191 星組、花組でいざ、対戦!


 シノさんがテーブルの上に並べた単語カードは自転車、シーソー、雷、写真、夕焼け、あめ、傘の七枚だった。


「こちらが出題カードです」


 ストップウォッチを片手に、シノさんが出題カードをディオスに差し出す。


 自分がヒントを言うわけでもないのに、俺は思わずごくりとつばを飲みこんでディオスに渡されたカードを見た。


 と、出題カードを確認したディオスとぱちりと目が合う。一瞬、ディオスの口元に浮かんだ甘やかな笑みに、ぱくりと心臓が跳ねる。


「っ!?」


 ディオスの笑みの真意をはかりかねている間に。


「思い出、どきどき、二人乗り」

 ディオスが穏やかな声でヒントを告げる。


「さあ、両チームとも正解は何か、二分以内に相談し合って決めてください」

 シノさんの声に、あわててヴェリアス、エキューの二人と顔を寄せ合う。


「二人乗りっていえば、コレなんだけどさぁ……」


 ヴェリアスが手元の紙に手早く「自転車」と書く。


 相手チームに推理が伝わらないよう筆談できるように、各人にはメモとペンが配られている。


「でも、ディオス先輩が相手チームにあっさり伝わるヒントを出すとは……。これも、二人乗りといえば二人乗りですけど……」


 エキューがメモに「シーソー」と書いた。


「思い出っていったらコレだけどなぁ……。でも、どきどきはともかく、二人乗りっていうのが……」


 ヴェリアスが「写真」と書いて、やっぱりやめたと言わんばかりに斜線を引く。


「ハルちゃんはどう? 何か思いついた?」

 ヴェリアスの紅の瞳がちらりと俺を見る。


「あのぅ、私、わかったかもしれません……」


 おずおずと答えると、「ええっ!?」と声をハモらせたヴェリアスとエキューがずいっと身を乗り出した。


 近い! 近いよ二人とも! ただでさえ近いんだから、くっついてくんなっ!


「ほんとにっ!? すごいね、ハルちゃん!」


「じゃあ、オレもエキューも決め手に欠けるし、ハルちゃんの意見を採用ってコトで♪」


「ええっ!? でも、ふと思いついただけで……っ」


「残り十秒です」

 シノさんが淡々と告げる。


「いーからいーから♪ 楽しんだもの勝ちのゲームなんだし、ハルちゃんの勘を信じて、気楽にいこうぜ♪」


 ヴェリアスがウィンクしたところで、「終了です」とシノさんの声がかかる。


「では、両チームとも、正解だと思う単語カードを、同時に指でさしてください」


「ハルちゃん、任せたよ♪」


 ヴェリアスに背中を押され、覚悟を決める。

 せーの、で俺とリオンハルトが同時に指さしたのは。


 リオンハルトが「自転車」、俺が「雷」だった。


「雷……?」


 星組の四人どころか、ヴェリアスとエキューまで不思議そうな声を上げる。


 ぎゃ――っ! 直感で「雷」だって思ったけど、やっぱり間違ってたのか!?


「ディオス様、正解をどうぞ」


 シノさんに促されたディオスが、にこりと微笑む。


「ハルシエル、当ててくれて嬉しいよ」


 ディオスがテーブルの上に開示した出題カードには、「雷」の位置に〇印がついていた。


「すごい! ハルシエルちゃん、よくわかったね!」

 エキューが弾んだ声を上げる。


「どうして雷だってわかったの?」


「えっ、その……。ほら、ディオス先輩の愛馬は「エクレール」号だから、もしかしたら、って……」


「なるほど~!」

 エキューが感心したように頷く。


 ってゆーかディオス! 二人乗りも、その時に打ち明けられた思い出話も、当事者の俺しかわかんねーじゃねぇか! ピンポイントすぎるヒントはやめろ――っ!


「次はこちらの番だね」


 テーブルに新たに七枚のカードが並べられ、リオンハルトがシノさんから出題カードを受け取る。


 テーブルに並べられているカードは、童話、緑、火山、モデル、薔薇、宝石、ハンカチの七枚だ。


 ぺらりと出題カードをほんの数秒、黙考したかと思うと。


「妖精、うっとり、ドレス、だね」

 とヒントを出す。


 うわっ、早いな! さすがリオンハルトだ。


「では、両チームとも二分間で話し合ってください」


 シノさんの声と同時に、ピッとなったストップウォッチの音に我に返る。


 えーと、ヒントが妖精とうっとりとドレスで……。


「これは十中八九、アレだろう」

「そうですよね!」

「このヒントでアレ以外だったら、びっくりだよね♪」


 悩む俺とは対照的に、ディオスとヴェリアス、エキューの三人は、何やら確信を持った表情でうんうんと頷き合っている。


 えっ!? 三人とももうわかったのかよ!? すごいな!


「みなさんは、もう正解が何かわかったんですか……?」


 呆れられるかもしれないと思いつつ、おずおずと尋ねると、三人の視線が俺に集中した。

 まなざしの強さに、思わずひるみそうになる。


「えっ!? ハルちゃんわかってないの!?」


 信じられないとばかりに声を上げたのはヴェリアスだ。


「す、すみません……。さっぱり……」


 なんとなく、童話かなぁ、とは思うんだけど……。でも、勘なのでこんなに自信満々のディオス達には言いづらい。間違ってても恥ずかしいし……。


 ぺこりと頭を下げて謝ると、


「いや、気にすることはない」

 とディオスに慰められた。


天真爛漫てんしんらんまんなところも、きみの魅力のひとつだからな……」


「はい?」


 ますます意味がわからない。が、聞き返す前に、シノさんが相談タイムの終了を告げる。


「じゃあ、今回の回答は、ディオス先輩達にお任せしますね」


「では、両チームとも、正解だと思う単語をさしてください」


 シノさんの言葉に、ディオスとクレイユが同時にさしたのは「薔薇」だった。


「正解だよ」


 敵チームである花組にも当てられたにもかかわらず、出題カードをみんなに見えるように提示しながら、リオンハルトが優雅に微笑む。


「ヒントが簡単すぎたかもしれないね。でも、とっさにそれ以外の言葉が思い浮かばなくてね」


 リオンハルトの言葉に、なぜかイケメンどもがうんうんと力強い同意の頷きを返す。


 なんだろう? この敵味方の関係を越えた連帯感は……?


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