190 プレイする前から敗北宣言ですの?


「設定としては、ある日、この星に宇宙人がやって来たんだ。わたし達はチームごとに別の国の言語学者でね。相手のチームに悟られないようにしながら、いかに多くの単語を訳すことができるかを競うゲームなんだ」


「は、はい……」

 なんだか大仰な設定に緊張する。


 と、リオンハルトがくすりと笑みをこぼした。


「大丈夫だよ。簡単なパーティーゲームだから。やってみればすぐにわかる。まずは単語カードをテーブルに七枚並べるんだ」


 言いながら、リオンハルトがシャッフルしたカードを二枚、二枚、三枚と合計七枚、テーブルの上に並べる。そこには マグカップ、車、上級者、リボン、古書、テスト、まな板、と一枚につきひとつずつの単語が書かれていた。


「各チームから順番に一人が出題者となって、この七つの単語の中から、指定されたお題を他のチームメイトに当ててもらえるよう、ヒントを出すんだ。お題は、この出題カードでランダムに指定される」


 リオンハルトが単語カードより一回り大きい別のカードを一枚めくる。


 そこには、リオンハルトが並べた通りのカードの配置通りの七個の四角形と、その中のひとつに〇が、ひとつに×が書かれていた。


 〇が書かれているのは「リボン」の場所で×が書かれているのは「まな板」の場所だ。


「この〇が書かれている位置にある単語が、チームメイトに伝えないといけないお題ということですよね? この×印は……?」


「それはNGワードだよ。もしNGワードを選んでしまうと、減点になるんだ」

 俺の質問にリオンハルトが答える。


「出題者は、出題カードを引いてから、一分以内に三つの単語をヒントとして出して、チームメイトにお題を当ててもらわないといけない。今回でいうと、リボンがお題だから……」


 リオンハルトが俺を振り向いてにこりと微笑む。


「ハルシエル嬢だったら、どんなヒントを出すかな? ああ、ヒントを出す時は、一分以内に出すことの他に、もうひとつルールがあって、ヒントの中のひとつは、必ずオノマトペじゃないといけないんだ。ピカピカとか、ガラガラとか、コケコッコーとかね」


「は、はあ……」


 リオンハルトの口から「コケコッコー」っていうのは、なんかこう、ギャップがすごいな……。


 いやでもこのルール、もしかして、運がよかったらイゼリア嬢の「わんわん」とか「ぴよぴよ」とか聞けたりする!? それは萌えるっ!


「ハルシエル嬢? 今は練習だから、ゆっくり考えてくれたらいいからね」


「あっ、はい。えーと、お題はリボンですよね……」

 妄想の世界に浸りそうになっていた俺は、リオンハルトの声に我に返る。


 えっと、リボンだよな。リボンだと……。


「ひらひら、長い、頭……。とかですか……?」


「そうそう。そんな感じだよ。でも、それだと相手チームにもすぐにお題がわかってしまうから……」


「わかりましたわ! リオンハルト様!」


 俺と一緒に真剣な面持ちで説明を聞いていたイゼリア嬢が、はずんだ声を上げる。


「レース、長い、つやつや、のようにわかりにくく言えばいいんですのね!」


「その通りだよ。「レース」だと、レースのリボンとも、車のレースとも、ダブルミーニングでどちらにもとれるからね。相手チームもお題に正解すると、そちらにも点数が入ってしまう。そのジレンマを抱えながら、どうやったら味方だけに通じるヒントを出せるか……。そこがポイントだね」


「なるほど……。一分間の間に、いろいろ考えてヒントを出さないといけないんですね……。私なんかにできるでしょうか……」


 思わず弱音がこぼれ出る。


 前世は高校三年生だったおかげで、テストはいい点を取れているものの、俺自身はリオンハルト達みたいに頭の回転が速いわけじゃないからなぁ……。


「あら。リオンハルト様が丁寧に説明してくださったというのに、オルレーヌさんったら、プレイする前から敗北宣言ですの? 情けないことですわね!」


 おーっほっほ! とイゼリア嬢が高笑いを上げる。


 うううっ、イゼリア嬢に情けない奴だなんて思われたくない……っ! ここは頑張るしか……っ!


 と、不意に両手をあたたかなものに包まれた。


「大丈夫だよ、ハルシエルちゃん! 心配しないで。チーム戦なんだから、僕達がちゃんとフォローするよ!」


 俺の手を握り、力強く宣言したのはエキューだ。


「毎回、テストでわたしと張り合っているきみが、この程度のゲームができないはずがないだろう。安心するといい」


 挑発なのか嫌味なのか判然としない台詞を吐いたのはクレイユだ。


 喧嘩けんかを売っているのかと勘違いしかねない言い方だが、照れたようにふいとそっぽを向いたところを見るに、クレイユなりの励ましのつもりらしい。


 いや、俺としてはむしろ、喧嘩を売ってくれてるほうがいいんだけどなっ!?


「大丈夫だ、ハルシエル。みんなで楽しむパーティゲームなんだから、勝ち負けなんかにこだわる必要はない。肩の力を抜いて楽しもう」


 穏やかに語りかけてくれたのはディオスだ。


「そーだよ、ハルちゃん♪ オレがハルちゃんだけにわかるようにヒントを出してあげるからさ♪」


「いえ、ヴェリアス先輩、それはダメでしょう! ちゃんと他のチームメイトにもわかるヒントにしてくれないと困ります!」


 ぱちんとウィンクしたヴェリアスに思わずツッコむ。


 イケメンどもの言葉を聞いていると、あまり気負わなくていい気がしてきた。そうだよな、うん! 楽しだ者勝ちだよな!


「では、僭越せんえつながらわたくしがタイムキーパーなどをさせていただきます」


 チームで話し合いをするので、チームごとに座ったほうがプレイしやすいということで、星組プラス姉貴と、花組に分かれて対面のソファーに座ったところで、シノさんが間にやってくる。


 出題者が二巡したところでゲームが終了し、得点の高かったほうのチームが勝者になるそうだ。

 星組と花組のリーダーだったリオンハルトとディオスがじゃんけんをし、花組が先手になる。


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