 却下――っ!

 詩を語り合うのは、俺がイゼリア嬢と二人っきりでやるから!


 お前達は混ざってくんなっ! イケメンどもと語り合う気はねぇっ!


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